新人看護師のプリセプター的な存在といっても過言ではない書籍『ズルいくらいに1年目を乗り切る看護技術』(通称『ズルカン』)。その続編『悲しいくらい人に聞けない看護技術:ズルカン2年生』も大好評のなか、満を持してシリーズ第3弾『自分閻魔帳:ズルカン3』が刊行されました。『自分閻魔帳』とズルカンシリーズに込めた思いについて、著者の中山有香里さんにお話を伺いました。

自分を含めて“わかったふりをしてしまっている”すべての看護師さんに

―――――(中山さん、近っ!!!www)。この度は『自分閻魔帳:ズルカン3』(以下、自分閻魔帳)の出版、おめでとうございます! 今回はズルカンシリーズ3作目で、すでにたくさんの方に知っていただいている書籍シリーズだと思うのですが、そもそも『ズルカン』ってどういったコンセプトから出発した書籍でしょうか。

中山:ズルカンは、「あなたの職場にいるような普通の看護師の1人が、ストレスができるだけ少なくわからないところを読めるように書いた本、ただの看護師が書いた本」という感じです。ほんとに普通の看護師が書いた本です。ロッカーの中とか身近なところにあって、ちょっと困ったときとかにパっとサッと読めるように使ってもらえるような本があればなぁって思って描きました。

もともと第1弾『ズルいくらいに1年目を乗り切る看護技術』の企画段階で、漠然と「3冊くらい並べられる日が来たらいいね」みたいな話があったんですね。ざっくりと“1冊目は1年生の新人看護師さんのためのもの”で、“2冊目は2年目の看護師さんのためのもの”と決まって刊行しました。それで、じゃあ“3冊目は誰のためのものにするか”ってなったときに、最後は「自分を含めて“わかったふりをしてしまっている”すべての看護師さんに」って考えました。

自分が今まで何から目を背けてきたかというか、何をスルーしてきたのかを考えたときに、解剖生理をはじめとして“わかってる気になってちゃんと調べてこなかったものがたくさんあるな”と思って。それをもう一度調べ直すっていう方向性ができあがって、“閻魔帳”をコンセプトにしました。

―――――“閻魔帳”と聞くと地獄みたいなイメージがあって、看護書にはあまりないタイトルですよね。

中山:そうかもしれないですね。自分のうろ覚えだった知識や技術を振り返っていくのが“閻魔帳”っていう世界観に沿って書かれていたら面白いかなって。あとは、今回取り上げたテーマを調べ直すのが私にとってあまりに地獄でした。『解剖生理』の項目にしても、自分の診療科に関する解剖生理とか他科の疾患についてはふだんから勉強するんですけれども、あらためて全身の臓器が何をしてるかって、あまり振り返る機会はないですよね。



『解剖生理』の1ページ

―――――極端な話、学生のとき以来で学び直す臓器もあったのではないですか。

中山:どうだろう……、とにかくだいぶひさしぶりです。今回学び直すために看護師向けの書籍を見てても、『解剖生理』ってなったらやっぱり学生さん向けの書籍が多かったので、就職してからはすべての臓器が何をしているかあらためて勉強し直すことってあんまりないかなって思います。

結局は自分が、本当に自分がほしかった本になりました

―――――タイトルやテーマなど、今までの看護書に「ない」ことづくしの自分閻魔帳ですが、執筆にあたって気をつけたことはありますか?

中山:今までのズルカン1、2は看護技術に関する内容が多かったんですよ。自分自身もやってきたことなので、「これはこうかな?」みたいな感じでペンを進められたんですけれど、今回は「この内容で合ってるんだろうか」っていう心配が付きまとっていて、描くのにとにかく調べて、調べて、調べて……っていうのを繰り返していました。調べた膨大な量の情報を絞って、しかもわかりやすく正確なことを描くっていうのがいちばん大変でしたね。調べていると全部の情報が大切そうに見えるんです。大切そうに見える情報を全部盛り込むと、どんどん字もちっちゃくなるし情報も膨大になるし……。それこそ私がニガテ意識を持ってしまうような本になっていくと思って。

―――――今までとはすこし違ったテーマを取り上げているとのことですが、『解剖生理』の項目以外にも印象に残っているところはありますか?

中山:『臓器の位置の見方』の章も描いてよかったなと思います。看護師として経験を積んで、自分の診療科のCTの異常が「まあ、何となくわかるかな」みたいな感じで理解してたんですけれど、あらためて「臓器のここがこうなって、CTではこう映って……」みたいなことをわりと理想の形で描けたなって。



『臓器の位置の見方』の1ページ

―――――頭部から全身入ってますもんね。

中山:かなりざっくりなんですけどね。あと『いよいよ聞けない採血のあれこれ』の「このスピッツがこうだよ」みたいなイラスト。この内容も、「こんなふうに書いてある本があったらいいな」と思ってたので、これも描けて良かったなと思います。



『いよいよ聞けない採血のあれこれ』の1ページ

―――――今回も随所にキャラクターが登場しますけれど、お気に入りのキャラクターとかありますか? 僕は副腎がめっちゃ好きだったんですけど。

中山:私も副腎は好きです。副腎かわいいですよね。もうめちゃくちゃ描きやすい(笑)。あと、肝臓って役目が多すぎるしちょっとむずかしいから苦手意識はあるんですけれども、ここは結構ゆるく描けたかなって思っています。

―――――どの臓器も特徴がわかりやすくて親しみやすいです。

中山:私みたいな奴は解剖生理って文字を読むだけでもすぐ「うっ」ってなるので、どれもできるだけコミカルに描いたつもりです。「自分の診療科ではこの臓器について参考書を買ってまで勉強するほどではないけど、そういえばあいつって何してたっけ」くらいに思ってるのをできるだけ簡単な言葉でまとめたつもりです。『いよいよ聞けない採血のあれこれ』に記載した採血データの一覧表も、「結局これ何やったっけ?」っていうのがわかるものがほしかったので取り上げましたし、『漢方薬ツムラ』も全部は覚えられないものですし……結局は自分が、本当に自分がほしかった本になりました。

誰かが悪者になったり、傷つく人がいたりするようなものはつくりたくない

―――――今回の『自分閻魔帳』も、発売前からたくさんの方に予約していただきました。その存在を知ったのがSNSという方も多いです。SNSやFitNs.に投稿されるマンガ・イラストは多くの方から共感を得ていますが、中山さんはそうした作品づくりに対して気をつけていることなどはありますか?

中山:ものすごくいろんなことを考えて掲載しています。誰か傷つく人がいるんじゃないかとか、そういうところには注意は払ってますね。あまり誰かが悪者になったり、傷つく人がいたりするようなものはつくりたくないです。

―――――最後になりますが、ズルカンシリーズをとおして登場してくれた2人(匹?)のキャラクター。いったい何者なんですか?



シリーズをとおして登場してくれた2人

中山:このキャラクターはね、名前はないですし結局こいつは何者かっていうのもわからないまま終わります(笑)。

―――――この2人(頭?)の関係も?

中山:この2人の関係も一切出てこないです。

―――――最後までキャラクターの謎は明かされないまま、ズルカンシリーズはここに完結するようです。今後も中山さんのご活躍を応援したいと思います。ありがとうございました!

/// 絶賛発売中! ///

100日ドリル
自分閻魔帳
ズルカン3

看護師になってさまざまな苦難を必死で乗り越えてきたみなさん。あっという間に一人前と呼ばれるようになったけれど、今まで身に付けた知識ははたしてしっかり理解したうえで覚えているのだろうか。シリーズ第3弾となる本作では「なんとなく」知っている、できているけれど、「なぜか」と聞かれると「ん、んん~?」となる内容を取り上げる。根拠地獄をめぐる旅へようこそ!
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悲しいくらい人に聞けない看護技術
ズルカン2年生

2年目を迎えるにあたっても「うまくやっていけるのか」と不安を拭いきれない方は少なくないのでは。その不安には、1年目のようにプリセプターがいないこと、重症患者さんを受け持つ機会が増えることなどさまざまな要素がある。そこで本書では、2年目の方に向けて研修では実施したけれどなかなか実践する機会の少ない手技を中心に手描きで解説。これで2年目もズルいくらいに乗り切るべし!
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ズルいくらいに
1年目を乗り切る看護技術

全新人ナースに贈りたい、1年目を乗り切るための1冊がここに誕生!基本的な看護技術の手技をしっかりおさえて、プリセプターから聞かれる質問にもバッチリ答えられるように、先輩ナースが愛を込めて手描きでエモくまとめたイラストノートを書籍化。ぜったい先輩には見せないで!
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/// 11/19発売! ///

100日ドリル
中山さんのインタビューも収載されています!
Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~
私もエールをもらった10人のストーリー

デジタルアートや3Dプリンタを看護に活用したり、看護をとおして一生の出会いをつかみ取ったり、在宅のほうが担い手が少ないから訪問看護に従事したり、苦しかった1年目のときの自分を手助けできるようにズルカンを刊行したり、医療と企業の橋渡しをするためにスタートアップに就職したり、悩みながらも新生児集中ケア認定看護師の道をまっすぐ進んだり、ロリータファッションモデルとして第一線で活躍しながら看護師を続けたり、目的に応じて疫学研究者・保健師・看護師のカードをきったり、社会人になってから「あっ、精神科の看護師になろう」と思い立ったり……。 さまざまな形・場所で働く看護師に「看護観」についてインタビューしようと思ったら、もっと大事なことを話してくれた。看護への向き合い方は十人十色。これだけの仲間がいるんだから、きっと未来は良くなる。「このままでいいのかな?」と悩んだときこそ、本書を開いてほしい。
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