みなさん。こんにちは。
前回、前々回と、利用者さんが訪問看護師に依存してしまうことがある場合について、紹介しました。看護師として、どう考えてどうふるまうのかのヒントにしていただけたらと思います。
さて今回は、「クライシスプラン」1)をご紹介したいと思います。

皆さんはクライシスプランをご存じでしょうか。精神科では病棟や訪問看護の場面でよく使っていると思います。しかしそれ以外の診療科では、初めて聞いたという人が多いのではないでしょうか。

クライシスプランとは、利用者さんが自分自身を知ったり、どんなときが不調の前兆なのかに気づけたり、どうしたら自分らしくいられるのかなどを把握できるツールのことです。自分自身を見つめ、不調になる前に立ちどまり、整えていけるための計画なんですよ。

クライシスプランを活用することで、訪問看護師や支援者にすべてお任せではなく、「自分の人生を自分の力で歩める!」ようになるでしょう。たまにお手伝いしてもらったりもしますが、自分で少しずつ舵取りをできるようになり、訪問看護の回数も少しずつ減らしていければ、「卒業」という方向に行けるのかもしれません。すごく素敵ですよね!

不調になるときって? 調子がよくなる条件って?

私たち看護師も、なんだか不調だなあ、今日はイライラするなあっというとき、ありますよね。「なんでこんなにイライラするんだろう……。ああ!!」と、怒りをあらわにして人に接してしまうこともあるかもしれません。そして人間関係にヒビが入ることもあるかもしれませんよね。

でもそんな状態のとき、多くのときに共通の環境だったり条件だったりしませんか?

自分自身が不調になる環境や条件が前もってわかっていると、意図的にその場面から離れるなどして不調を回避できるかもしれません。どうしても離れられないときは、代わりになにか好きなことをして、気分を変えるといった方法をとれるかもしれません。いわゆる「自分の機嫌は自分でとる」ってやつですね。

写真は私(社本)の簡単クライシスプランです。

私の場合は、なにより空腹でイライラします。子どもみたいですね(笑)。それなのに、この表を見ると、不調になればなるほど食事をおろそかにしていることがわかります。そのため、さらに空腹でイライラする。悪循環ですよね……。でもこれも、今回の原稿のために上の表を書きながら、はじめて気がつきました。自分のことって案外わからないものですね。不調なときこそ丁寧にゆっくりと食事の時間を取りたいと思います。

逆に、調子が良くなるきっかけは、私にとっては登山をすることです。週末に山に登ると一気に機嫌がよくなるので、大切なイベントとしています。みなさんにも気分がよくなる行動がありますよね。

クライシスプランの歴史

クライシスプランの「クライシス」とは「危機」という意味です。そのためネガテイブなイメージがありますが、実際にはクライシスプランは安定した自分をキープしていく方法という前向きなものです。日本で使われるようになったのは2005年で、まだ新しいリカバリーのために有効な手法といえます。

2005年に「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(略称「医療観察法」)が施行されました。この法律は、重大な他害行為を行った精神障害者を対象としたもので、精神障害を改善し社会復帰を促進することを目的としています。そのなかで、対象者が退院後に地域生活を送るための一助としてクライシスプランの作成が導入されました。その後、一般精神医療保健福祉のガイドラインにもクライシスプランの要素が含まれました。

皆さんは「WRAP🄬」をご存じでしょうか? 精神科業界で数年前にとても流行したものです。アメリカで生まれた「元気回復プログラム(Wellness recovery action plan)」というものです。そのなかには6つのプラン(「①日常生活管理プラン」「②引き金とその対応プラン」「③注意サインとその対応プラン」「④調子が悪くなっている時とその対応プラン」「⑤クライシスプラン」「⑥クライシス後のプラン」)があり、「クライシスプラン」はそのなかのひとつでもあります。

私もWRAP🄬のワークショップに参加を数回しましたが、とても素晴らしい体験だったと思っています。なかでもクライシスプランに注目し使用するだけで、前向きに生きられると実感しました。訪問看護の場面では、利用者さんと訪問看護師がクライシスプランの表を元にセルフケアの振り返りができることが、すごくよいなあと感じています。

訪問看護が入らない日も、利用者さんが自分でチェックできることも有効的ですよね。思考がまとまらない人や、衝動性があってすぐに看護師に電話をして報告してしまいがちな人も、この表を見て今の状態を確認すれば、緊急性がないとわかります。すると次回の訪問の時間まで、話をすることを待つことができそうですよね。

支援者もクライシスプランを作ってみよう

利用者さんに作ってもらう前に、われわれ支援者もぜひ作ってみてください。人生の目標を立てて、表に沿って細かく書いていきます。追加、修正はあとからでもできるので、書きながら行動して修正していってください。

安定した状態、注意状態、要注意状態など、自分ではなかなかわからないと思います、友人、家族、同僚、上司などに確認してみてください。新たな発見がきっとあります。メモで持っていてもいいし、スマートフォンに入力しすぐに見られるようにしてもいいですね。

介入の程度って迷いませんか?

よく、「A看護師さんはここまでやってくれる。しかしB看護師さんは自分でがんばるようにと声をかけるだけ」なんて話、よく聞きませんか? 介入の程度がそれぞれの想いや主観での変わるのって、よいとはいえません。でもクライシスプランの「他者の力を借りる」のところに記載をしておけば、ここを手伝ってしてほしいということが、お互いにわかりますよね。支援者にも共有しておくとよいなあと思います。

まとめ

〇クライシスプランを使うことで、自分で自分状態を早期に立て直せる。

〇支援者も自分のクライシスプランを作ってみてほしい。自分を知って機嫌のよい日を多くつくれれば、それが良い支援にもつながるはず!

〇何度でも修正、追加ができる「生きた計画」なので、年齢を重ねてバージョンアップできる。

〇利用者さんが病態の把握もできるが、支援者が臨床実践の評価ができる(無駄な介入を減らせる)。

精神科訪問看護が少しでも楽しくなるとうれしいです。今日も読んでくれてありがとうございました。




【参考文献】
1)狩野俊介ほか.危機がチャンスに変わるクライシス・プラン入門:精神医療・保健・福祉実践で明日から使える協働プラン.東京,中央法規出版,2024,244p.





社本昌美
訪問看護ステーションふく・ふく代表・管理者/精神科認定看護師
精神科看護に長年魅了されています。地域で水が流れるように精神科看護を浸透させたい!そんな思いで2023年8月に訪問看護事業所を立ち上げました。 訪問看護につながる手前の方にも、よくお話をしに伺います。人生をどのように過ごしたいか、希望はなにか?そんなことを会話のなかから探り、ストレングスの視点でかかわることが大好きです。精神科看護に魅了され、わくわく働ける看護師を多く育成したいと思っています。
時間があると登山をしながら日本中を旅しています。四季折々の日本の山々に包まれて至福のときを過ごしています。