みなさんこんにちは!
前回に引き続きガイドワイヤーのお話です。

患者さんがPCIを安全に受けていただけるように、私たちはそれぞれの視点から合併症が起きないように、そして合併症が起きたときには迅速に適切な対応ができるように準備をしておかなくてはなりません。

ガイドワイヤーによって起こりうる合併症は、ガイドワイヤーによる冠動脈穿孔です。

もし冠動脈穿孔が発生したら

ガイドワイヤーでの冠動脈穿孔は、多くの場合は慌てる必要はありません。でもバイタルサインや症状、患者さんの様子は、より注意深く観察しましょう。

また、術野でどのように止血をしていくのかを知っておく必要があります。なにが必要なのか? 確認しておきましょう(図1)。

①プロタミンでヘパリン中和
PCIのために投与したヘパリンの中和が必要になることがあります。ACTの測定、ヘパリンの投与量からプロタミンの投与量を決定します。

プロタミン投与中は薬剤投与による副作用に注意し、投与直後から観血血圧で血圧の監視を行います。観血血圧が非表示またはカテ内にデバイスが入っているため血圧波形になまりがある場合は適時NIBPの測定をします。

それと同時にこの状況下では、まずは止血手技のためPCIは続行されます。プロタミン投与は血管内の血栓形成に繋がるので、新たな心電図ST上昇、胸部症状出現について注意深く観察します。

②マイクロカテーテルを使って血管に陰圧をかける
マイクロカテーテルを出血している血管に挿入し、30mLくらいの大きなシリンジを使用して持続的に陰圧をかけます。陰圧のかかったマイクロカテーテルの先端で血管をぺっちゃんこにすることにより止血を試みます。

20~30分程度この状態を維持して、止血することを試みます。造影をしてみて止血が確認されればよいのですが、まだ出血している場合はこの手技を繰り返すか、③以降の手技に進みます。

③患者自身の血栓・脂肪を使う
穿刺のときに使用した穿刺針の中に血栓がないかを探します。血栓があればその血栓を、シリンジをマイクロカテーテル内に入れて穿孔している部分に運び、これで止血を試みます。

血栓がない場合は、患者自身の脂肪を使う場合もあります。鼠蹊部をカットダウンして鉗子などで脂肪を取り、血栓と同じ方法で穿孔している部分に運び穿孔部を塞ぎます。血管を塞栓することにより、新たな心筋梗塞を起こすこともあります。

④ゼラチンの塞栓材を使う
肝動脈化学塞栓療法で使用されるゼラチンでできた塞栓材を使う場合があります。この塞栓材を細かく砕き、シャーレなどに入れて造影剤を混ぜます。シリンジで注入できるくらいの柔らかさ(粘稠度)になるくらいまで混ぜて、2mLくらいのシリンジに詰めます。それを、マイクロカテーテルを通じて穿孔部に注入し塞栓させます。

このとき、術者は塞栓材に触れないようにすることが大切です。術者の手に付いた塞栓材が目的以外の冠動脈に誤って注入されれば冠動脈塞栓してしまう危険性があるからです。

塞栓材を扱った清潔者は、作業が終われば作業した術野のうえに新しいドレープをかけて、手袋・ガウンを交換し、塞栓材がデバイスなどにつかないように細心の注意を払います。

異物を投与するため、まずはマイクロカテーテルの陰圧止血が行われることが多いです。

⑤コイルを使う
動脈瘤の治療に使われる塞栓コイルを使用することがあります。穿孔している血管の手前にコイルを留置します。コイルは留置できるスペースが必要なので、塞栓する血管のある程度の太さと長さが必要になります。マイクロカテーテルの陰圧止血で止血できなかった場合に行われます。

止血方法や使用材料については、医師判断や施設の取り決めなどから、その状況下で患者救命を最優先し判断されるものであり、ここに記載した一切のことを推奨するものではありません。必ず医師から事前に、またはその状況で指示を受け対応してください。


以上が、万が一のときの対処法です。
手技を行うのは術者ですが、それぞれ必要なものを準備するのは多くの場合は私たちです。万が一のときのために、私たちは何をすべきなのかを準備しておく必要がありますね。

今回はここまでです。

またお付き合いください。
ありがとうございました。

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プロフィール:野崎暢仁
新生会総合病院 高の原中央病院
臨床工学科 MEセンター
西日本コメディカルカテーテルミーティング(WCCM)副代表世話人

メディカセミナー『グッと身近になる「心カテ看護」~カテ出しからカテ中の介助、そして病棟帰室後まで~』など多数の講演や、専門誌『HEART NURSING』、書籍『WCCMのコメディカルによるコメディカルのための「PCIを知る。」セミナー: つねに満員・キャンセル待ちの大人気セミナーが目の前で始まる! 』など執筆も多数。