透析中に地震が起こったときは
透析中に大きな地震が起こったら、揺れているあいだはスタッフがベッドに近づくことはむずかしくなります。揺れているあいだに患者自身で身を守ってもらうための指導が必要です。具体的には、落下物から身を守るためにふとんを頭から被るように伝えます。可能であれば、血液回路が引っ張られることによる抜針を防ぐために血液回路を手で持ち、ベッドの柵を掴んで揺れが収まるのを待ってもらいます。
地震の後、停電や断水が起こると透析を続けることはできなくなりますが、現在のベッドサイドの機械のほとんどにはバッテリーが内蔵されており、停電しても10~20 分程度動くので、多くの場合、このあいだに透析終了の操作が可能です。必要なら施設の外に避難しますが、自力で移動するのが困難な患者もいるので、安全な場所まで避難してもらうのに、患者同士の協力が必要だと理解してもらうとよいでしょう。
災害発生時の患者との連絡と来院
患者と施設との連絡手段
大きな地震などの災害では、停電や断水、施設や設備の損傷などのため、多くの施設で透析ができなくなります。東日本大震災(2011 年)では、発災直後に数百の施設が透析不能となりましたし、阪神・淡路大震災(1995 年)では約50 施設、熊本地震(2016 年)でも約30 施設で透析ができなくなっています。したがって、自施設近辺で大きな災害が起こった場合、患者に自施設で透析が可能かどうかを伝える必要があります。
災害直後は、電話がたいへんつながりにくくなり、また施設も電話を使う機会が増えるため、患者から施設への電話確認は困難になります。このため、災害時用のホームページや電話会社が提供する「災害用伝言ダイヤル」の利用を準備している施設もあります。
発災時の来院のタイミングと方法
自施設で透析不可の場合は、多くの場合、施設単位で患者をまとめて、透析を受け入れてもらえる他施設に依頼します。そのため、自施設で透析不可だとわかっている場合、あるいは透析ができるかどうかわからない場合でも、可能な限り患者には自施設に来てもらうのが基本です。とくに透析日であれば、なるべく早い時間に施設に来てもらうように指導しましょう。
大きな災害発生時は、施設からの送迎サービスで通常どおりに迎えに行くことが困難になるので、患者自身で施設に向かう必要が生じるケースがありえます。災害時に送迎サービスの利用が困難な場合の対応について、家族や介護サービス事業者に、検討してもらうことが望ましいです。
患者が自施設以外で支援透析を受ける場合や避難所に避難したときの対応
交通事情などで患者が自施設に行くことが困難な場合や、家族・親戚を頼って避難した場合は、自施設以外で支援透析を受けることになります。時間に余裕があり、受け入れ施設が自施設と連絡がとれる場合は、必要な透析条件などを受け入れ施設に送りますが、自施設と連絡がとれない状況では、患者自身が透析に必要な情報を把握している必要があります。
具体的に、災害時に他施設で透析を受ける場合に必要な情報は図に示すとおりですが、このなかでも重要なのがドライウエイト(基礎体重)です。1 回だけの臨時透析であれば、ドライウエイトさえわかっていれば透析は可能です。施設によっては、患者カードや手帳、透析記録のコピーなどで災害時に必要な情報を患者に提供しているところもありますが、ドライウエイトについては、できれば患者自身が記憶するように指導しましょう。また薬のアレルギーがある場合は、事前に申し出ておく必要があります。
患者が避難所に避難した場合は、透析を受けていることを、自治体の職員やボランティア、巡回の医師・看護師、あるいは周囲の人にかならずきちんと申し出るように指導しましょう。
被災時の食事と薬はどうすればいい?
自施設で透析ができない場合、他施設に支援透析を依頼することになります。他施設における支援透析は、透析時間の短縮を余儀なくされたり、透析までの間隔が長くなったりするなど、通常に比べ十分な透析ができなくなることが少なからずあるため、患者はその分、食事や飲水を控えるなどの配慮が必要になります。過剰な食塩・水分・カリウム摂取を避けることが強調されがちですが、災害時には脱水傾向になったり、エネルギー不足で高カリウム血症になったりするケースもあるので、極端な食事制限とならないような配慮が必要です。
避難や他施設での透析が長期間に及ぶ場合は、正しく薬を飲まないと合併症を起こす危険性が高くなります。とくに血圧が高い人、心臓に持病がある人、糖尿病の人、ステロイドをふだんから服用している人には、注意が必要です。ふだん飲んでいる薬はお薬手帳で把握できるので、災害時に備え、日ごろからお薬手帳の携帯を心がけるように指導しましょう。
災害時に持ち出したい物
災害時に持ち出すべき物については、「災害対策パンフレット」の表に示します。重要度の高いものについては、あらかじめ準備しておくよう患者に伝えましょう。
特定医療法人仁真会白鷺病院理事長
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