こんにちは。救急看護の専門誌『エマログ』の編集担当、Sです。新型コロナウイルスを事実に基づく物語としてオリジナル脚本で映画化した作品、『フロントライン』。
日本で初となる新型コロナウイルスの集団感染が発生した豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」を舞台に、〈最前線〉で対応を行ったDMATの姿が描かれています。
主人公の結城英晴のモデルは『エマログ』の編集委員・阿南英明先生。これは観に行かないわけにはいかない!ということで、DMAT隊員の看護師さんをお誘いして映画を鑑賞し、真面目に感想を語り合ってきた模様をお届けいたします。
なんとなんと、阿南先生にもメッセージをいただきましたので、ぜひ最後までお読みください!
【お誘いした方】
DMAT隊員 Nさん
新卒で入職した病院が空港の近くで、空港での災害訓練に参加したことをきっかけに災害時医療・看護に興味をもち、DMATになりたい!と思うように。DMATとして平成28年熊本地震、令和2年7月豪雨、令和6年能登半島地震の活動に参加。平成30年7月豪雨、東日本大震災でも病院からの派遣要請を受けて活動。
●14時:映画館に集合

パンフレットとともに記念撮影
●17時:映画の感想を語る会@カフェ

興奮冷めやらぬ状態で、カフェで語り合う
涙が止まらなかった、家族のシーン
編集S:
私は2回目の鑑賞でしたが、やっぱりすごくよかったです。Nさんはどうでしたか?
Nさん:
思わず泣いちゃいましたね。DMAT隊員の真田と奥さんの会話や、外国人のご夫婦が離れ離れになる場面、幼い兄弟の絆が見える場面など、もともと涙もろいんですけど、特に家族のシーンにはぐっときました。
僕の勤める病院でも感染が拡大し始めた頃に、感染したご夫婦を受け入れたことがあって。奥さんは状態が悪化してしまって転院された先の病院で亡くなってしまったんです。旦那さんに奥さんの様子を聞かれて、僕たちは知っていたけど、言えませんでした。でも何となく察されて、奥さんの分まで頑張ると言って、リハビリをされて帰って行かれたんです。その時のことを思い出しました。
病院船 の訓練を思い出して
編集A:
映画を観ながら当時のことが思い出されたんですね。
Nさん:
そうですね。それから去年(2024年)、DMATとして北海道の室蘭での「病院船」の運用訓練に参加したんです。船で被災地の病院から別の病院へ患者さんを運ぶという想定でしたが、映画を観ながらその時のことも思い出しました。
もちろんダイヤモンド・プリンセスとは別の船ですが、船内には各部屋に段差があったり、廊下が狭かったりして、車いすの人や寝たきりの人を運ぶのは大変だし、もしも船内で感染が起こったら、感染対策を行うことはすごく難しいことだろうなとしみじみと感じましたね。
「人道的に」顔を見せてあげたかった
編集S:
映画の中ではインフォデミック(正確な情報と誤情報が混在し、人々が信頼できる情報を見極めるのが困難になる状況)についても取り上げられていましたが、当時はどのような思いで見ていらっしゃいましたか?
Nさん:
根拠がはっきりしないままいろんな情報が流れてきて、不安を煽られているような感じはありました。
当時、高齢者施設から感染者としてうちの病院に入院されてきた、寝たきりのおじいさんが亡くなってしまったんです。ニュースなどでは、感染者の方が亡くなられた時に、家族が顔を見ることもできずに納体袋に納められて、火葬場へ行ってしまう様子などが報道されていましたよね。でも、「それでいいんだろうか?」と考えました。
映画の中の結城先生のセリフにも「人道的に」という言葉が出てきましたが、僕は人道的にご家族に顔を見せてあげたいと思いました。だから、院内で会議を開いて説明し、スタッフの理解も得て、感染対策を行ったうえで、ご家族に顔を見ていただけるようにしたんです。施設の方からいただいたお手紙やお花を一緒に納体袋に入れたりもして。ご家族は「最期に会えるなんて思っていませんでした」とおっしゃってくださいました。その時は、“ああ、良かった”と思いました。
「人を助けたい」~それが原点
編集A:
映画の中でも、前例がないからこそ、対応に苦慮している様子が描かれていたと思いますが、そういう時に、どのようなマインドが必要になるでしょうか?
Nさん:
映画の中に出てきた、結城先生と仙道先生の言葉に答えがある気がします。「やれることは全部やる」という仙道先生の言葉と「このために医療者になったんじゃないのか」という結城先生の言葉です。僕、それはすごくそうだと思うんです。「人を助けるために看護師になったんだ」というマインドがすごく大事な気がしていますし、今後何か大変な事態が起こった時に、僕は行くっていう気持ちはずっと持っています。
仲間がいるから頑張れる
編集S:
強い意志をお持ちなんですね。
Nさん:
助けないといけない人は助けないとって、看護師として思います。それに、僕の所属しているDMATのメンバーは仲が良くて、同じ志を持つ人が多いです。このチームがあるからこそ、一緒に頑張ろう!と思えるのだと思います。映画を観ていても、結城先生と仙道先生には厚い信頼関係があることが伝わってきました。
DMATの合言葉が「一人でも多くの命を助けよう」で、僕もそう思って活動していますが、(映画のモデルになった)阿南先生や近藤先生のような人たちが上にいてくれることを、映画を観てあらためて心強く感じました。僕はぺーぺーのDMAT隊員ですが、DMATには「命を守ること」が基盤にあって、阿南先生や近藤先生のような人がいらっしゃって、厚生労働省をはじめとする関係機関や周囲の方々と調整や連携し合ってくれているんだということを、映画を通して感じられて良かったです。
気づけば1時間以上語り合っていました。
取材・構成:「エマログ」編集室
編集後記
Nさんとの対話を通して、映画のシーンがより深く、立体的に感じられる時間でした。「救急の現場で、私たちは何を大切にしているのか」。その答えが、この映画とNさんの言葉の中にたしかにありました。
皆さんもぜひ『フロントライン』をご覧になって、自分自身の経験と重ねてみてください。

入念な取材に基づいて事実を逸脱したくないという制作人の思いに応えて、繰り返しチェックと現場指導に参加しました。監督と豪華俳優陣の演技のコラボで素晴らしいエンターテイメント作品に仕上がっていますよね。さまざまな関係者や状況との狭間で揺れ動くリーダー「結城」の姿が描かれていますが、実際に私も迷いながら決断を繰り返す日々であったことを思い出します。一方、この映画の隠れたテーマは偏見・差別・誤解なのです。私も抑えきれない涙が何度も出てしまうシーンがあります。現場だけでなく、帰ってからもつらい思いをされた仲間に心から感謝です。日常の医療でも災害時の医療でも、多くの制約がある中で「人道的に正しいこと」「悲劇の回避」「Well-being」を追求する姿勢を医療者として持ち続けていきたいものですね。
阿南先生の著書

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