ここには12枚の『問い』が書かれたカードがあります。
ゲストが、それぞれ選んだカードに書かれた『問い』について、インタビューを通じてゆっくり考えていきます。
カードには何が書かれているか、ゲストにはわかりません。

ここでの『問い』とは、唯一の正しい答えがあるものではなく、思考を深め、さらなる問いを生んだり、生涯にわたって何度も問い直したりするような本質的なもの。
そして、ゲストの考えや価値観、人柄に触れるようなものが含まれています。
簡単に答えは出なくても、こうした考える時間自体に意味があるのかもしれません。
いま、少しだけ立ち止まって、あなたも自分や周りの人に問いかけ、想いを馳せてみませんか。



ゲスト:ダイスケ
看護師8年目。東日本大震災を機に災害看護に興味を持ち、看護師に。新卒から急性期病院にて心臓血管外科と循環器内科の混合病棟で3年間勤務。その後、ワーキングホリデーでフィリピンやカナダに滞在。帰国後は派遣や応援ナースで地域包括ケア病棟の立ち上げ、緩和ケア病棟などで経験を積む。2020年に訪問看護に転職し、2022年4月に訪問看護ステーションの管理者に就任。

インタビュアー:東恵理
総合病院にて手術室、外科病棟を経験。子育てと仕事の両立に悩み、夜勤のない小規模多機能型居宅介護施設に転職。施設在職中にケアマネジャーの資格を取得したことをきっかけに在宅看護に興味を持ち、訪問看護の道へ。現在は非常勤で訪問看護をしながら、看護学校非常勤講師やライターとして活動している。趣味は釣り、山登り、推し活。



仕事がつらくて逃げ出したい、そんなときに先輩からかけられた言葉

東:
今回はご協力いただき、ありがとうございます。以前、ダイスケさんのyoutubeに出演したご縁から、今回は私がインタビューさせていただきます。すごく楽しみにしていました。さっそくではありますが、ダイスケさんのご経歴についてお伺いしたいと思います。まず、最初に入職された病棟で3年勤めた後に、海外に行かれたとのことですが、何かきっかけがあったのでしょうか。

ダイスケ:
新卒のとき教育担当の先輩がすごく厳しい人で、精神的な負担が大きく、半年働いたころに「このまま働き続けるのは難しい」と思ったんです。ちょうどその時期に、高校時代の友人からワーキングホリデー(以下:ワーホリ)の話を聞いたことも影響しています。仕事がつらくて逃げ出したいという状況から、もともと海外に興味があったので、それで自分も行ってみようと思いました。3年で退職したのは、専門学校卒業後にその病院で働かないといけない制約があったので、なんとかそれまでは頑張ろうと思い乗り切りました。

東:
つらい経験をして、環境を変えるために海外に飛び出したんですね。それでも残りの2年半という短くはない期間、どのような気持ちで過ごされていたんでしょうか。

ダイスケ:
実は、同じ病棟に専門学校の先輩もいて、いろいろ相談していたんです。その先輩から「すごくつらい時期というのは誰にでもあると思う。逃げ出すのは簡単だけど、そこで耐えたことで自分の武器となるような、得られるものもある」と言われたのが、すごく心に残っていて。周りの先輩が優しく接してくれたことも大きいですね。あとは「海外に行って何か役に立つように、今何か身につけられることを勉強してみたら」とアドバイスをもらい、今の病院にいながら身につけられることを頑張ってやってきました。大学の学士を取ったのもそのためです。つらい時期ではありましたけど、今やることを自分に課したことで、気持ちの逃げ道を作っていたのかもしれないです。「ここで耐えられたら、きっとどこに行っても耐えられるんじゃないか」みたいな精神力が、すごくついたように今では思います。

社会情勢の変化もあり、看護師としての働き方を模索

東:
そうだったんですね。それから、海外ではどんな仕事をされていたのですか。

ダイスケ:
海外では観光ガイドの仕事をしていました。カナダのイエローナイフという地域で、オーロラの観光に来られる日本人を対象に。実は海外で看護師の仕事をするのは難しいんですよね。自分なりにいろいろ調べたんですけど、やっぱり費用や経験年数などのきびしい条件があって、そのときの自分には難しいと思い諦めました。

東:
海外で看護師の仕事をするのは難しいんですね。ダイスケさんは新卒のときにつらい経験をされたわけですが、ワーホリから帰国し、また看護師の仕事に戻られたというのは、どのような思いからでしょうか。

ダイスケ:
当時はトラベルナースにも興味があったんです。ワーホリでの観光ガイドの経験を生かした仕事をやっていきたいと思っていたので。でも、男性看護師だとできる仕事の幅が狭い現状があることを知りました。 例えば、対象者が女性だと男性看護師は敬遠されることが多かったんです。だからトラベルナースは諦めて、応援ナースや派遣看護師でいろいろ働いてみたんです。地域包括ケア病棟や緩和ケア病棟のほかにもデイサービスや有料老人ホームなどでも働きました。

東:
そうした経緯があったんですね。それで応援ナースや派遣看護師を経て訪問看護に転職されたわけですが、もともと興味があったのですか。

ダイスケ:
いえ、訪問看護に興味があったわけではありません。本当は帰国後しばらく働いて、次はオーストラリアに行こうかなと思っていたんです。でも、新型コロナウイルス感染症が流行してしまって行けなくなって……。そのときに、自分の将来について立ち止まって考え直しました。そして、自分の看護師の資格を活かした生き方で、なおかつ今後の日本の高齢化を考えると、やっぱり在宅の需要が高まるんだろうなと思ったんですよ。それで、在宅の分野に挑戦したわけです。

東:
コロナ禍でいったん立ち止まって考えてみて、それでもやっぱり資格を活かした仕事を選ばれたと。帰国後の話を聞いていても、軸にあるのは看護師ということですね。

ダイスケ:
そうですね。自分のなかで軸にあるのはやっぱり看護師で、資格を活かした仕事をしたいという思いがあるんですよね。観光ガイドでの経験は、訪問看護における利用者さんの希望を汲み取ってケアに活かすところにも通じますし、緩和ケア病棟での経験は、最期をどう過ごしていこうかと考えている人へのかかわり方や死に対する考え方が身についたと思います。ただ、緩和ケア病棟では、思いのほか稼働率が高く、患者さんの希望に沿えないことも多くありました。もっと1人ひとりゆっくり時間をかけて、患者さんの思いをサポートすることができたらと考えていて、訪問看護はそれが少しずつ実現できるところだと思っています。

東:
ダイスケさんがこれまでいろんなステップごとに、さまざまなスキルを身につけているのがわかります。看護師の軸を中心に考えているのが伝わってきました。

これまでずっと心に引っかかって残っている後悔、もうあんな経験はしたくない

東:
では本題に入ります。こちらでいくつか質問のカードを準備しているので選んでください。

ダイスケ:
じゃあ、1番左で。

東:
1番左は、「看護師の仕事をひとことで表すなら」です。

ダイスケ:
ひとことで表すなら……。難しいな。挑戦じゃないですか、挑戦。看護師の仕事って、いろんなことに挑戦できると思います。もしかすると、僕だからこそ出る言葉かもしれないですね。といっても、昔の僕は何に対しても興味を持てないタイプだったんです。何も行動せず、ぼけーっとしているような人間でした。でも、高校生のときの部活でやらずして後悔したことがいくつかあり、それがずっと引っかかっていて……。後悔するくらいなら、後悔しないために生きていかなきゃなと思うようになりました。

東:
部活での出来事がきっかけだったんですね。詳しく伺ってもいいですか。

ダイスケ:
高校生のときはテニス部に所属していて、ダブルスで組んでいた相方がいたんです。でも、当時の僕はちょっとひねくれて、やさぐれていたので、ぜんぜん練習に行っていませんでした。それは、テニス部のなかで僕はどちらかというと強かったので、大会が近くなってから練習すれば大丈夫だろうと考えていたからです。だから、練習には行かず、相方からの忠告も気にせず、友だちとカラオケに行ったり遊んだりしていました。そういう甘い考えをしていたことで、いざ大会のメンバー発表のときに、自分の名前は呼ばれなかったんですね。しかも、相方から「俺はお前と組みたくて、頑張っていたのに」と言われて……。そのことが今でも心に引っかかってるんです。もう二度とあんな経験はしたくないですね。

東:
そのような経験から、後悔しないように、とにかく今できることを頑張ろうと思ったんですね。

ダイスケ:
そうですね。部活のこともそうだし、新卒のときの経験も大きいと思います。しんどい経験があってそれでも後悔しないようにと思ったからこそ、思い切ってワーホリにもチャレンジできました。日本に戻ってから、応援ナースや派遣看護師をするなかで地域包括ケア病棟の立ち上げにかかわり、訪問看護という新たな分野にも進むことができました。とにかくなんでもやってみようという思いで。後々になって「あのとき調べておけばよかった」「あのときこういう風に行動しておけばよかった」と後悔するのはもう嫌ですから。

東:
後悔しないように生きるためにまずはなんでもやってみる。そのような気持ちをもって今までいろいろなことに挑戦してこられたのですね。ダイスケさんにとって、看護師の仕事は「挑戦するべきもの」なのか、それとも「挑戦するために必要な武器」のようなものでしょうか。

ダイスケ:
僕にとっては、挑戦するための武器になっているかもしれないです。でも、挑戦して学んでいくところもあると思うので、本当に人それぞれ違った看護の道があるという意味合いも含んだ『挑戦』だと思います。

東:
看護師の仕事は挑戦するための武器。ダイスケさんだからこそ出てくる言葉かもしれませんね。ダイスケさんが今後、挑戦したいことは何かありますか。

ダイスケ:
管理者として自分自身の力をつけていくことはもちろんですが、訪問看護ステーションを支援する仕事に挑戦したいですね。訪問看護ステーションは年々増えている一方で、経営が成り立たなくて閉業してしまうところがたくさんあるんです。たとえば、困っている訪問看護ステーションに僕がスポットで入り、何か役に立てたらいいなと思います。地方の訪問看護ステーションであっても、zoomでお話する機会もあるので、そうしたなかで僕の経験をお伝えできるような活動をしてみたいと思っています。また、看護学生や訪問看護への転職を考えている看護師に対して、僕のようなキャリアもあると話ができたらいいですね。

仕事とプライベート、オンオフはなくても考える深さで調節

東:
では、2つ目の質問に移りたいと思います。

ダイスケ:
そしたら、逆に1番右で。

東:
「仕事に行きたくないときはどうしていますか」です。

ダイスケ:
仕事に行きたくないときは、どうしているだろう……。いや、 逆に聞いてみたいですね。東さんはどうしていますか。

東:
私も朝起きて「もう仕事に行きたくない、もう布団から抜け出すことすらもつらい」というときがあります。そのときは「今日1日をとりあえず乗り切ったら、夜においしいものを食べるぞ」「週末はこんな楽しいことしよう」とその先の楽しみを考えて、なんとか頑張って仕事に行こうと、自分を奮起させます。自分にご褒美をあげるようなイメージですね。

ダイスケ:
そういう考え方もあるんですね。僕もやっぱり仕事に行きたくないこともありますけど、管理者なので行かないわけにはいかないですからね。朝の行動をパターン化しているかもしれないです。朝は決められた行動をすることでオートマチックに動くことができるので、余計なことを考えずに、家を出ることができます。

かといって、管理者である以上、仕事のことをまったく考えないということは、僕の場合あまりないかもしれません。なので、オンオフを切り替えるのではなく、考える深さを調節しているようなイメージでしょうか。たとえば、部屋の電気のように、明かりを強くしているときが、仕事をMAXに頑張っているときで、豆電球みたいなときは友人といるときやプライベートのときというように、調整をしています。

東:
常に仕事のことは頭にあるけど、考える深さを調節することでコントロールしているんですね。マネジメントする側だと、自分ではコントロールできないいろいろな悩みも多いと思います。たとえば、自分がマネジメントや教育などをする立場になって、何か意識していることはありますか。

ダイスケ:
管理者経験としてはまだ1年も経っていないですから、さまざまな力がまだ足りないとは思います。ただ、僕は新卒のときに、怖い先輩の前でビクビクしてなにも言えなくなってしまった経験があり、特にスタッフへの伝え方を意識しています。当時は教育担当の先輩に教えられていないことを「なんでできないの?これ教えたよね?」「なんで2回も言ってるのにできないの?」と一方的に責められて、どんどん萎縮して思考がまわらなくなり、閉じこもってしまっていました。そういう経験をスタッフにはさせてはいけないと思います。スタッフがミスをしたとしても、そのときにどういうことを思って行動したのかをまず聞いたり、気持ちが表出できるように声かけをしたり、そういう伝え方を意識しています。

失敗をおそれず、自分がやりたいと決めたことを一生懸命やってみる

東:
では、最後の質問です。「あなたが後輩の看護師に伝えたいことは何ですか」

ダイスケ:
後輩看護師に伝えたいこと……なんだろう。やってみたいことをやろう、やってみたいことを"一生懸命"やろうかな。やってみたいことをやるだけでなく、一生懸命やることが大事だと思います。一生懸命やれば何か得られるものがあるだろうし、なかには嫌なことや失敗もあるかもしれませんが何度でもやり直しできますから。

僕も新卒からの3年間はとくにつらかったけど、思い切って海外へ行ったのは良かったと思っています。正直すぐにでも逃げ出したかったし、逃げれば良かったかもしれないんですけど……。それでもすぐに逃げずに3年間耐えて、いろんな人に相談したうえで、最終的に自分で進む道を決めたので後悔はありません。世の中にはいろんな境遇の看護師がいて、立場や状況でいろいろ変わってくるとは思います。新しいことに挑戦するのは不安があるかもしれないけれど、本当に自分がやろうと決めたことはやってみてほしい。さっきから繰り返しになりますが、それだけ伝えたいことかなと、自分を客観視して出てきた言葉です。

東:
新しいことに挑戦するのは不安がありますよね。たとえば、やりたいことが見つからない人に対して、ダイスケさんからアドバイスするとしたら何かありますか。

ダイスケ:
たしかに、「やりたいことがない」という人は意外と多いですよね。それってもしかすると、世の中にどんなことがあるのかそもそも知らないから、「やりたいことがない」と思い込んでいるのではないでしょうか。たとえば、同期や先輩、後輩と話をすることで、自分が知らないほかの世界を見つけるヒントになるかもしれませんよね。

東:
いろんな人と話すことで見えるものが変わりますよね。新卒からの3年間はダイスケさんがいろんなことにチャレンジするきっかけの1つなのかなと思いますが、もし当時の先輩に会う機会があったら話ができそうですか。たくさんの経験をされたダイスケさんだったら、ちょっとまた何か違う接し方やかかわりができるのかなと思うんですけど。

ダイスケ:
会ってみたい気持ちはありますね。さっきも話しましたけど、僕はこのつらい経験があったから人への伝え方をめちゃくちゃ意識するようになりましたから。それに今は、当時に比べて自分のコミュニケーションスキルもあがっていると感じています。だから、その先輩に会ったら「あのときの僕、めちゃくちゃ大変だったんですよ」と伝えたいです。

東:
ダイスケさんは高校時代の苦い思い出や新卒時代のつらい経験もありながら、それを糧に今自分にできることは何かと考え、自分がやりたいと決めたことを一生懸命やってみる、そして今でも新たなことに挑戦し続けておられるんですね。今日はとても貴重なお話を聞かせていただきました。ありがとうございました。

インタビュアー・白石弓夏さんの著書



Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~

Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~
私もエールをもらった10人のストーリー


今悩んでいるあなたが元気になりますように
デジタルアートや3Dプリンタを看護に活用したり、看護をとおして一生の出会いをつかみ取ったり、在宅のほうが担い手が少ないから訪問看護に従事したり、苦しかった1年目のときの自分を手助けできるようにズルカンを刊行したり、医療と企業の橋渡しをするためにスタートアップに就職したり、悩みながらも新生児集中ケア認定看護師の道をまっすぐ進んだり、ロリータファッションモデルとして第一線で活躍しながら看護師を続けたり、目的に応じて疫学研究者・保健師・看護師のカードをきったり、社会人になってから「あっ、精神科の看護師になろう」と思い立ったり……。 さまざまな形・場所で働く看護師に「看護観」についてインタビューしようと思ったら、もっと大事なことを話してくれた。看護への向き合い方は十人十色。これだけの仲間がいるんだから、きっと未来は良くなる。「このままでいいのかな?」と悩んだときこそ、本書を開いてほしい。

目次


◆1章 クリエイティブな選択肢を持つこと 吉岡純希
◆2章 大きな出会いをつかみ取ること 小浜さつき
◆3章 現実的な選択肢をいくつも持つこと 落合実
◆4章 普通の看護師であること 中山有香里
◆5章 ものごとの本質をとらえる努力をすること 中村実穂
◆6章 この道でいくと決めること 小堤恵梨
◆7章 好きなことも続けていくこと 青木美沙子
◆8章 フラットに看護をとらえること 岡田悠偉人
◆9章 自分自身を、人生や仕事を見つめ直すこと 芝山友実
◆10章 すこしでも前を向くきっかけを作ること 白石弓夏

発行:2020年12月
サイズ:A5判 192頁
価格:1,980円(税込)
ISBN:978-4-8404-7271-5
▼詳しくはこちらから