もしも、自分の大事な友人が、家族が、最愛の人が、ある日突然倒れたら。
意識はあるのに、会話ができなくなったら。
そのとき人は何を想い、何を伝え、何を選択するのか。
2022年、新型コロナウイルス感染症の影響が続く、このときに、終末期医療とどう向き合うのか……。

2021年2月にVR演劇として公開された『僕はまだ死んでない』が今度は舞台化。
公演に先駆けて、3回に分けて舞台にかかわる皆さまにインタビューしました。第2回は本作より、医療監修に携わった医師のお二人にお話を伺いました。

僕はまだ死んでない

僕はまだ死んでない

2022年2月17日(木)~28日(月)
銀座・博品館劇場にて上演

原案・演出:
ウォーリー木下
脚本:
広田淳一
出演:
矢田悠祐、上口耕平、中村静香、松澤一之・彩吹真央

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塚田圭輔

塚田圭輔
2009年に鳥取大学を卒業。地元の島根県で研修医時代を過ごし、2012年に帝京大学医学部整形外科学講座に入局。大学病院や関連病院で研鑽を積み、現在は帝京大学医学部整形外科学講座の大学院生として臨床研究と整形外科で診療をおこなっている。整形外科領域でVRを使った医学教育研修ツールの開発など企業と共同研究をおこなう傍ら、今回の監修の話をいただいた。

中里一郎

中里一郎
2017年に帝京大学を卒業。帝京大学医学部附属病院で研修後、2019年に脳神経外科学講座に入局。現在は国際医療福祉大学三田病院の脳神経外科で診療をおこなっている。

終末期医療というテーマにスポットをあててもらえた反面、あらためて考えさせられること

ーー終末期医療に関わる今回のテーマ、医師からみてどんな風に感じられましたか。

中里 直人のような脳幹梗塞の症例では一般的に意識障害があることが多いですが、実際の例として直人のように意識が保たれている状況も起こり得ます。こうした状況では、基本的に家族との話し合いが多くなりますが、僕らはどこまで延命するか、これがどこまで患者さんのためになっているかは、常に考えを巡らせています。直人のようにしゃべることはできないけど、僕らが言っていることは聞こえているようだ、でもどこまで理解しているかわからないのは、とても判断が難しいところです。今回の舞台でも医療の現場でもそうですが、患者さんには聞こえていないだろうと話を進めてしまうことも、実際は少なくはないかもしれません。

塚田 脳卒中や心筋梗塞、交通事故など、突然のことで患者さんや家族の状況が一変する場面には、医療現場でもしばしば遭遇します。そうしたときに、現実をどう受け入れていくのか、本人や家族がどうやって最良の選択をしていくかは、現場でもとても難しく感じるところです。本作では病気と患者さん、家族と医師との関係、治療方針をどう決めていくのかという場面が密に描かれていて、監修を通してあらためて考えさせられた作品です。また、すごく複雑な状況が絡み合い、葛藤がありながら、それでもみんなが主人公のことを思い対話を重ねていく。愛を感じるストーリーだとも感じました。

ーー終末期医療では、どのような現状や課題があるとお考えですか。

中里 僕らでさえも、どこまで最期のことを考えられているかは、正直なところ自信はありません。だけど、誰でもこういう状況になることもあると、知ってもらいたいです。意識が失われてしまっても、現代では医療技術が進み、呼吸や食事に関してもできる治療はたくさんありますから。一切考えていないと、「とにかく全部やってください」と医師にお任せしてくる人が多いのも事実ですね。

塚田 高齢化、核家族化が進むなかで、高齢の夫婦だけで、片方が急な病気でいろんな治療の選択を迫られたときに、判断が難しいと感じる場面は日々の診療でも多々あります。意識がない状態になると本人には聞けないので、残された家族は、なるべく苦しい思いをさせないで最期は安らかに息を引き取ってもらいたいと思う場合もあれば、突然のことであればあるほど、元通りになってほしいと願う場合もあるでしょう…。ある程度こうなったときにどうしたいというのは、各個人が考えてほしいことで、今回の舞台を通じて考えるきっかけとなればと思います。

中里 現場の医師でもなかなか難しい、常に悩むところですよね。どこかで治療をやめたほうがいいのか、どういう風に本人が感じているのかわかりませんから。現場でも家族で意見がまとまらないことはよくありますし、僕らの話し方によって、印象が変わってくることもあります。例えば90歳を超えるような超高齢の患者さんですと、ただただ延命するような方法よりは、われわれも本人の負担が少ない選択肢を提案しがちになってしまいます。こうした場面は医師よりも看護師さんのほうが患者さんや家族と関わる機会が多いので、この作品では同じようにあらためて考えさせられることが多いかもしれません。

嘘がないように、不自然な点がないようにすり合わせを

ーー医療監修するうえで一番気を付けたところはどんなことですか。

塚田 まずは、嘘がない、不自然なところがないようにすることです。病状や治療内容については、専門である中里先生とも相談をしながら台本を見直しました。医療従事者からみても違和感が少ない内容になっていると思います。例えば、台本を最初にもらったとき、くも膜下出血で手術を受ける、身体は動かないけれど会話は理解できて、眼球だけが動かせるという設定でした。こうした設定でストーリーの矛盾点がないようにいくつか変更したところがあります。また、セリフのなかで医学用語が出てくるときに、見ている人にとってはわかりにくいことも多いので、なるべく言い換えられるものは換えて、 どうしても使わないと不自然だというところには補足説明を入れて伝わるような工夫をしました。

中里 僕は基本的に塚田先生を通して相談を受けていました。当初の設定でもあったくも膜下出血では、意識障害の出方が違うし、ここまでの状態にはならないので、状況からみて脳幹梗塞と設定を変更して細かなところのアドバイスをしました。

ーーなにか演出面で指導はされましたか。

塚田 小道具に関する相談に対してアドバイスをしました。例えば、直人とのコミュニケーション場面で文字盤(あいうえおが羅列されているコミュニケーションツール) を使用するのはどうかと提案し、実際にどのように使用するのかなどのアドバイスはしました。

ーーさいごに、読者や看護師に向けてのメッセージをお願いします。

中里 自分がこの作品の患者さんや家族のようになる可能性は誰しもありますから、そういう状況を自分に置き換えながらみてほしいですね。そして、その後に周りの人たちとも話をしていただけたら嬉しいです。特に看護師さんたちは僕ら以上に患者さんや家族と接する機会が多く、医師には聞けないようなことを聞かれて悩み、葛藤することもあるかもしれません。そうしたときに患者さんや家族がどう感じるのか、より深く考えるきっかけとなる作品になっているのではないかと思います。

塚田 突然、生活がガラッと変わってしまうことは、本人としても家族としても誰にでも起こり得ることです。自分だったらどうするかと考えるきっかけになればと思います。看護師さんもいろんな状態の患者さんを、いろんな病棟でケアされると思いますので、この作品のような患者さんと巡り合うこともあるでしょう。自分が出会ったときにどうケアできるか、患者さんにとってなにが最良であるのかを、ともに考えるきっかけとなれば嬉しいです。

白石弓夏
構成・記事作成 白石弓夏
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取材 編集部