ここには12枚の『問い』が書かれたカードがあります。
ゲストが、それぞれ選んだカードに書かれた『問い』について、インタビューを通じてゆっくり考えていきます。
カードには何が書かれているか、ゲストにはわかりません。

ここでの『問い』とは、唯一の正しい答えがあるものではなく、思考を深め、さらなる問いを生んだり、生涯にわたって何度も問い直したりするような本質的なもの。
そして、ゲストの考えや価値観、人柄に触れるようなものが含まれています。
簡単に答えは出なくても、こうした考える時間自体に意味があるのかもしれません。
いま、少しだけ立ち止まって、あなたも自分や周りの人に問いかけ、想いを馳せてみませんか。



ゲスト:鳩ぽっぽ
看護専門学校から看護大学に編入、卒業後は産業保健師として企業に入社して現在4年目。看護過程や関連図に関するSNS発信やアプリ制作などに携わっている。

インタビュアー:白石弓夏
小児科4年、整形外科・泌尿器科・内科系の混合病棟3年、その後、派遣で1年ほどクリニックや施設、ツアーナース、保育園などさまざまなフィールドで勤務。現在は整形外科病棟で非常勤をしながらライターとして活動して5年以上経つ。最近の楽しみは、仕事終わりのお酒と推しとまんが、それと美味しいごはんを食べること。

苦手だった看護、保健師を目指して看護大学に編入

白石:
本日はよろしくお願いします!鳩くんは学生のときから知っていますが、あれからもう4年目になるんですね。そもそもの経歴や看護専門学校から看護大学に編入した経緯について、まずはお聞きしたいです。

鳩ぽっぽ:
よろしくお願いします。そうなんです、もう4年目になりました。最初は看護の専門学校に3年間通っていて、そこから保健師を目指して看護大学に編入した形になります。それにはいろいろと理由がありまして……。元々は看護や医療ではなく生物学などの分野に興味があったんですが、家の事情などもありまして、近隣でできるだけ費用がかからないところでということで、看護学校に入学した経緯があります。入学してからも、解剖生理や病理学、感染症のような分野は非常に興味があったんですが、人との対話、患者さんとの接し方、関係性のなかでどう看護を展開しているかみたいなところで悩んでしまい、看護師に向いていない、辞めたいという気持ちがありました。それで悩んでいたところに、教員から「産業保健という道もある」と教えてもらいまして、企業で予防活動の最前線に立つような専門職の仕事が魅力的に感じ、2年間大学に編入することになりました。

白石:
看護師は向いていないと、保健師を目指して編入されたんですね。それはいつごろからそのように考えていたんでしょうか。

鳩ぽっぽ:
看護学校1年生の終わりごろですね。基礎実習のなかで「患者さんのことをとらえましょう」「その人に合ったケアをしましょう」みたいな話が出たときに、自分の頭のなかで考えて考えて、考えたけどわからない、しかも教員はあまり助言してくれるタイプではなく、迷走してしまって……。特別、何か厳しいことを言われたというよりも、何も言ってくれなかったので、自分が折れてしまいそうだったというのはあります。今思えば、もう少し看護の型のようなものを、はじめに教えてもらいたかったのかもしれないですね。

それで、2年生になって新しい担任に変わったタイミングで面談の機会があり、そのときに自分の考えていることを伝えました。大学に編入するためには、2年生の夏休みごろには受験勉強や準備などをはじめていましたから、早い段階で相談できてよかったと思います。看護学校の3年間もとりあえず保健師を目指して大学にいけば、自分が興味のある病理学や感染症など専攻できる教室があったので、とりあえず頑張ってみようと前向きな気持ちになれました。当時は、自分には合っていないかもと思うことでも、そのなかで自分のやりたいことや興味のあること、実現できることはなんだろうと考えて探していましたが、意外とあるもんだなと思えたのは、教員からさまざまな選択肢を提示してもらえたことが大きいです。今、何が辞めたい理由なのか、現状のなかでも何に興味が持てるのか、やってみてもいいなと思えるようなものはないのかと自分のなかで探してみることは、自分にとって生き方の指標になるのかなと思いました。

白石:
なるほど、自分のなかでいろいろと分析されて、今あるところから選択肢を広げていったんですね。

鳩ぽっぽ:
あとは、学校を辞めたいと思っていた1年生の基礎実習のときに、同じような経験をした男子看護学生との出会いも大きかったです。彼とは、毎日行き帰りのバスのなかで「どうやったら辞められるか」「辞めたあとどうするか」みたいな話をずっとしていたんです。最初は辞めることばかり考えていたんですけど、辞めたあとどうするのか、自分ってどうしたいんだろう、どうなったら自分は幸せに生きていけるんだろうと話ができる人で。だんだんと看護師の資格を持ちつつも何かできることがありそうな気がしてきて、看護師を続けるんだったらどの就職先がいいかと具体的な話をしたこともありました。そのおかげで、自分のなかで将来像が鮮明にイメージできるようになり、看護学校を続けて看護師になった結果得られるキャリア、道があると気づけました。自分としては、看護師として病院で働かなくちゃいけないという固定観念があったのがそもそも嫌だったんでしょうね。

白石:
新しい教員と、男子看護学生との出会いがあったんですね。今のお話を聞いていると、鳩くんが現在看護過程や関連図の発信やアプリ制作をしているところと、どうやって繋がってくるんだろうと思ったのですが、ずっと看護が苦手だったわけではないんですか。

鳩ぽっぽ:
関連図を書くこと自体は得意だったと思います。看護過程も最初は文章で表すのは苦手だったんですけど、3年間みっちり実習と記録をやり続けていた結果、得意だと思えるようになりましたね。別の看護学校に行っている人と話をする機会があって、そのときに自分の学校ってかなり看護記録に力を入れていたのがわかったので。それで、同じように困っている看護学生がこの先もきっとたくさんいるだろうなと思ったときに、自分なりにできることが看護過程のノウハウをひとつの型として共有できたらいいなというのがありました。看護過程や関連図はこうした型を何回も何回もやっていくうちにようやくわかってくるものだと思うし、最終的には自分でやる必要があるとは思うんですけど、最初から真っ白な段階でどうぞと言われてもできないですよね。なので、ひとつの型として参考になればと思い、微々たる力ではありますが発信を続けています。

従業員の健康を守る、産業保健のしごと

白石:
それで、現在は企業で保健師として働かれているんですよね。実際どのような仕事をしているのでしょうか。

鳩ぽっぽ:
産業保健師の認知度はまだ看護師のなかでは低いかもしれませんね。基本的には従業員の健康を守る、予防的なアプローチをする仕事です。たとえば、健康診断や保健指導、メンタル不調のフォローなど、働くなかで健康に働けなくなってしまった方や働けなくなるリスクがある方のフォロー、サポートをしています。企業風土として健康意識の高い職場は、自分で健康になろうという意識が根付いているので、健康意識を上げていくような活動や環境づくりを保健師が行っています。また、従業員は20~65歳くらいまでと幅広い年齢で、長ければ約40年近く継続的にみていくことができます。他で働く保健師や看護師のように一場面、一時的なかかわりではなく長いスパンでみられるのは大きな違いかもしれませんね。そのなかで関係づくりをしつつ健康に対する予防活動は、非常にアプローチしやすい領域だと思います。

白石:
健康を守るみたいなところで、病院で働く看護師さんが転職した場合、ギャップを感じることもあってマインドセットが必要なこともあるのかなと思ったんですが、実際はどうでしょうか。

鳩ぽっぽ:
あると思います。病院に来る患者さんは、基本的に治したいと思ってくる人たちが多いと思います。だから、患者さん自身がそういう意識で来てくれているので食事指導や生活指導はやりやすい部分があり、違和感がないですよね。ところが、産業保健の場合には、あくまでも会社がフィールドになるので、みなさん働くために会社に来ていて、主目的は働くことなんですよね。看護師や保健師はあくまでそこに入らせていただいているというか。従業員さんの意識はまったく違うところにある、対象者の意識の違いは非常に大きいでしょうね。なので、看護師を経験して産業保健に来られるとギャップを感じやすいところだと思います。こちらがどんなに健康になりましょうと積極的に働きかけても、相手からすると「いや働けているし、わざわざそんなことしなくてもいい」「なんなら、この人しつこい」みたいな印象になり、逆に健康から遠ざけてしまうことにもなるので。そうしたところは気をつけるようにしていますね。

白石:
そこは大きく考え方、かかわり方を変えていかないといけない部分ですね。

鳩ぽっぽ:
そうですね。まず困っていない人たちに対して、自分たち保健師がどうかかわっていけばいいのか、最初のころはけっこう悩みましたね。どのくらいの距離感で接していけばいいのか。ただ、従業員さんとの関係性がやっぱり命だとは思っていて。自分たちが一番身近で健康情報や健康に対するアプローチをかけやすい立場なので、その機会を失わないためにも関係づくりだけは徹底してやっています。たとえば、血圧が高めの人がいても、最初は様子見として、まずは信頼関係づくりからスタートさせて、だんだんと意識を変えていくみたいなイメージです。そうすると、1年くらいフォローしていって、ようやく……ということもあります。この緻密な積み重ねで少しずつ行動変容につながる、これが産業保健の醍醐味かもしれませんね。

とにかく「聴く」ことからはじまる

白石:
それでは本題に移りましょう。こちらの質問カードから好きなものを選んでください。

鳩ぽっぽ:
左から3番目でお願いします。

白石:
あ、これは初めて出たカードかもしれない。「人とのかかわりのなかで大切にしていることはなんですか」です。

鳩ぽっぽ:
今回のインタビューを受ける前にいままでの記事を読んで予習してきたんですが、初めてですね。人とのかかわりのなかで大切にしていること……。本当にありきたりになってしまうんですけど、まず「聴く」ことでしょうか。とにかく「聴く」ことを、自分のなかではすごく大切にしていると思います。産業保健では対面で話をする機会や、保健指導でカウンセリング的に話をする機会もあれば、やりとりのなかで行動変容を促していくようなやり方など、いろんな面談の種類があります。総じて言えるのは、初めての場合は自己紹介したうえで相手の話を聴く、引き出していく、そして受け止める、信頼関係を築いていく、深めていくとなると思います。そのなかで、この人は雑談やリアクションを交えながら会話していく人なのか、端的に目的のことだけ話すような人なのか、いろいろとわかってくるので、面談の進め方はそうしたことを重視しています。

白石:
なるほど、これは仕事に関してのお話ですよね。

鳩ぽっぽ:
そうですね。プライベートは、あまり人とかかわらないというか、元々は陰キャタイプなので人とかかわるのが得意ではなくて。ちょっと距離を置いたうえでひとりでなんかするのが好きなので、看護師が向いていない、看護が苦手だと思ったのもそこがスタートではありました。プライベートで会話するのは、主に嫁ぽっぽですね。

白石:
嫁ぽっぽは、けっこうおしゃべりなのですか。

鳩ぽっぽ:
よくしゃべります。自分は相手から話してくれることに対してリアクションして会話するタイプなので、そのなかで大切にしていることとしたら、余計なことは言わないってことですね。たまにデリカシーのないようなことを考えなしに言ってしまうことがあって、そうならないように、相手から話を振られたときに、一旦自分のなかで余計なことじゃないかと考えて話すようにしています。それは、過去に余計なことを言って怒らせてしまったとか、嫌な思いをさせてしまったことが経験としてあったので、できる限りそうしています。

白石:
そうだったんですか。余計なことを言わないというのは、どうしたら減らせるものなんでしょうか。

鳩ぽっぽ:
自分の場合ですが、相手がこれを言われて嫌だったみたいなことを、ひたすらスマホにメモしていましたね。その内容から推測して応用していくようなイメージです。たとえば、体型のことを言われて嫌だったみたいな話も、メモして定期的に見返して、頭の中に刷り込ませるというか。それで実際話をするときに、NGワードに触れないか、ファクトチェックのようなことをしてから口に出すみたいな。自分のなかでルール化していて、それはもう無意識にできるようになったんですけどね。

白石:
徹底していますね。それはいつごろから意識するようになったんですか。

鳩ぽっぽ:
大学に入ってからですね。こういうことを言われて嫌だったと何度も繰り返してしまうことがあり、次はないようにしようと、書き出していました。それは、主に当時の彼女で現在の嫁ぽっぽに対してだったんですけど(笑)。だんだんと身近な人にも広げていったというか、波及していくようなやり方だったかもしれません。

白石:
総じて、聴くことが大事ですね。ただ、読者の多くは病院で働かれていることを考えると、忙しくてそれどころじゃない看護師も多いと思うんですよね。

鳩ぽっぽ:
そうですよね。業務で忙しいでしょうし、いろんな患者さんをいろんな時間帯、タイミングでみなくちゃいけないと思うので、時間的に聴く意識というところまでしっかりやるのは難しいかもしれません。ただ、そのなかでもICの後や手術や検査が終わってご家族を案内するタイミングなど、すき間時間みたいなところでひとこと話を聴くことだけでも、患者さんや家族としても、この人は私のことを知ろうとしてくれていると感じられると思うので、信頼関係の構築には有効なのかなと思います。立ち話でもいいと思うんです。私も面接みたいに真正面で座るスタイルばかりでなく、「最近調子どうですか」みたいな形で、立ち話からでもそうした機会をどれだけ設けられるかが重要だと思って実践しています。

白石:
なるほど。先ほどは人とかかわるのが苦手という話もあり、現在の仕事は長いスパンで人とかかわる仕事だと思うのですが、そこは苦手意識のようなものはなかったんでしょうか。

鳩ぽっぽ:
苦手意識は少しあります。ただ、仕事は仕事として保健師という立場で働いている以上、そこは専門職として果たすべき役割と、責任感があって、自分のなかで言い聞かせているのでできています。働く前は、自分は大丈夫なのだろうかと不安に思うこともありましたが、やってみて案外大丈夫だったのはひとつ発見でした。また、対象者が働くという方向に意識が向いているのは、自分のなかでは大きいかもしれません。病院で患者さんと接していると、同じ方向を向いて、並走していくイメージがあります。患者さん自身も意識高く、真剣そのもので非常に熱量があるなかで治療されているので、その熱量が大きすぎると、自分のなかでしんどくなってしまうというのがわかったんです。産業保健の場合には、働きに来ることが前提にあるので、健康に対しての熱量が高い方はあまりいません。それが魅力的に映ったのはありますね。こちらに意識が向いていない人に、どうしたらこっちに目を向けてもらえるだろうということを考えたときに、自然にその人のことを自分のなかで考えられるようになって、これだったら自分は大丈夫だなと思いました。それが産業保健の分野で働けている理由ですね。

いろんな道を模索していけば、意外になんとか道が見つかる

白石:
それでは最後の質問にいきたいと思います。「後輩の看護師に伝えたいことはなんですか」です。

鳩ぽっぽ:
そうですね、自分が伝えたいことですよね。最初に話した内容とリンクするかもしれないですけど、嫌だと思ったことでも、いろんな道を模索していけば、意外になんとか道が見つかるよということは、常々思っています。たとえば、看護学生というと、必ず看護師になる道が定められていると感じると思いますが、多くは病棟の看護師であることが大前提で話されていることが多くて。それが嫌だったとしても、実はいろんな道があって、それが見えないようになっているだけだと思うんです。それを知ってもらいたいなと。その道を見つけ出すのは、自分の力なのか、周りの力を借りてなのか、人によると思いますが、何よりもまず自分がどうしたいのか、自分は何が嫌でなんだったらいいと思えるのか、というところを考えていくことが大事だと思います。

白石:
鳩くんの場合は、嫌だと思ったことがあったとき、自分の力でなんとかするのか、周りの力を借りるのか、どちらの割合が大きいでしょうか。

鳩ぽっぽ:
自分の場合は、わりと人に話します。信頼のおける人に対して話をする。アドバイスをもらえるのもうれしいですが、ただ話を聞いてもらえるだけでもいいです。自分の頭であれこれ考えている部分があるので、話をしていくなかでだんだんと頭が整理されてきて、自分ってこういうことがしたいんだとクリアになっていく感覚があります。それはノートに書き出すとかでもいいと思います。徐々に靄が晴れていく、自分の思考が単純化されていって、最後に残ったものが自分の意思なんだとわかってくる瞬間があるので、これはおすすめです。結局やるのは自分自身ですから。これは産業保健でも同じですけど、こちらが行動変容や動機づけを行っても、相手がやらなかったら意味がない。相手にどれだけ腹落ちさせるか、相手がどれだけ自分で考えてやれるようになるかが重要だと思います。

白石:
人と話すことで思考がクリアになっていく感覚わかります、大事ですね。鳩くん、ありがとうございました!

インタビュアー・白石弓夏さんの著書



Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~

Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~
私もエールをもらった10人のストーリー


今悩んでいるあなたが元気になりますように
デジタルアートや3Dプリンタを看護に活用したり、看護をとおして一生の出会いをつかみ取ったり、在宅のほうが担い手が少ないから訪問看護に従事したり、苦しかった1年目のときの自分を手助けできるようにズルカンを刊行したり、医療と企業の橋渡しをするためにスタートアップに就職したり、悩みながらも新生児集中ケア認定看護師の道をまっすぐ進んだり、ロリータファッションモデルとして第一線で活躍しながら看護師を続けたり、目的に応じて疫学研究者・保健師・看護師のカードをきったり、社会人になってから「あっ、精神科の看護師になろう」と思い立ったり……。 さまざまな形・場所で働く看護師に「看護観」についてインタビューしようと思ったら、もっと大事なことを話してくれた。看護への向き合い方は十人十色。これだけの仲間がいるんだから、きっと未来は良くなる。「このままでいいのかな?」と悩んだときこそ、本書を開いてほしい。

目次


◆1章 クリエイティブな選択肢を持つこと 吉岡純希
◆2章 大きな出会いをつかみ取ること 小浜さつき
◆3章 現実的な選択肢をいくつも持つこと 落合実
◆4章 普通の看護師であること 中山有香里
◆5章 ものごとの本質をとらえる努力をすること 中村実穂
◆6章 この道でいくと決めること 小堤恵梨
◆7章 好きなことも続けていくこと 青木美沙子
◆8章 フラットに看護をとらえること 岡田悠偉人
◆9章 自分自身を、人生や仕事を見つめ直すこと 芝山友実
◆10章 すこしでも前を向くきっかけを作ること 白石弓夏

発行:2020年12月
サイズ:A5判 192頁
価格:1,980円(税込)
ISBN:978-4-8404-7271-5
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