みなさん、こんにちは。今回は最近起こった私の不調からの気づきについて書いていこうと思います。

看護師として約30年。私はつねに言葉を武器に仕事をしてきました。とくに精神科という目に見えない困難を抱える方々の前で、適切な助言をし、場をコントロールし、進むべき方向を指し示す。それがプロとしての完璧さだと信じていました。

しかしある日、私の武器は突然奪われました。

「急性声帯炎」

医師から言い渡されたのは「そのうち話せるよ」「とにかく話さないで、喉に悪いからね。黙っててね」という、私にとって最も過酷な試練でした。

完璧主義な精神科看護

話せなくなり現場を離れることにしました。筆談でも行けるときは訪問に行きましたが、身体がしんどかったのも事実。抗わずに休もうと腹をくくりました。

その時間で自分の看護観を棚卸ししてみました。そこにあったのは、長年脱ぎ捨てられなかった「代表として、指導者として、完璧であらねばならない」という重い鎧です。

スタッフに対しても支援はこうあるべきと強く説き、現場を自分の理想どおりにコントロールしようとしていた私。しかし、声が出なくなった瞬間、私はそのすべてを手放さざるを得なくなりました。指示が出せない、教育ができない、コントロールができない。 当初、私は「自分がいなければ現場が回らないのではないか」という、傲慢な不安に震えていました。

脆弱性が生み出す相互信頼

ところが、現実は私の予想を鮮やかに裏切りました。

声が出ない私に対し、スタッフたちは驚くほど献身的に、そして主体的に動き始めたのです。「任せてください」という笑顔。

私が沈黙したことで、現場にはこれまでになかった柔らかな空気が流れ始めました。
ここで私は、精神科看護における「エンパワメント」の真意を、身をもって知ることになります。

支援者が完璧な支援者という高い壁を取り払い、一人の助けを必要とする人間として存在したとき、そこには支配ではない、対等で温かな相互の絆が芽吹いたのです。
私が声を失うことで、スタッフ一人ひとりがもつ「みずから考え、ケアする力を信じ切ることができました。

言葉を超えた存在そのものの看護

不便ではありましたが、不幸ではありませんでした。

声が出ない代わりに、私はフリーボードや音声アプリ、手振り身振り、さらに新たに手話も学び始め、新しいコミュニケーションの扉を開きました。

文字を書き、指先を動かし、相手の目をじっと見つめる。

そこで気づいたのは、私たちが普段、いかに言葉という便利なツールに甘え、相手の微細な表情や心の動きを見落としていたかということです。

「なにか言わなきゃ」「アドバイスしなきゃ」という執着を捨てて、ただ隣に「いる」こと。沈黙のなかに流れる、言葉にならない苦しみや願いに、ただ耳を傾けること。それこそが、精神科看護の原点である「傾聴と対話」の本質だったのです。

人生というゲームの攻略

私の母は、私が幼少期から「人生はゲーム。困難さえも楽しんで攻略しなさい」と教えてくれました。
今回の声が出ないというステージは、私にとって完璧さという執着を手放すための、最高のアップデート期間ではないかと感じています。

今の私の心はとても軽やかです。 本当に完璧な看護師なんていらなかった。

不完全な私たちが、お互いの弱さを認め合い、支え合いながらともにその場に留まること。

声が戻ったとき、私はこれまでとは違う新しい言葉を紡げるようになっているはずです。それは正解を押し付ける言葉ではなく、相手の可能性を信じ、ともに歩むための、もっと優しくて、もっと力強い言葉だと思います。

なにか困難が起こったときは自分を振り返るよいチャンス! 

読んでくださり、ありがとうございました。





社本昌美
訪問看護ステーションふく・ふく代表・管理者/精神科認定看護師
精神科看護に長年魅了されています。地域で水が流れるように精神科看護を浸透させたい!そんな思いで2023年8月に訪問看護事業所を立ち上げました。 訪問看護につながる手前の方にも、よくお話をしに伺います。人生をどのように過ごしたいか、希望はなにか?そんなことを会話のなかから探り、ストレングスの視点でかかわることが大好きです。精神科看護に魅了され、わくわく働ける看護師を多く育成したいと思っています。
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