ここには12枚の『問い』が書かれたカードがあります。
ゲストが、それぞれ選んだカードに書かれた『問い』について、インタビューを通じてゆっくり考えていきます。
カードには何が書かれているか、ゲストにはわかりません。

ここでの『問い』とは、唯一の正しい答えがあるものではなく、思考を深め、さらなる問いを生んだり、生涯にわたって何度も問い直したりするような本質的なもの。
そして、ゲストの考えや価値観、人柄に触れるようなものが含まれています。
簡単に答えは出なくても、こうした考える時間自体に意味があるのかもしれません。
いま、少しだけ立ち止まって、あなたも自分や周りの人に問いかけ、想いを馳せてみませんか。



ゲスト:ちゅお(内藤美欧)
上智大学の看護学科を卒業し、都内の大学病院のICUやCCU病棟に配属。翌年の1月に退職し、地元の総合病院へ転職。看護師3年目になるタイミングで、大学院に挑戦。アメリカのコロンビア教育大学院に約2年間留学。帰国後は地元の総合病院に戻り、現在は結婚して出産、育休中。
著書『マンガでわかる看護の教育:はじめてのプリセプター,OJT』/Gakken

インタビュアー:白石弓夏
小児科4年、整形外科・泌尿器科・内科系の混合病棟3年、その後、派遣で1年ほどクリニックや施設、ツアーナース、保育園などさまざまなフィールドで勤務。現在は整形外科病棟で非常勤をしながらライターとして活動して5年以上経つ。最近の楽しみは、仕事終わりのお酒と推しとまんが、それと美味しいごはんを食べること。

「椅子に座ることができなかった」新人時代の厳しすぎる環境で

白石:
ちゅおちゃんお久しぶりです! いつもこの企画を楽しみにしてくれていて、記事の感想も送ってくれてありがとうございます!

ちゅお:
ありがとうございます。この間記事の感想を送ったときが、子どもの出産後で夜な夜な孤独なミルクタイムのタイミングでした。ちょうど、今ではママ看護師さんで仕事も両立されている平川亜弥さんの記事を読んで、「あ~めっちゃわかる」と孤独感から脱することができたので弓夏さんにメッセージを送りました。

白石:
そういっていただけると私もうれしいです! それではまず、ちゅおちゃんのこれまでの経歴についてお伺いできますか。

ちゅお:
元々上智大学の2期生として2016年に卒業して、都内の大学病院のICUやCCUのある病棟に配属されました。そこの環境がすごく厳しくて、年明け1月まではなんとか頑張ったんですが、あるときにプツッと折れてしまって退職しました。当時は、もう看護の世界は向いていないのかもしれないと思っていて、次の病院でダメだったら潔く看護の仕事から離れようと思うぐらいには疲れていました。2カ月後に地元の総合病院に転職し、そこでは暖かく迎えてくださって、留学するまでの期間はそこで働いていました。

看護師3年目となる2019年に、看護教育や成人教育分野の大学院で学びたい気持ちが湧いて、アメリカのコロンビア教育大学院に留学しました。そこで修士を取得して、コロナ禍もあって約2年後に帰国。いろいろと就職先は考えたんですけど、自分が学んだことを現場で活かしたいという思いが強く、元の総合病院に戻って現在に至ります。さらに帰国後に結婚、妊娠、出産しての今です。

白石:
怒涛の経歴ですね……! ちゅおちゃんって、私のなかですごくポジティブなイメージがあるんですけど、最初の職場で1年経たずに辞めてしまったのは、どのような出来事があったんでしょうか。

ちゅお:
当時は初めての社会人経験だったので、その環境が当たり前だと思っていたんですけど、とにかく厳しかったです。その厳しさも、耐えられるような厳しさというよりは、度を越しているような……。新人は先輩よりも早く出勤して、朝の7時半までに情報収集を終わらせないといけない。先輩たちも後輩に教える姿勢というよりは、「患者さんをひとりで見られないなら、今日はそこで1日立ってて」みたいな感じで、ナースステーションのど真ん中で1日立って過ごすような、古い体制が当たり前のようにある状況でした。

春に80人くらい新人が入っても、夏には同期が何人か異動や退職していって、どんどんふるいにかけて落とされていく感じでした。なんとか私も食らいついていたんですけど、年明けすぐに家族が私の様子を見て「これは普通じゃないから、もう行くのやめなさい」と言われて。それでも当時は「行かないなんてあり得ない」という思考になっていたんですけど、周りが止めに入ってくれて助かりました。

白石:
自分ではやっぱりそのヤバさには気づかないものなんですかね。

ちゅお:
そうですね。私ももう次は出勤できないかもという気持ちはありながらも、辞めるっていうのもすごく怖くて。そもそも辞めるという発想にも至らなかったです。自然と朝は職場に向かうし、向かう準備をしているし、自分のことをよく知っている人たちが「やっぱりおかしいよ」って言ってもらわないと気づけなかったですね。

しかも、転職した総合病院での初日、新しい職場で先輩たちが「椅子に座りなよ」って声をかけてくれたときに、これは絶対になにか裏があると思って椅子に座わることができかったんです。それくらい新人時代の悪しき風習が染み込んでいて、人間不信になっていました。

ニューヨークで見つけた「なんとかなる」という希望

白石:
次の職場は2カ月で決めたんですね、その間はどのように過ごしていたんですか。

ちゅお:
期間が空けば空くほど看護師を続けたいという気持ちがどんどん消えちゃうような気がしていたので、とりあえず1週間後には新しい病院の見学予約だけはしていましたね。ちょうどその2カ月の間で初めてひとりでニューヨークに行ったんです。そこが後の留学先になるというご縁もありました。よく芸能人の方とかが、道を探したくなったらニューヨークに行っているイメージがあって。私も行ってみたらなにか見つかるんじゃないかという思いがありました。

白石:
元々そういう、思い立ったらすぐ行動、先にピンを立てておくみたいな一面があるんですか。

ちゅお:
思い立ったらすぐ行動しちゃうタイプかもしれないですね。中高と演劇部にいて、そこでいろんな役になるとか、違う自分になるみたいなことがすごく好きだったんです。とりあえず行動を起こせば新しい自分になれるんじゃないかっていうマインドはそのころからずっとあったかもしれません。精神的にしんどいなってときに、「今の私は朝ドラのヒロインだ!」と思って乗り切るような、今でも仕事とかでそう考えることはありますね。

白石:
それで、初めてのニューヨークはどうでしたか?

ちゅお:
はじめは地下鉄に乗るのも難しいし、ホテルのチェックインもクレジットカードが使えなかったりして、日本みたいには優しくないと思って、何度も何度もめげそうになりました。でも、なんとかそれを乗り越えたときの、「なんとかなるんだ!」っていう気持ちに気づけたのはよかったです。その3年後に留学で住むことになると、また印象は変わって、ニューヨークは人が冷たいってよく言われますけど、私は怖い思いとか全然しないで楽しく過ごせていました。みんなフレンドリーだし、自分がどんな身なりをしていようが、いい意味で誰も自分を気にかけないので、そういう自由な空間が、すごく私にとっては心地よかったですね。

白石:
すごくいい期間だったんですね。それで、地元の総合病院に転職して、その後はすんなり馴染むことができたんでしょうか。

ちゅお:
もちろん前の病院でのトラウマもあったので、最初は優しくしてくれる先輩にも、なにか裏があるんじゃないかと構えの姿勢でした。でも、中途の私にもプリセプターとしてついてくれた先輩が、すごく私の人生でかけがえのない存在になって。ひとりの人として、優しく大事に接してくれているのを感じました。基礎から一緒に見てついてくれてサポートしてくれて、だんだんとトラウマは薄れていきました。これってすごいことだなと。前の職場との環境がこんなにも違うのかと嬉しくもあり、ショックでもありました。

白石:
その気持ちが看護教育に興味を持つことにつながるわけですか。

ちゅお:
まさにそうですね。組織風土とか組織の話になりますけど、私はやっぱり自分が働きながら楽しく学べたことが、すごく成功体験につながっていて。患者さんの前で自信を持って立つことができるようになったんです。この差ってなんだろうと思ったときに、看護師が本当に学び続けられる環境が整っていると、生き生き働くことにもつながるかもしれないという仮説が、自分のなかで生まれて。それが本当なのか、どうしたら自分みたいな人をひとりでも減らせるのかを考えて、看護師3年目でちょっと大学院は早いかなという気持ちもあったんですけど、行けるうちに行っちゃえと思って留学を決意しました。

「大学院に行ってからじゃないと、結婚はできない」

白石:
大学院に行けるうちにというのは、なにがそうさせたんですか、年齢?

ちゅお:
それもそうで、あとはやる気とお金と今後ライフプランがどうなるかわからないなかで、当時は今の夫とも付き合い始めていた時期でした。「やっぱり私は大学院に行ってからじゃないと、一人前だと自分では思えないから、まだ結婚はできない」「待っていてほしい」みたいな言い方をした気がします。ちょっと恥ずかしいんですけど(笑)。

白石:
えぇ、かっこいい、もうプロポーズですね……! ちなみに大学院をいろいろ調べるなかで、最終的な決め手はなんだったんですか。

ちゅお:
最初は看護教育でいろいろ調べていたんですけど、自分が想像するもの、ピンとくるものが学べる大学院が見つけられず、視野を広げて海外も選択肢に入れました。アメリカやヨーロッパで調べていくと、看護教育だと現地のライセンスが必要で、また資格の勉強をして資格を取ってから大学院を受験するとなるとかなり先延ばしになってしまう感覚があったので、思い切って成人教育というジャンルから攻めてみようと。

たまたま日本人の先輩でコロンビア教育大学院を卒業した方のブログを見つけてコンタクトを取って、実際に会ってお話をして、教授を紹介してもらえることになりました。そこで弾丸で2回目のニューヨークに。教授とアポを取ってお会いして、「私が学びたいことはここで学べるのか」と聞いてみたら、「大丈夫よ」と言ってくれて、それが最終的な決め手でした。それも思いつきと勢いですね(笑)。

白石:
看護教育とその成人教育って、具体的にどんなことが違うんでしょう。ちゅおちゃんが看護教育ではちょっとピンとこなかった理由はどんなところにあったんでしょうか

ちゅお:
私、総合大学を選んだのは、同じ看護師同士がみんな集まっていると、ディスカッションも看護の話だけになっちゃうかなって思ったからなんですよね。上智では、他学部多学科の授業も一般教養科目として必修で受けなくちゃいけなかったので、そういうところから看護にどう生かせるだろうかって考えること、異なる分野同士を結びつけていくほうが私は好きだったんです。だから、看護教育ってなると、少し視野が狭まってしまうように感じて、だったらもういろんなバックグラウンドのある人たちが集まっている環境で学ぶほうがいろんな視点でディスカッションができると思いました。

結果そうして大正解でしたね。コロンビア教育大学院のクラスメイトには企業の人事、学校の先生とか本当に成人教育に関心がある人たちばかりだったので、全世界からいろんな人たちが来るっていうすごく貴重な経験でした。

「赤い炎から青い炎へ」変化を起こす覚悟

白石:
それでアメリカで約2年留学して、帰国となったときに、なんで地元の病院に戻ろうと思ったんですか。

ちゅお:
そもそも病院で働くか自体をすごく悩みました。クラスメイトはニューヨークで就職したり、国連や大企業で働いたりする人ばかりでした。私も製薬会社とかグローバルな環境で働こうかと考えたこともあるんですけど、自分がやりたいことはなんだろうと、なんのために大学院に行ったのかと考えたときに、原点となる最初の病院での出来事や、そういう人たちをひとりでも救いたいという思いがありました。

別の病院で働くことも考えたんですけど、なにか改革を起こすにしても新しい病院で偉そうな人が来たって思われるよりは、慣れ親しんだ病院で温かく「おかえり」って言ってもらったほうがいいなと思って、元の病院に戻ることにしました。看護部長からは「なんで! もったいなくない!? うちでいいの?」と言われて、もったいない選択なの?と少し違和感もあったんですけど、それが逆にメラメラ燃えてきてしまって。絶対に臨床に戻ろうと思いました。

白石:
そういうメラメラとやる気があるときって、戻ってみて現場との温度差やギャップみたいなものがあったんじゃないか思うんですけど、実際どうでしたか。

ちゅお:
めちゃくちゃありました。戻ってきた直後は、新しく学んできた教育法や最先端の知識をどんどん活かして改革していこうと思っていたんです。だけど、当時教育担当をしていた主任にその想いを熱弁しているときにこう言われました。「あなたの気持ちは今赤い炎でメラメラと燃えているんだけど、赤い炎が長くは続かないから、ちょっと抑えて、青い炎のほうが温度は高く長く続くから。絶対にそっちのほうがいいと思う」って。

それで、ハッとしましたね。たぶんこの赤い炎のまま職場でいろいろ動くと、一時的に変化は起こるかもしれないけど、すぐに消えてしまう。青い炎のようにゆっくりとじっくりとひとつひとつできることをしていくイメージに変わったのは、すごく救われました。

白石:
今は実際に病院内、部署内では教育に関してどんな立場なんですか。

ちゅお:
今は育休中ですが、少し前までは病棟で日勤夜勤と受け持ちがあってリーダーもやっていました。それに加えて病棟の教育担当と、病院全体の教育委員として、2~3年目の研修の講師をやっています。病棟のスタッフが、私を“成人教育について学んできたプロ”という風に思ってくれているので、なにか教えるのに困ったときには、先輩でも「こういうときにどうしたらいいと思う?」と相談に来てくれます。

病棟全体のカンファレンスや月に1回教育レターのようなものを発行していて。こういう教育モデルがあるよって紹介を私が好きでやっているんですけど、そうした小さいことから周知して、日々の教え方にちょっと役立ててもらえたらいいなって思っています。いちスタッフが教えるのに困ったときにすぐに相談できる人という立場に自分がいられるのが、なによりうれしいです。

とくに今は育休中なので、私が抜けて、教育がまわらないとなるのは一番あってはならないことで。システムの部分で、教育のサポートができる人をたくさん育てるというのは意識していましたね。それを今度は外部講師として学会やセミナーなどで話したり、執筆したりいろんな形で活かせているかなと思います。

子育ての悩みを救った「クリティカルシンキング」

白石:
個人的に子育てと成人学習って似ているところがある気がするんですけど、専門的に学んできたちゅおちゃんからみるとどうですか。

ちゅお:
思いっきり結びつくのが面白いですね。まさに今、自分が子育てという新しいものを学んでいる段階で、身をもって成人学習を体験していると思うんです。最近その知識で自分自身が救われたことがあって。たとえば、クリティカルシンキングって、私がすごく好きな成人学習のひとつで、人は思い込みに溢れていることをまずは自覚しようみたいな考え方があります。新人教育でいえば、この子はこうだからって決めつけないようにするとか、それをスキルとして身に着けようっていう研修を自分も何度もやっていたんですけど。自分の子育てが始まったら、もう思い込みに振り回されてしんどくなるっていう状況だったんです。

赤ちゃんはたくさんミルクを飲んで、たくさん寝なくちゃいけない、それがことごとく飲まない、寝ない、という状況に打ちのめされて。メンタルが落ちちゃったときに、ふとクリティカルシンキングをやってみようと思って、紙に今の自分が抱いている子育ての悩みや思いを書き出して。赤字でどういう思い込みをしているのか整理していったんです。そうしたら、すごく気持ちが楽になって、これって全部自分の思い込みだったんだって気づかされて。成人学習のクリティカルシンキングという知識に私自身が救われました。

白石:
ええ、すごい。まさかそこでクリティカルシンキングを活用するとは。

ちゅお:
そうなんです。でも、これも自分ではすぐに気づけなくて、夫に泣きながら「飲まないし、寝ない」って話したときに、もちろん寄り添って話を聞いてくれているんですけど、「そんなに飲まなきゃいけないことなの? 目標値はなにで決めているの?」と聞かれて、ハッとしたんです。それって、ネットに書いてあったからとか、それが当たり前だと思っていたと、それにすごく縛られていたなって。

白石:
旦那さんの冷静なフィードバックがあったんですね……!

苦しみも含めて創造する楽しさを追い求めて

白石:
それではこちらで質問のカードを準備したので、こちらから選んでもらいましょうか。

ちゅお:
誰も選んでいないのやってみたいですね。右から7番目で。

白石:
「なにをしているときに楽しさを感じますか」ですね。これは初めて出た気がする。

ちゅお:
クリエイティブなものがすごく好きで。今だったら、子どもにオリジナルの絵本のようなお話を聞かせたり、手作業で工作したり、新しいものを自由に生み出すのがすごく好きですね。そこで黙々と何時間もやっていられるというか。

白石:
趣味というか私生活でもそうだし、仕事の話でも重なりそうですね。

ちゅお:
そうなんです。仕事でも、麻痺がある患者さんに対して、どうしたら食事が食べられるようになるか、リハさんと一緒に創造して考えることが好きですね。うちの夫がPT(理学療法士)なんですけど、どうしたら歩行介助がスムーズにできるのか、腰を痛めずにできるのかって、そういう話は家でもよくします。ゼロから文章を作るとか書くことも楽しいし、自分のなかから新しいものを生み出す瞬間は一番楽しいです。

白石:
なにか自分のなかから生み出すときって、いろいろ生みの苦しみの前段階もあるんじゃないかなと思うんですけど、それも含めて楽しめちゃいそうですね。

ちゅお:
そうかもしれないです。これは習慣なんですけど、普段から手帳とかに気になった言葉や悩みとか、なんでも帳みたいなものを持ち歩いていて、常にそれを見返しながら、じゃあこれ今度の執筆のネタにしようとか、新しいものを作ってみようかなってなるんですよね。苦しいものも、ちょっとネタにしちゃおうぐらいの気持ちでいます。

白石:
2024年の5月にちゅおちゃんの著書『マンガでわかる看護の教育:はじめてのプリセプター,OJT』が発売されましたけど、漫画になっていて面白いなぁと思っていたんですよね。

ちゅお:
あれは、セリフや登場人物の動きのラフは私が考えたんです。普通だと作家さんが作っているのかなと思われるかもしれないんですけど、自由にやらせてもらえることになって。頭のなかに描いているものをそのまま漫画にしてもらった感じです。作る過程もすごく楽しかったですね。日々の仕事のなかでも決まったルーチンはありますけど、そのなかでどうしたら少し時短ができるか、どうしたら創意工夫ができるかみたいなことは、常に考えていないとつまらなくなっちゃうので。

白石:
どうしたらちゅおちゃんみたいに楽しみつつできるようになる、なにかコツとかってあるんですかね。

ちゅお:
ハードルを大きくしちゃうと余計に苦しくなっちゃうので、本当に小さいことでも自分が生み出した達成感があるほうがいいなと思います。あとは先ほどのネタ帳じゃないですけど、自分が落ち込んだ1年目の経験も、留学中にコロナで一時帰国しなきゃいけないことになった思い出も、なにかネタになるかもしれないと思って。なにか形として消化する方法はいくらでもあるのかなと思うので。悩んでいるときはもちろんそんな風に考えられないんですけど、とりあえず書き溜めておくと、余裕ができたときに見返して笑えればいいかなって思います。

今だったら、「ミルクはいつか飲む」みたいなことを書き出して、壁とかに貼ってあるんですけど、それもいつか笑えるかなって。しっかり落ち込むし、しっかりネガティブなんですけど、それで結局ポジティブに行き着くのかもしれないですね。そういう人生だったなって。

「やめることをやってみる」というポジティブ

白石:
それでは最後の質問にいきたいです。「後輩の看護師に伝えたいことはなんですか」ですね。

ちゅお:
最近自分がモットーにしている言葉が、「やめることをやってみる」なんです。やりたいことってすごく前向きで、やめることってすごくネガティブじゃないですか。でも人生のいろんな節々でやめることってすごく勇気がいるし、ネガティブなんですけど、やめることをやってみるっていう言葉にするだけで、結局ポジティブになるんですよね。

それこそ私の場合は最初の職場を辞めることもそうだし、留学中に一時帰国して止めざるを得なかったことも、今の育児も寝る時間やミルクの量に縛られることをやめてみるってなると、すごく背中を押されるんです。後輩の看護師さんや学生さんでも、なんとなく続けていてどうしようって悩むことがあると思いますが、やめるって別に職場を辞めるって話だけではなくて。小さな自分の悩みを忘れてみることをやってみるとか、縛られなくていいんだよとか、そういうイメージかもしれません。常にポジティブでいる必要もないし、“逃げ恥”って言葉があるように、逃げちゃうことが最善になることもあるんだよって。今ならそういうメッセージを送りたいですね。

白石:
今のちゅおちゃんだからこそ出てきた言葉って感じがしますね。

ちゅお:
そうですよね。これが留学直後だったら、「みなさんあきらめないでください、夢は必ず叶います」みたいな話をしていたかもしれません。やっぱり育休を経験しているのが大きかったですね。1日中家にいて家族以外誰ともしゃべらずにいると、社会と接していないと感じることもあって。それでキャリアがとまってしまう怖さや不安があって、SNSでバリバリと働いている人が輝かしく見えたりして。でも、キャリアをやめることをやってみるという感じで、これも夫と一緒につくった言葉なんですけど、そういう風に考えを切り替えていくのも大事なんじゃないかなって思うようになりましたね。

いや~今日は久しぶりになんか社会復帰したような気持ちになりました。本当にこの企画の記事を毎晩毎晩ひっそりと読んで救われていたので。今回こうしてお声掛けいただき嬉しかったです。100人突破まで楽しみにしています。ありがとうございました!

白石:
そういっていただけるとうれしいです!もうすでに、お子さん産んで育てていることがめちゃくちゃ社会貢献ですからね。この企画もそろそろ折り返しになりますから。今日はありがとうございました!

インタビュアー・白石弓夏さんの著書



Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~

Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~
私もエールをもらった10人のストーリー


今悩んでいるあなたが元気になりますように
デジタルアートや3Dプリンタを看護に活用したり、看護をとおして一生の出会いをつかみ取ったり、在宅のほうが担い手が少ないから訪問看護に従事したり、苦しかった1年目のときの自分を手助けできるようにズルカンを刊行したり、医療と企業の橋渡しをするためにスタートアップに就職したり、悩みながらも新生児集中ケア認定看護師の道をまっすぐ進んだり、ロリータファッションモデルとして第一線で活躍しながら看護師を続けたり、目的に応じて疫学研究者・保健師・看護師のカードをきったり、社会人になってから「あっ、精神科の看護師になろう」と思い立ったり……。 さまざまな形・場所で働く看護師に「看護観」についてインタビューしようと思ったら、もっと大事なことを話してくれた。看護への向き合い方は十人十色。これだけの仲間がいるんだから、きっと未来は良くなる。「このままでいいのかな?」と悩んだときこそ、本書を開いてほしい。

目次


◆1章 クリエイティブな選択肢を持つこと 吉岡純希
◆2章 大きな出会いをつかみ取ること 小浜さつき
◆3章 現実的な選択肢をいくつも持つこと 落合実
◆4章 普通の看護師であること 中山有香里
◆5章 ものごとの本質をとらえる努力をすること 中村実穂
◆6章 この道でいくと決めること 小堤恵梨
◆7章 好きなことも続けていくこと 青木美沙子
◆8章 フラットに看護をとらえること 岡田悠偉人
◆9章 自分自身を、人生や仕事を見つめ直すこと 芝山友実
◆10章 すこしでも前を向くきっかけを作ること 白石弓夏

発行:2020年12月
サイズ:A5判 192頁
価格:1,980円(税込)
ISBN:978-4-8404-7271-5
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