感染者数が増加し続け、多くの医療者が直面している新型コロナウイルスの治療と感染防止について、今回は中医師である今中健二氏に中国医学からみた新型コロナウイルスの病理と治療、感染対策について考察していただきました。(メディカLIBRARY編集室)
※漢方処方に関しては必ず医師の診断を受けてください。
※看護を実施の場合は医師を含めた医療チームと確認のうえ行ってください。
感染症に対する治療の考えかた
漢方や鍼灸に代表される中国医学では、新型コロナウイルスは癘気(れいき)といわれる感染症に分類されます。古典中国医学でも感染症については多くの研究がなされており、ウイルスに類する疾患の記載も“温病条辨(うんびょうじょうべん)”の中にありました。
中国医学の感染症に対する治療の考えかたは、ウイルスによってどのように身体が変化するか、特に五臓の病理変化を中心に考え、その五臓の変化を落ち着かせることを中心に治療を行います。病変が起きる五臓は、肺と脾臓(と胃)です。ここにウイルスによってひき起こされる湿邪(しつじゃ)という体内の水液の停滞や浮腫が臓腑組織に発生します。この結果、喘息や咳、倦怠感、食欲不振、味覚障害、肺水腫などが初期にみられます。
ここから疾患が進行すると、大きくわけると肺と脾臓の機能のそれぞれ亢進と衰弱の4パターンの病変が発生します(本来はもっと細かくわけますが、あくまでも急を要する状況ですので大分類です)。
イメージでいうと、肺や気管支周辺を湿邪といわれる浮腫が蓋をし、肺は炎症状態で呼吸が荒くなるが吐き出せなくなる状況。呼吸が荒く、発熱、咳を伴うことが多い。
→麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)
→のどの痛みを伴う場合は銀翹散(ぎんぎょうさん)
肺に湿邪が停滞し呼吸困難を生じる。呼吸機能も低下、その湿邪が循環器系におよぶと心肺停止の危険も伴う。喫煙習慣によっても湿滞しやすくなり、抗凝固薬を多用していると発生することもある。
→麻黄加朮湯(まおうかじゅつとう)
脾の機能亢進は胃炎と同じような状況になる。胃から発生した熱が上部にある肺と心臓を機能亢進させる。しかし、肺に停滞した水腫がそれを阻み、呼吸困難や多痰、高熱、意識障害を発生させる。
→白虎湯(びゃっことう)
脾と胃に水滞が発生すると消化活動ができなくなる。中国医学では脾と胃が気血生化の源といわれる。そのため貧血や気力不足が発生し、心肺機能低下、意識不明、体温低下、倦怠感、全身の水腫(肺水腫や腹水も含む)などが発生する。
→麻黄湯(まおうとう)+五苓散(ごれいさん)
患者への看護
基本的には上部に水滞を生まないようにギャッチアップ座位をとります。機能亢進が発生している場合は、低カロリー食にして発熱を抑えます。室内の湿度に注意し、できるだけ除湿することが大切です。浮腫が四肢に発生して、病症が固執することもありますので四肢マッサージも有効です。
感染予防のために
中国の医療現場で行った予防は健脾益衛(けんぴえきえい)です。衛気(西洋医学でいう抵抗力)を高めます。水分過多が衛気の生成を妨げますので、多飲は控えます。目安は、舌に歯形や滑苔といわれる舌の上に水たまりのような水滞がないこと。もしあれば、過剰な水分状態であると中国医学では診断します。そうすると衛気の生成を妨げてしまいます。
帰宅後、手洗いやうがいはもちろんですが、ウイルスは皮膚からも浸入すると考えられますので熱めの温度での入浴をし、発汗によって侵入を阻害してください。
中国の江西省の医療チームでは、予防として麻黄湯を飲んでから、医療にあたっていました。
1972年兵庫県生まれ。学生時代、母親をがんで亡くしたことをきっかけに医療に関心をもち始め、一度は企業に就職するも、5年で退社。中国江西省の赣南医学院に留学。名誉教授の何懿氏のもと、手技のみによって患者が盲腸や心臓病、意識不明の状態から回復する現場を目の当たりにする。その後、新余市第四医院で中医師免許を取得。リウマチやヘルニアなどの治療に従事する。2006年、故郷の神戸市に株式会社同仁広大を設立。整体療法院として施術を行う一方で、西洋医学との垣根を越えた「患者の立場に立った医療技術」発展のため、医師や看護師、医学生を対象とした講義や、神戸大学医学系准教授との連携による帯状疱疹の共同研究のほか、神戸市看護大学(丹野恵一准教授)や神戸薬科大学教授(沼田千賀子先生)での特別講義、中医学にもとづいたがん治療の講演など、全国各地で精力的に活動を行っている。20代より極真空手に没頭し、のちに清心流空手に移籍、北海道チャンピオンになった経歴ももつ。