# 心カテ中、何に気をつければいいかわからない
# 心カテ前の患者さまを安心させたい
# 患者さまからの心カテについての質問に答えられない
# この患者さまはカテ室でどのようなことをされてきたのか?
# カテ終わり 術後合併症?!


みなさんこんにちは!
今回はちょっと変わった冠動脈造影のお話をします。

安静時狭心症について#007「狭心症と心筋梗塞 その①~早朝に襲う激しい胸の痛み~」でもお話ししました。そのときにも少しふれている冠動脈攣縮誘発試験の実際についてお話ししていきますね。ぜひとも#007を読んでから今回のお話にお付き合いいただければと思います。

冠動脈攣縮試験とは

冠動脈攣縮試験は、安静時狭心症の確定診断のために行います。
冠動脈に攣縮(≒痙攣)を誘発させるお薬を投与して攣縮するかどうかを観察します。

▼使用されるお薬はこちら

【アセチルコリン】
一般名:
注射用アセチルコリン塩化物
主な薬剤:オビソート注射用0.1g
⇒血管内皮からNO(窒素)を放出させて血管を拡張させつつ、強力な血管平滑筋収縮作用により冠攣縮を誘発させる。
⇒高感度かつ高特異度で冠攣縮を誘発できる。
⇒半減期は極めて短い。

【エルゴノビン】
一般名:
メチルエルゴメトリン
⇒セロトニン受容体とα受容体を刺激する強力な血管平滑筋収縮作用により冠攣縮を誘発させる。

✔これに注意!
冠攣縮の活動性が高い場合、多枝に渡り冠攣縮が誘発される場合には高度・広範囲に心筋虚血が起こったり、攣縮が長時間起こることがあり、血圧低下・心原性ショック・VF(心室細動)・心停止など危険な状態が起こり得ます。

✔検査前にカクニン!
・除細動器
・バックバルブマスク
・その他、救命処置具・救急薬剤

冠動脈攣縮試験の流れ

こんな感じで検査は進められます()。

【アセチルコリンの場合】
①冠動脈コントロール造影
硝酸薬(ニトロなど)を投与せず冠動脈造影を行い、有意な狭窄が冠動脈にないことを確認する。

②テンポラリーペーシング挿入
アセチルコリンを投与(特に右冠動脈)すると徐脈になります(たいてい20−30秒)。そのためテンポラリーペースメーカーは必須です。詳しくは次回お話しします。

③薬剤準備と投与
・生理食塩水は37℃程度に温めておく(薬剤が冷たいとそれに反応して血管攣縮を起こす場合も……)。
・アセチルコリンを5mLで以下の投与濃度になるように生理食塩水で調製する。

〈投与濃度〉
左冠動脈:20・50・100μg
右冠動脈:20・50μg

〈投与方法〉
・5mLの薬剤を20秒かけて各冠動脈に投与する。まずは低濃度(20μg)左冠動脈から100μgまで、次に右冠動脈20→50μg。
・注入開始1分後に造影。
・心電図変化、症状などが出現したら造影。
・各投与の間隔は5分間。
⇒ アセチルコリンは、発作頻度が高い症例や活動性が高いと考えられる症例は低濃度の量でも誘発されることが多いです。そのため10μgから投与を始める場合もあるので、毎回施行医に濃度をしっかり確認しましょう。

④硝酸薬投与
それぞれの冠動脈に硝酸薬(ニトロなど)を投与し、冠動脈造影をする。

【エルゴノビンの場合】
①冠動脈コントロール造影
硝酸薬(ニトロなど)を投与せず冠動脈造影を行い、有意な狭窄が冠動脈にないことを確認する。

②薬剤準備と投与
〈投与濃度〉
左冠動脈:20~60μg
右冠動脈:20~60μg
⇒投与量は決められたものがなく施設によって異なる

〈投与方法〉
・2~5分間かけて左冠動脈に投与する。
・投与終了後1~2分後に造影。
・心電図変化、症状などが出現したら造影。

⇒冠攣縮が認められない場合には5分後に右冠動脈に移る。

③硝酸薬投与
エルゴノビンは、アセチルコリンとは違い自然寛解する可能性が低いです。そのため硝酸薬の投与は必須です。

⇒それぞれの冠動脈に硝酸薬(ニトロなど)を投与し、冠動脈造影をする。

冠攣縮狭心症かどうかの評価

冠攣縮は「心筋虚血の徴候(狭心痛および虚血性心電図変化 ST変化)を伴う冠動脈の一過性の完全または亜完全閉塞(>90%狭窄)」と定義されています。

【観察ポイント】
〈胸部症状〉
・薬剤投与後、胸部症状の有無
・「普段感じる症状に似ているかどうか?」

〈心電図変化〉
ST変化:どの誘導でどのように変化しているのか?
⇒薬剤投与中・投与直後の心電図変化は、薬剤投与によって血流が乏しくなっているために起こるものと考えられます。薬剤投与直後は特に心電図変化に注視し、しばらく経ってさらに心電図変化したものを冠攣縮による変化として確認しましょう。

〈血圧〉
薬剤投与により血圧低下を起こす場合があります。冠攣縮解除のため硝酸薬を投与すると、さらに血圧低下を起こすことが考えられます。観血血圧を常にモニタリングするとともに、観血血圧が造影剤や薬剤投与のために表示されていない時にはNIBPをタイミングを見計らって測定しましょう。

〈冠動脈造影上〉
・冠攣縮が発生しているかどうか
→どこに冠攣縮が発生しているのか?
→冠攣縮が発生している場所はどこか?
→LMT(左冠動脈主幹部 #5)や右冠動脈入口部など冠動脈の中枢側になればなるほど、心室細動などの重症な合併症が起こる可能性が高くなります。 ・硝酸薬投与後に冠攣縮が解除されているか?

今回は、冠動脈攣縮誘発試験についてお話ししました。この検査は心室細動などが起こる可能性があり、より緊張感をもって挑まなくてはなりません。

また、心電図の判定や胸部症状の情報が診断のために非常に重要になります。スタッフが一丸となって適正な診断ができるよう取り組んでいきましょう。


では、今回はここまでです。
今回もお付き合いありがとうございました。


※今回は冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版)を参照しています。実際の手技の流れは各施設・症例によって異なる場合がありますので、必ず症例前に確認してください。

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プロフィール:野崎暢仁
新生会総合病院 高の原中央病院
臨床工学科 MEセンター
西日本コメディカルカテーテルミーティング(WCCM)副代表世話人
メディカセミナー『グッと身近になる「心カテ看護」~カテ出しからカテ中の介助、そして病棟帰室後まで~』など多数の講演や、専門誌『HEART NURSING』、書籍『WCCMのコメディカルによるコメディカルのための「PCIを知る。」セミナー: つねに満員・キャンセル待ちの大人気セミナーが目の前で始まる! 』など執筆も多数。