みなさん、こんにちは。
今回からは、応用編として、精神科訪問看護をもっと好きになってもらうための大ワザちょいワザを、場面別に書いていきたいと思います。きっとみなさんが経験したことのある場面もあると思います。

まずは、支援者が困る場面ダントツ1位
「『死にたい……』と利用者さんから打ち明けられたときにどうするのか」
です。

ええ!! そんな重い話をされても私1人じゃ抱えきれない

私は長い間、精神科看護業界に身を置いていますが、そんな私にも新人の時代がありました。ある日、患者さんが「……もう生きていてもしんどいので、死にたいくらいですよ」と私に打ち明けてくれました。

「えええ!!! どうないしよう……。固まって返事ができない。重いけど、でもなんとかそんなこと言わずに生きてほしい」と思いました。その言葉の背景もわからずに、「…………でも………死ぬなんて……」としか返事ができなかったのです。専門職としてまったくダメなお返事でした。

ほかの看護師さんはなんて返事をしているの?

新人のときは、先輩の話の仕かたや返事の方法などを見て覚えていました。今のように対話の効果などについてもとくに教わらず、見よう見まねでやっていました。先輩たちの多くは「そんなこと言わんと!がんばりな」など、患者さんを叱咤激励することが多かったように思います。でも果たしてこれでいいのか?と思いながら仕事をしていました。

ロールプレイをする経験

5年目のころ、看護研究をすることになりました。患者さんとの会話の技術をみんなでシェアしたい、みんなで看護技術を向上していきたいという気持ちが強かったので、お互いが患者さん役、看護師役になり、場面を設定してのロールプレイを定期的に行うことにしました。それに参加して、看護師のモチベーションの変化を研究することにしたのです。

そのとき、「死にたいと告白されたときにどうするのか」という場面も行いました。いろいろな対応がありましたが、自分が患者さん役をしたときに、声のトーンを落として「ああ、そうですか……そう思うのですね」と、ただ黙ってそばにいてくれた看護師さんが心地よかったという経験をしました。声のトーンと小さい声で目線の高さも合わせてくれたのです。しっかりと受け止められていると感じました。

そのときに、「会話の内容よりも看護師の態度が大きく印象を占めているのでは」と思ったのです。私生活でも、落ち込んだときに「それは気のせいじゃないか」や「まあ早く忘れて次に行こう」と言われても、もやもやしますよね。それよりも、「そっか、たいへんだったね」や「つらいよね」と静かに言ってくれて、そばにいてくれることのほうが、よりいっそう心地よく感じたこと、だれにもあると思います。

大事な場面でそばに居てくれるということは、非常に大切です。死にたいという発言のときも、そこにいる覚悟を決めていっしょにいることが、なによりも大事なことです。

死にたいという発言の裏にあることは

まず、「死にたい」という発言の裏には、「生きたい」があることを知っておくとよいと思います。「死にたいと言うこと」は、「生きたい!生きたいけどどう生きたらよいのかわからない」「生きたいけど生きることがつらい、たいへんなんだ」という想いを抱えていることが多いです。

ただ、「『死ぬ』って口に出して言う人は死なないよ」ということを言う人もいますが、本当に実行されることもあるので、重く受け止める必要はあります。

「死にたい」と告白されたときに私が確認する4つのこと

訪問看護で多くの利用者さんを回っていると、ときに「死のうと考えています」とお話される方がいます。そんなとき、私はたじろがずに「覚悟と責任を持ってしっかりと聞く」というスイッチを、自分のなかでONにします。

まずは、「生きたいけど、死ぬことを選ぶぐらいつらい」というその方の気持ちを、しっかりと受け止めてきちんと話題にします。こわくて話題にできないという支援者の話もよく聞きますが、しっかりと向き合うことが大事です。

なぜそう思うのかもしっかりと傾聴します。この時間はきちんと取ります。なにを言ったらよいかわからないときは、「そうなんですね」「そう思ったのですね」でよいと思います。その話題を避けるような、身をひるがえすような態度は、せっかく大事なことを言ってくれているのに、相手に失望されることもあります。

「実際に死ぬ計画をしているのか」
「方法の道具などは考えているのか」
「いつ決行しようと思っているのか」
「過去に実行したこと、しようとしたことはあるか」

の4つを必ず確認します。この4つがそろうと相当リスクが高いので、入院治療につなげます。

気持ちをしっかりと受け止めて、「そんなこと言わないで、がんばろう」は、間違っても言わないでくださいね。

疑問「訪問看護の場面で、その人を置いて帰ってもよいのか」

みなさん、これはかなり迷われますよね。前述の4つを確認しますが、4つすべてに当てはまらないからといって、安心ではありません。私は必ず、「死なない」約束をして退席します。次にうかがう日も約束します。次回の訪問日が1週間後なら早めます。「また次も絶対に会いましょう」という想いを込めて、次回の訪問の約束をします。

次も会いに来てくれる人がいるのって、心の支えになったりしないでしょうか。そしてそれを繰り返すことは、すごく意義のあることだと考えています。

そのうえで、主治医にも速やかに連絡し、指示を仰ぎます。

私たちの心の健康も大事

利用者さんに死にたいと告白されたあと、支援者の心も大きなダメージを受けています。決して1人では抱えずに、訪問看護事業所でスタッフみんなに共有してください。またその日の仕事帰りにおいしいコーヒを飲みに行ったり、晩ご飯をリッチにしたりして、自分を労わってくださいね。

まとめ

①「死にたい」という言葉は、「生きたい、だけどつらい」という気持ちと裏表であり、「生きたい」がベースにある。

②話題から逃げない。しっかりと受け止めて、覚悟を決めて話題にしていく。

③実際の計画などを確認する。リスクが高い、緊急性がある場面は入院につなげることも。

④支援者の心のケアもしっかりと。

今日も読んでいただきありがとうございました。



社本昌美
訪問看護ステーションふく・ふく代表・管理者/精神科認定看護師
精神科看護に長年魅了されています。地域で水が流れるように精神科看護を浸透させたい!そんな思いで2023年8月に訪問看護事業所を立ち上げました。 訪問看護につながる手前の方にも、よくお話をしに伺います。人生をどのように過ごしたいか、希望はなにか?そんなことを会話のなかから探り、ストレングスの視点でかかわることが大好きです。精神科看護に魅了され、わくわく働ける看護師を多く育成したいと思っています。
時間があると登山をしながら日本中を旅しています。四季折々の日本の山々に包まれて至福のときを過ごしています。