冠動脈には番号が付いている

第3回では、心臓を栄養する血管は冠動脈なんだ!というお話をしました。今回はその冠動脈についてもう少し詳しくお話ししていきたいと思います。ちょっとマニアックな話になるかもしれませんが、今回だけお付き合いいただければと思います。

前回もお話ししましたが、冠動脈は大きく分けて3本あり、右冠動脈1本と左冠動脈は2本、前下行枝・回旋枝とがあります。

冠動脈には番号が付いています。Seg.1から14(または15)まで(Seg=セグメント=番号)。右冠動脈は、Seg.1から4。左冠動脈の根本がSeg.5、前下行枝はSeg.6から10、回旋枝はSeg.11から14(または15)です。

右冠動脈

まずは右冠動脈から! いきなりややこしいことを言いますが、右冠動脈の入り口から鋭角枝という枝(鋭角枝についてはこの後説明しています)までをSeg.1から2としていますが、1と2の境界は入り口から鋭角枝までを2等分した前半分がSeg.1、後半分がSeg.2となっています(図1)。定義では2等分した前半分・後半分と決められていますが、実際の臨床上では便宜上、右室枝(RVブランチ:右心室の表面を栄養する枝)を境目としてSeg.1と2が分けられることが多いです。



Seg.2の続きはSeg.3。心臓の後ろ側からぐるっと回って下の方へ(下璧)。ここから大きな分かれ道が。Seg.4PLと4PDに分かれます。

4PLのPLはposterolateral branch。postero(ポステロ)=後ろの、lateral(ラテラール)=横っちょ、branch(ブランチ)=枝、つまり後側壁枝と言います。4PLは4AVと呼ばれることもありますが、4PLから枝分かれしている血管が刺激伝導系の房室結節のほうに伸びているということもあって4AV(AV:atrioventricular branch/atrio(エートリオ)=心房、ventricular(ヴェントリキュラー)=心室、branch=枝)とも呼ばれます。

4PDのPDはposterior descending branch。posterior=後ろを、descending(ディッセンディング)=下っていく、branch=枝、後下行枝といいます。後ろを下る枝で後下行枝。後下行枝の”後”を”前”に変えると……前下行枝! 後ほどお話しする左冠動脈の前下行枝になるのです。心臓の前側を下っているのが前下行枝、後ろ側を下っているのが後下行枝(Seg.4PD)、やがてこの2本の冠動脈は心臓の先っちょ(心尖部:apex 〔アペックス〕)でゴッツンコします。たいていの場合(約6割)、前下行枝のほうが少し長くて、心尖部を巻いて後ろ側に伸びていると言われています(図2)。

左冠動脈

では、話を左冠動脈に移していきましょう(図1)。
左冠動脈の根元は左冠動脈主幹部、Seg.5です。LMT(エルエムティー)と呼ばれたりもしますが、これは左冠動脈主幹部:Left Main Trunk=左のメインの幹(みき)という意味なんですね。

この部分は文字通り左冠動脈の幹の部分であり、前下行枝と回旋枝の根元になるので、ここに何らかの影響が及ぶと左冠動脈が栄養している部分は全滅。心臓の大きな範囲で栄養(血液)が流れなくなるので、たいへん大きな大きなダメージにつながり、命の危険があります。

前下行枝

次にお話しするのは前下行枝。先ほどもお話ししたとおり、心臓の前側を下る枝。それが前下行枝になります(図3)。前下行枝はSeg.6から10までの番号が付けられています。では、番号の付け方についてお話しします。LMTの終わりから始まるのがSeg.6です。Seg.6は次に出てくる1本目の「中隔枝」までをSeg.6としています。前下行枝には、左右に別れる2種類の枝が存在します。1つはいま出てきた「中隔枝」もう1本は「対角枝」の2種類です。

中隔枝

中隔枝は、右心室と左心室を隔てる壁「心室中隔」を栄養する血管です。セプタールとか呼ばれたりする中隔枝は、前下行枝から心室中隔の2/3を栄養しています。では残りの1/3は? それは先ほどのSeg.4PDが心臓の後ろ側から心室中隔に向けて中隔枝を出しています。心室中隔でも前下行枝とSeg.4PDがゴッツンコしてるんですね。

対角枝

前下行枝からもう1本出ている枝が対角枝です(図4)。この枝は左心室の表面を栄養している大切な枝です。番号は順番が前後しますが、1本目の大きな対角枝をSeg.9。2本目をSeg.10としています。D1・D2とかダイアゴとか呼ばれたりしますね。

番号の付け方に話に戻しますと、Seg.6はLMTから1本目の中隔枝までをSeg.6。それ以降はSeg.7になります。Seg.7の終わりは2本目の「対角枝」になります。間違ってはいけません! Seg.6の終わりは1本目の「中隔枝」、Seg.7の終わりは2本目の「対角枝」です。前下行枝Seg.7以降はSeg.8になります。

回旋枝

次に、回旋枝のお話をします。
回旋枝はSeg.11から14(または15)と番号が付けられています。LMTから枝分かれした回旋枝の根本はSeg.11と呼びます。Seg.11の終わりは(多くは)1本目の大きな枝Seg.12までをSeg.11とします。Seg.12は左心室の表面を走っていきます。Seg.12は別名を鈍角枝といいます。右冠動脈のときに鋭角枝という血管が出てきたと思います。鈍角と鋭角。この2つは対義語になっていますが、右冠動脈の鋭角枝は右心室の表面を走っており、右心室は輪切りにすると三角形のカタチをしているのです(図5)。

その頂点を走っているので鋭角枝。それに対して鈍角枝(Seg.12)は、まん丸な左心室の表面を走っているので鈍角枝と呼ばれているのですね。では、なぜ左心室はまん丸なのか? 心臓は筋肉でできた袋。左心室にはいつも皆さんが見ている血圧と同じ高い圧がかかっています。左心室は風船のように常にパンパンの状態なのですね。そのため輪切りにするとまん丸なカタチをしているのです。



回旋枝は、Seg.12を出した後のSeg.11に続いてSeg.13になります。間違ってはいけないのがSeg.11に続いてSeg.13です。

Seg.13は続いてSeg.14に繋がります。Seg.13の部分でSeg.14とSeg.15に分かれる人と、Seg.15は存在しない人がいます(図6)。人によって冠動脈はSeg.14までの人とSeg.15までの人で違うんですね。それは、右冠動脈と回旋枝の大きさによって変わるんです。

右冠動脈が大きい人は、先ほどお話しした後下行枝はSeg.4PDであり、先ほど言ったとおり、前下行枝の裏側を走っているのですが、右冠動脈が小さく、回旋枝が大きい場合は、後下行枝は回旋枝のSeg.15がその部分を栄養するのです。

人の顔がそれぞれ違うように、冠動脈の大きさも人によって違うのです。それによって、栄養している範囲が変わるってことを覚えておいてくださいね!

私の心臓は左冠動脈が頼みの綱

ちなみに、最後に皆さんにとって最も興味がないであろう話を一つ。
私の冠動脈は、右冠動脈が限りなく小さく、左冠動脈の回旋枝がどえらく大きい。これを、右冠動脈が低形成(ハイポプラスティ)で、回旋枝優位と表現します。ついでに、左冠動脈主幹部は人より長いようです。右冠動脈の栄養範囲は小さい。その代わりに左冠動脈の栄養範囲は大きい。ということは、私の心臓は左冠動脈のおかげで動いている。でも、その頼みの綱の左冠動脈の根本、主幹部は長い。長いということは、その部分で何か起こる確率は高いのか?! 私の心臓は左冠動脈が頼みの綱なのに……LMTに何かあったときには……。

さてさて、今回は冠動脈の解剖。番号とウンチクについてお話ししました。いかがでしたでしょうか。ちょっとマニアックなお話になりましたので、このあとドンドン難しくなっていくのかな?! と感じられているかもしれません。大丈夫です! ちょいちょいマニアックなお話をするかもしれませんが、広いく皆さまに心臓というものを親しんでいただけるように、難しくならないようにお話ししていきますね。

今回もお付き合いいただきましてありがとうございました。
次回もまた、ぜひお付き合いくださいね!

プロフィール:野崎暢仁
新生会総合病院 高の原中央病院
臨床工学科 MEセンター
西日本コメディカルカテーテルミーティング(WCCM)副代表世話人
メディカセミナー『グッと身近になる「心カテ看護」~カテ出しからカテ中の介助、そして病棟帰室後まで~』など多数の講演や、専門誌『HEART NURSING』、書籍『WCCMのコメディカルによるコメディカルのための「PCIを知る。」セミナー: つねに満員・キャンセル待ちの大人気セミナーが目の前で始まる! 』など執筆も多数。