最近では健康経営を掲げる企業も多く、比較的規模の大きな企業の健康管理部門に勤務する産業看護師の認知が広がっています。また、医務室など従業員の健康管理ではない部門においても、知見や経験をいかして業務にあたる看護師も増えていますが、今後はヘルスケア産業において患者中心の医療の実現に向けたサービスの提供が一層推進され、そのなかで企業内で働く看護師の活躍の場も増えていくと考えられています。今回はそうした企業内で働く看護師を「企業看護師」とし、企業で働く際に必要なノウハウやスキルを基礎から実践まで会得する機会として「学びの場」を立ち上げているIQVIAサービシーズ ジャパン株式会社の平出勝彦さん、土田祐子さんに、企業看護師の働き方や働く上でのメリットなどお話をうかがいます。〔メディカLIBRARY編集部〕

はじめに、今なぜ「企業看護師」が注目されているのでしょうか?

平出:治療から予防領域への拡大などヘルスケア産業自体の成長に伴い、近年ヘルスケア人材へのニーズが非常に高まっています。企業看護師はまさにこのニーズにかなう職種として、さまざまなヘルスケア企業が注目しています。

また、かつて“グレーゾーン”とされていた、企業から患者さんへのアクセスの点についても、2019年の経済産業省による回答*をきっかけに、医療行為にあたらない範囲においてアクセスができるようになりました。これによってヘルスケア企業でも「ダイレクト・トゥ・ペイシェント」の考えに基づく活動へのニーズが一層高まり、そこでやはり注目されたのが「企業看護師」です。

患者ケアの視点と臨床経験を持つ看護師資格を有する企業看護師が、製薬企業の担当者として医療従事者への情報提供を行ったり患者さんとのコミュニケーションを支援したりすることで、最終的に患者さんの治療環境の改善に資する活動を行うことができるようになっています。

主に企業内の健康管理部門や医務室など従業員の健康管理を行う「産業看護師」は皆さんご存知かと思いますが、この産業看護師も含め、CRC(治験コーディネーター)やCRA(臨床開発モニター)、クリニカルエデュケータ―など、企業で活躍する看護師全般のことを私たちは「企業看護師」と称しています。これからのヘルスケア産業では、患者中心の医療の実現に向けたサービスの提供がより一層推進されていきますが、その流れの中で企業看護師は多くの企業に注目され、活躍の場が増えていくのではないかと思っています。

*出典:経済産業省:グレーゾーン解消制度の活用結果「規制所管大臣の公表の写し」(2019年3月18日)
グレーゾーン解消制度の活用事例(METI/経済産業省)
グレーゾーン解消制度に係る事業者からの照会に対し回答がありました~特定の医療用医薬品を処方されている患者等に対し情報提供する患者サポートサービスについて~(METI/経済産業省)

「企業看護師を目指す『学びの場』」を立ち上げたきっかけは何だったのでしょうか。

平出:看護師という職業は、臨床現場に限らず多くの場所で必要とされます。私たちIQVIAでは、臨床の現場以外、主に企業での新たな働き方を看護師の皆さんへご提案できればと考えました。一方で、“企業で働く”という面で臨床現場とのギャップや不安を感じる看護師の方もいると思います。そういった皆さんに対し、企業で働く際に必要なノウハウやスキルを基礎から実践にわたり会得いただくための機会として、「学びの場」を立ち上げています。

土田:「学びの場」では、企業看護師としてだけでなく、看護師としての多彩なキャリアを目指せる応援をしています。例えば、臨床看護師の方も、ご自身のキャリアを掘り下げる機会として研修に参加いただき、その後のモチベーションアップへとつなげていただくこともできます。さらには、医療制度や製薬業界へのより深い理解や、院内・外での会議・勉強会を効果的に進めるスキルなど、本研修で得たものを現在働かれている医療現場に還元することもできます。さまざまなステージで活用いただける内容を目指して、プログラムを構築しています。

「学びの場」について教えてください。

土田:企業看護師について知りたい方・目指す方を応援するプラットフォームで、企業看護師という新しいキャリアの選択肢につながるさまざまなコンテンツを提供しています。病院やクリニックで働く看護師の皆さんがこれまでにあまり触れる機会が多くなかったであろう「企業での働き方や考え方」「基礎知識」「よく使われるスキル」を3つの軸としてお伝えする研修も実施しており、参加された方からは好評をいただいています。研修はオンデマンド配信のため、ご自身のペースにあわせていつでも受講できます。

また、実際に企業看護師として従事する方の話を聞くイベントも開催しています。企業看護師に興味を持った方が企業で働くことへの具体的なイメージを持つきっかけとして活用いただける場となっています。

「学びの場」を利用することによって、利用者は何が得られて、何が実現できるでしょうか。企業看護師としてのやりがいやメリットは何でしょうか。

土田:参加された看護師の方からのコメントにもありましたが、企業で働くことへの漠然としたイメージが、学びの場での学習を通じてクリアかつ具体的なものになるということが挙げられます。「学びの場」では、そのまま企業で働くための基本的な準備にもなるようにカリキュラムを設計しており、「医療現場と企業での働き方や考え方の違い」や「PC操作など企業で活躍するための具体的なスキル」を研修の中で習得できます。また、実際の企業看護師の方からのリアルな声も定期的にイベントでお届けしており、ご自身が企業看護師として従事するイメージがしやすくなったという声もいただいています。

平出:企業看護師の活躍の場はさまざまです。医療施設で勤務する仕事でないとしても、医療への貢献に携っていけることをやりがいとして感じているという声が利用者から寄せられています。企業の一員となり活動することによって、結果としてより多くの患者さんの治療療養環境の向上に関わることができるというのも、魅力の1つかと思います。

また、病院でなく企業での勤務だからこそ出会うさまざまな職種の方と共に仕事をすることで刺激を受けたり、企業人としてのビジネスマナーやPCスキルなどが身についたりなど、仕事を通じて自身の成長へとつながっていくこともメリットとして感じていただけているようです。

※クリニカルエデュケーターとは臨床経験を活かし、所属する企業の製品・サービスを通じて、医療従事者の治療環境改善を支援する仕事です。

看護師のキャリアの1つとしての「企業看護師」に期待されていることをお教えください。

平出:企業看護師の皆さんには、製薬企業をはじめとするヘルスケア企業と医療現場とをつなぐ架け橋となることで、最終的に患者さんの治療や療養に関する環境の改善の面で、医療へ貢献していただくことを期待しています。

例えば、医療現場においては患者さんのアドヒアランスの向上について、一方で企業においては医療現場や患者さんの真のニーズの探求についてなど、立場によってそれぞれの悩みや課題があると思います。臨床現場の経験や患者ケアの視点を持ち、企業の立場からサービスを提供できる企業看護師ならではのアプローチで、ヘルスケア企業と医療現場双方の悩みを解決へと導き、その結果として患者さんへの貢献へとつながっていく……。そういう職種として企業看護師が広まっていけばと願っています。

土田:ライフイベントをはじめさまざまな理由で臨床の現場を離れている看護師の皆さんでも、企業での勤務がキャリアの選択肢として加わることで、看護師の経験を活かしてあらためて活躍いただける方も増えるのではないかと思います。関心を少しでも持っていただいた皆さんには、ぜひ多くの方に企業看護師としてのキャリアにチャレンジいただき、私たちヘルスケア企業の一員として一緒に、医療への貢献に力を尽くしていきましょう。

☆「学びの場」はこちらから
https://rsn-kango.com/iqvia/





平出 勝彦
IQVIAジャパングループ
IQVIAサービシーズ ジャパン株式会社 企業看護師を目指す『学びの場』事務局

IQVIA入社後、内資系・外資系製薬企業のプロジェクトにて約8年MRとして従事。2014年より本社スタッフとして勤務し、新規ビジネス開発、および事業本部の戦略プラン策定・実行のサポート業務を遂行。2021年より「学びの場」運営を担当。





土田 祐子
IQVIAジャパングループ
IQVIAサービシーズ ジャパン株式会社 企業看護師を目指す『学びの場』事務局

2014年 IQVIAに入社し、インターナルコミュニケーションとして社内の広報・コミュニケーション活動を遂行。その後、事業本部長のアシスタントとして従事し、事業本部の戦略プラン策定サポートなどにも携わる。2021年より「学びの場」運営を担当。