狭心症と心筋梗塞の違い

前回は狭心症についてお話しました。
今回は心筋梗塞についてお話しします。

心筋梗塞とは、心筋が虚血によって壊死してしまう病態のことを言い、発症時期によって次の3つに分けられます(図1)。

・急性心筋梗塞(きゅうせいしんきんこうそく/AMI:Acute Myocardial Infarction):発症から3日以内
・亜急性心筋梗塞(あきゅうせいしんきんこうそく/SMI:Subsequent Myocardial Infarction):発症から30日以内
・陳旧性心筋梗塞(ちんきゅうせいしんきんこうそく/OMI:Old Myocardial Infarction):発症から30日以上




ちなみに、急性心筋梗塞、不安定狭心症など、冠動脈の狭窄や閉塞などによって心筋虚血が起こっている総称をACS(Acute Coronary Syndrome:急性冠症候群)って言います。

救急で「エーエムアイ(AMI)来まーす!」って聞く場合と、「エーシーエス(ACS)来まーす!」って聞く場合がありますね。AMIっていうのは心筋が梗塞(壊死)していることが確定しているものなので、救急搬入される胸痛患者さんの場合は「ACS」って言うのが無難でしょうね。細かい話ですが……。

急性心筋梗塞のときに心筋壊死が始まり、心臓の動きが悪くなります。では、心臓のどこの動きが悪くなるのでしょうか?

思い出してほしいのは、#004『心臓を栄養する冠動脈~小ネタを挟みながら~』でお話しした冠動脈の解剖です。冠動脈は心臓の全体を3本の血管が隙間なくカバーしています(図2)。



右冠動脈は、右心室・左心室の下璧と心室中隔の一部、左冠動脈の前下行枝は左心室の前壁・側壁・心尖部と心室中隔の一部、回旋枝は左心室の後壁と側壁の一部を養っています。

例えば、右冠動脈が動脈硬化や血栓によって突然閉塞した場合には、右心室や左心室の下璧と心室中隔の一部が虚血状態になり、その部分の心臓の動きが悪くなります。この状態を「下璧の急性心筋梗塞」であるということになります。

前下行枝が突然閉塞した場合は「前壁中隔の急性心筋梗塞」、回旋枝が突然閉塞した場合には「後壁の急性心筋梗塞」という具合です。

ここからは、急性心筋梗塞の小ネタ情報をいくつかお話しします。

知っておきたい急性心筋梗塞 小ネタ①

下璧の急性心筋梗塞(右冠動脈閉塞)でよく認められる状態は、ズバリ「徐脈」!

脈が遅くなってることが多いんです。それは、右冠動脈が刺激伝導系を養っていることが多いことからそんなことが起こります。

救急室に胸痛患者さんが運ばれて来たとき、心電図をモニタリングしたときに徐脈を認めたら、まずは「下璧の急性心筋梗塞」を疑います!

このように、どの血管に、どこの心筋の壁にダメージを受けているのかによって、起こりうる患者さまの状態変化が違うんです! 次回以降にそのあたりについて詳しくお話ししていきます。

知っておきたい急性心筋梗塞 小ネタ②

急性心筋梗塞の場合、合併症のない場合は「血圧」は正常なことが多い!

心筋梗塞は、心臓の病気なので血圧が異常になるイメージがありますが、じつは正常な場合が多いんです。でも、不安が強い場合や興奮状態では、交感神経が亢進することによって一過性に血圧が高くなることがあります。血圧が高くなると心臓にもさらなる負担になるので、原因である不安などはできる限り取り除いてあげる必要がありますね。

また、逆に血圧が低い場合は重篤な合併症が起こっていることが予測されるので、状態に要注意ですね。

急性心筋梗塞の場合は、心筋の動きが悪くなるばかりでなく、それに伴って発生する合併症がとても怖い疾患になります。これも次回以降に詳しくお話ししますね。

知っておきたい急性心筋梗塞 小ネタ③

救急隊から胸痛が運ばれます!緊張の瞬間です。緊急カテか? 心カテに関わるものにとってはいろいろ頭の中でシミュレーションします。

でも、いざ患者さまが運ばれて来ると……? 心筋梗塞じゃないなってことがあります。

「胸痛」っていう症状で救急搬入される症例のなかで、心臓が原因となっていることは約50%って言われています。では、心臓が原因でなかった場合どのような疾患があるのでしょうか?

表を見ていただくといろいろありますね()。逆流性食道炎や食道痙攣、胃炎や胃潰瘍などの消化器疾患や、肋間神経痛や胸部外傷などの整形外科疾患、はたまた貧血や不安神経症などがあります。



そのなかでも、急性肺血栓塞栓症や急性動脈解離は生死を分ける疾患なので、とにかく急いで診断をつけて治療に移行する必要があります。

これらの疾患と急性心筋梗塞の鑑別診断を間違いなく行うためには、急性心筋梗塞のときにどのようなバイタルサインの変化があるのか? などを知っておく必要がありますね。

次回以降は急性心筋梗塞について、どのようなバイタルサインに変化があるのか? どのような合併症があるのか? などについてお話ししていこうかと思います。

それでは今回もありがとうございました。
また、お会いしましょう!

プロフィール:野崎暢仁
新生会総合病院 高の原中央病院
臨床工学科 MEセンター
西日本コメディカルカテーテルミーティング(WCCM)副代表世話人
メディカセミナー『グッと身近になる「心カテ看護」~カテ出しからカテ中の介助、そして病棟帰室後まで~』など多数の講演や、専門誌『HEART NURSING』、書籍『WCCMのコメディカルによるコメディカルのための「PCIを知る。」セミナー: つねに満員・キャンセル待ちの大人気セミナーが目の前で始まる! 』など執筆も多数。