病院での正解が、家では邪魔になることも
病院という管理された環境では、「薬を正しく飲むこと」「規則正しい生活を送ること」が看護の正解だと思いながら仕事をしてきました。
しかし、訪問看護で一歩足を踏み入れる場所は、利用者さんの生活の場です。そこには、その人が何十年もかけて築き上げてきた独自の流儀やリズムがあります。
新人のころは、どうしても「看護師としてなにかを教えなければ」「正さなければ」という使命感に駆られがちです。しかし、病院の常識をそのまま在宅に持ち込むことは、ときとして土足で相手の聖域に上がり込むような、一方的な指導になってしまう危うさを秘めています。
看護師という看板を下ろす
訪問看護の現場で、新人が最も不安を感じるのは「なにもしない時間」や「なにを話せばいいかわからない瞬間」かもしれません。自信がないからこそ、私たちは知識や「看護師らしさ」という看板を掲げてしまいがちです。
しかし、実はその看護師らしさが、利用者さんとの間に壁をつくっていることがあります。大切なのは、医療者という立場から一度降りて、1人の人間として向き合う勇気をもつことです。「教えてあげる人」から、生活の知恵を「教えてもらう人」へ。
その転換が、対等な対話のスタートラインになります。
エピソード:「看護師さんぽくなくてありがたい」
ある訪問での出来事です。
その日はあえて病気や薬の話を脇に置き、その方が熱中されている趣味について、ひたすらお話をうかがいました。私はただの聞き手となり、その方の趣味に深く関心を寄せ、教えていただく時間を過ごしました。それは本当に聞きたかったのです。私は人の好きなことや趣味、得意なことを聞くことが大好きです。
訪問の終わりに、その方からこう言われました。
「今日の時間は、看護師さんぽくなくてありがたかったです」
この言葉に、ハッとさせられました。
利用者さんは患者として扱われることに嫌気がさしている、1人の人として認められることをなによりも求めていたのです。
趣味の話をすることは、単なる世間話ではありません。
その人の価値観を尊重し、人生の主役であることを再確認する、きわめて重要なケアです。
指導ではなく伴走
精神科訪問看護の本質は、相手をコントロールすることではなく、その人の人生の歩みに寄り添う伴走にあります。
伴走者とは、相手がどちらに走りたいかを決めるまで隣でじっと待ち、走り出したときにはそのペースに合わせていっしょに進む人のことです。
医療的な正しさを押し付ける前に、まずは「あなたの世界に興味があります」という姿勢を伝えること。その信頼関係の土台があってはじめて、後に続く専門的なアドバイスが、相手にとって自分のための言葉として届くようになります。
まとめ
最初は「あなたに会いに来た1人の人間」でいいのです。素晴らしい看護をしようと力むのをいったんやめてみてください。相手の好きなこと、大切にしていることに心からの関心を寄せる。そこから見える景色のなかに、その人のリカバリー回復へのヒントが隠されています。
「看護師っぽくない」と言われることを喜べるようになったとき、あなたの訪問看護はもっと自由で、豊かなものになるはずです。
ぜひ、精神科訪問看護を楽しんでほしいです。
訪問看護ステーションふく・ふく代表・管理者/精神科認定看護師
精神科看護に長年魅了されています。地域で水が流れるように精神科看護を浸透させたい!そんな思いで2023年8月に訪問看護事業所を立ち上げました。
訪問看護につながる手前の方にも、よくお話をしに伺います。人生をどのように過ごしたいか、希望はなにか?そんなことを会話のなかから探り、ストレングスの視点でかかわることが大好きです。精神科看護に魅了され、わくわく働ける看護師を多く育成したいと思っています。
時間があると登山をしながら日本中を旅しています。四季折々の日本の山々に包まれて至福のときを過ごしています。
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