堀 耕大
セカンドラボ株式会社
URL:https://www.2ndlabo.co.jp/
2022年4月よりセカンドラボ株式会社に入社。主に介護施設を中心に医療介護向け求人メディア「コメディカルドットコム」の営業・採用課題のサポートを行う。




女性の一大ライフイベントである「妊娠」。看護師の方が妊娠が分かった場合、気を付けなければいけないことは何でしょうか。

今回は看護師の「妊娠」にフォーカスして紹介します。働く上で注意すべきことや休職制度、職場への報告など、もしもの時に慌てなくて良いように把握しておきましょう。

1.妊娠が分かったらまずすべきこと

妊娠が分かったタイミングで看護師は何をすべきでしょうか。妊娠した状態で通常時と同じ働き方をするわけにはいきませんので、まずは職場への報告・相談をしましょう。

■どのタイミングで報告すべき?


報告のタイミングとしては2つおすすめします。

1つは妊娠初期の8週目頃です。妊娠による体調の変化が出始める頃であり、人によってはストレスを大きく抱えることもあるでしょう。早めに報告・相談をしておくことで、周囲の理解を得ることができ、つわり等でつらい時もサポートしやすい体制を職場も整えることができます。

もう1つは安定期に入る妊娠16週目頃です。おなかも大きくなり始め、胎児の性別もわかるようなタイミングです。だんだんと動きにくさを感じるようになるため、業務の調整も必要になるタイミングですので、遅くともこのタイミングまでには報告しておくと良いです。

■誰に相談すべき?


まずは直属の上司に相談しましょう。業務の調整が必要になる場合もまずは上司にしておけばスムーズにことが進むはずです。周囲の同僚への報告が多少遅くなってもそこまで問題ではないですが、上司への報告が遅れてしまうと、「急遽調整しなければ」ということにもなりかねず、職場に迷惑をかけてしまいます。

2.妊娠中に看護師として働く際の注意点

次に妊娠中に働く上での注意点をいくつか紹介します。

■夜勤はなるべく避ける


看護師として働く以上、大部分の方が夜勤を伴って働いているかと思います。ただ、妊娠をした場合は、夜勤なしの働き方に変更できないか職場に相談するようにしましょう。デンマークの大学病院の研究結果によると、週2日以上夜勤を行うことで流産のリスクを3割以上高めることになると分かっています。

妊娠時の夜勤免除についても、だんだんと理解が進んできています。「看護職員の労働実態調査」によると、2017年の調査時に「夜勤免除を認められていない」と回答した看護職員が5割いたのに対し、2022年の調査時には4割まで減少しています。決して低い数字になっているとは言えませんが改善傾向にはあるようです。

出典:日本医労連・全大教・自治労連 「『2022 年看護職員の労働実態調査』記者発表資料」
出典:日本医労連・全大教・自治労連 「2017 年看護職員の労働実態調査結果報告」

■院内感染に注意する


病院やクリニックで働いている場合、ウイルスや細菌などによる感染には注意が必要です。妊娠中は通常時よりも免疫力が低下します。

また、感染症によっては母体が大丈夫でも胎児に影響を及ぼすものもあります。手洗いうがいなどの日々の感染対策はもちろんですが、感染リスクの高い患者の対応は控えるように院内で調整してもらうことも一つの手です。

■重労働を避ける


妊娠時は、通常時よりも疲れを感じやすくなっていたり、体調不良になることも多いです。体に負担をかけやすい業務はできるだけ避けるようにしましょう。

例えば、患者の体位変換などは腹部に強い負荷を与えかねません。胎児にも影響が出かねないので、こういった業務はしなくて済むように調整してもらいましょう。

看護師という業務の特性上、難しい部分もあるかとは思いますが、定期的に休息を取ることが何よりも重要です。軽作業ばかりだったとしてもずっと働き詰めてしまえば、重労働をしているのと何ら変わりはありません。

少しでも疲れているなと感じた時は、遠慮せずに休息をとらせてもらえるように相談してみましょう。

3. 妊娠・育児に関する休職制度

続いて、妊娠・育児に関する休職制度について見ていきましょう。

■母性保護規定


いわゆる産休、育休以外にも、労働基準法には「母性保護規定」として妊娠した女性のためにさまざまな休職制度や勤務軽減の制度があります。ここではそれらの制度の内、代表的なものを紹介します。

▼産前・産後休業(労働基準法第65条第1項及び第2項)
請求によって産前6週間(双子など多胎妊娠の場合は14週間)、産後8週間の休業をすることができる制度です。産後については、6週間経過後に本人が請求し、かつ医師が支障ないと認めた業務については就業することができます。

▼妊婦の軽易業務転換(労働基準法第65条第3項)
請求によって、心身の負担が少ないものへ業務内容を転換させられる制度です。先述の通り、看護師の仕事には体に負担がかかることも多くあります。業務転換は法律で定められた制度ですので、遠慮することなく申し出ましょう。

▼危険有害業務の就業制限(労働基準法第64条の3)
こちらは制度ではなく、妊娠した女性を出産や保育に有害な業務に就かせてはならないという企業の禁則です。「就業制限」なので、妊産婦本人が請求しても危険有害業務への就業は認められません。

業務の例としては、重機の運転などの大きな事故につながる可能性がある業務、極低温・極高温下での作業など体力的な消耗が著しいものなどが挙げられます。

▼妊産婦の時間外労働、休日労働、深夜業の制限(労働基準法第66条第2項及び第3項)
請求によって残業や休日出勤、夜勤を免除される制度です。特に夜勤については先述の通り、流産につながる危険性が示唆されています。

また「看護職員の労働実態調査(2022年)」によると、看護師のうち妊娠時の状況について「順調」と回答したのは 27.9%しかおらず、「切迫流産」は25.2%、「流産」は10.3%に上ります。「自分は大丈夫」と無理をすることなく、なるべく心身をいたわった働き方を心がけましょう。

出典:日本医労連・全大教・自治労連 「『2022 年看護職員の労働実態調査』記者発表資料」

▼妊産婦に対する変形労働時間制の適用制限(労働基準法第66条第1項)
請求によって、1日及び1週間の法定時間を超えての労働が免除される制度です。看護師の中には、シフトによって1日8時間を超える勤務がある方も多いでしょう。そのような変形労働時間制の職場であっても、妊産婦は申請すれば1日8時間、週40時間を超えて働く必要はありません。

▼育児時間(労働基準法第67条)
女性が生後満1年に達しない生児を育てながら働く際に、請求によって1日2回、各々少なくとも30分の育児時間を取得できる制度です。1日8時間労働を想定した制度のため、労働時間が1日4時間などと短い場合は、育児時間は1日1回で事足りると通達されています。

もちろん育児・介護休業法に基づき育児休業を申し出ることも可能です。次項では2022年10月に改正された新しい育休制度について解説します。

■育児休業制度の最新事情(2022年10月1日~)


育児休業とは、原則1歳未満のこどもを養育するために休業できる制度のことで、育児・介護休業法という法律に定められています。もし、勤め先の就業規則に育児休業に関する規定がなくても、法律に基づき育児休業を取得することができます。

実は育児・介護休業法が2022年10月1日から改正されていたことはご存知でしょうか。今回は改正による変更点を含め、育休制度の最新事情をご紹介します。

▼育休取得の条件
●原則1歳に満たない子を育てる男女
●非正規雇用の場合)同一事業主に1年以上雇用されている、かつ子が1歳6ヶ月になる日まで雇用が満了しないこと

▼育休の期間
●産後8週間(産後休業終了後)~子どもが1歳の誕生日を迎えるまで
●事情に応じて子どもが1歳6ヶ月、2歳になるまで延長可能
※休業開始日の1ヶ月前までに申告が必要

▼変更点①「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度を新設
これまでは、男性が産後に取得できる休暇は産後8週間~の育児休業のみでした。そこで産後8週間以内に男性が取得できる休暇として、「産後パパ育休」が創設されました。これにより男性は、従来の育児休業とは別に、産後8週間以内に「4週間(28日)を限度として・2回に分けて」休暇を取得できるようになりました。

▼変更点②育児休業の分割取得が可能に
これまで、育児休業は原則1回しか取得できませんでしたが、法改正によって男女ともそれぞれ2回まで育休を取得することが可能となりました。これにより夫婦が育休を途中交代で

4. マタニティー・ハラスメントに注意!

マタニティー・ハラスメント(=マタハラ)とは、妊娠や出産、育児をきっかけに、職場で不利な扱いや嫌がらせなどを受けることです。「看護職員の労働実態調査(2022年)」によると、残念ながら看護師の約1割が「マタハラを受けた経験がある」と回答しています。

本項ではマタハラの被害に泣き寝入りをしないために、マタハラの代表的な例、マタハラに遭わないための対策をご紹介します。

出典:日本医労連・全大教・自治労連 「『2022 年看護職員の労働実態調査』記者発表資料」

■マタハラの代表的な例


▼制度等の利用への嫌がらせ型
●育休や産休の取得を認めない、悪く言う
●業務転換や時短勤務を利用する社員に「ラクでうらやましい」などと嫌味を言う
●育休を取得しようとする男性に対し「男のくせに」などと価値観を押しつける

▼状態への嫌がらせ型
●妊娠の報告を受けて退職をそそのかす、冷やかす
●仕事内容や勤務時間を一方的に変更する
●妊娠や出産を理由に減給や降格、昇格の取り消しをする

■マタハラに遭わないために


▼労働制度を知っておく
先に紹介した制度は、いずれも法律で定められた子どもを産み育てる男女のための権利であり、事業所がその行使を認めないことは法律違反にあたります。心身ともに無理をしないためにも、まずはどのような制度が用意されているのかを知っておきましょう。

▼相談先を知っておく
労働制度が法律で認められているのと同時に、マタハラの禁止もまた男女雇用機会均等法に明記されています。マタハラを受けていると感じた際、然るべき窓口へすみやかに相談することで適切な処置を講じてもらえるでしょう。

マタハラを受けた際は、社内の人事部や相談窓口に報告するのが基本です。また「マタハラを受けているかわからない」、「社内へ相談する前に気持ちを整理したい」といった場合は、電話で相談できるホットラインもあります。

さらに社内での解決が見込めない場合は、各都道府県の労働局にある雇用環境・均等部(室)へ相談しましょう。実際に損害が発生しており、法的な処置が必要な場合は弁護士 への相談も視野に入れてよいでしょう。

▼入職先をしっかり見極める
出産や育児に理解のある職場を選ぶことで、マタハラに遭う危険性を下げることができます。外から見えるデータとしては、例えば、「産休 / 育休の取得率」「出産や育児からの復職率」「託児所の有無」などをチェックしておくとよいでしょう。

また傾向として、大規模な法人ではハラスメントの防止体制が整っていることが多いです。

5.産後の働き方はどうしたら良い?

■職場復帰


1つ目は「元の職場に復帰する」ことです。この場合、「いつまで育休を取るのか」「復帰後の働き方はどうするのか」「常勤で働くかパートで働くか」という3点は考えておく必要があります。

自分の体調のこと、育児と仕事の両立と考えるべき視点はいくつかありますが、いきなり育休前と同じように夜勤あり・フルタイムで働くというのは難しいと思うので、時短勤務や夜勤なしの勤務が可能か、難しいならパートで働かせてもらえないかなどなるべく早めに相談しておくと良いでしょう。

■退職する


2つ目として出産を機に退職するケースです。育児と仕事の両立が難しい場合は致し方ない選択かと思います。退職を考えている場合は、妊娠の報告時に一緒に伝えましょう。

ただ、退職してしまうと生活資金が心配になると思います。本当に退職してしまって今後大丈夫かパートナーに確認しておく必要はあります。また、退職せずに産休・育休を取得することで出産手当金や育児休業給付金といった手当を受け取ることもできるので、すぐに「退職」と決めてしまうのはもったいないです。

■転職する


今の職場が育児と仕事の両立が難しいという場合は、転職も一つの選択肢になるでしょう。育児支援が充実している職場に転職するもよし、今の仕事内容がきついようであれば、夜勤のない職場や勤務時間が固定の職場も良いでしょう。看護師ではなく、別の職種でリスタートしてみるのもいいかもしれないですね。

6.まとめ

今回は、看護師が妊娠した場合の注意点や休暇制度など知っておくべきことを解説しました。妊娠は喜ばしいことですが、体調の変化など大変なことも多くなります。今後妊娠の予定があるという方は、今回伝えた注意点などを把握しておいてください。

出産や育児に理解がある職場が増えてきているとはいえ、一定数「マタハラ」と呼ばれるハラスメントが起こる職場もあります。自分の身体とお腹の赤ちゃんの健康を守るためにも、「結婚や妊娠、出産、育児に対して理解のある職場」かどうか普段からしっかり見極め、転職の必要があれば紹介したポイントを例に転職先を探してみましょう。

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