院内・避難所での感染管理

院内・避難所での感染管理には、感染対策への基本的な知識が非常に重要となります。感染対策は基本をよく理解して、その基本をくり返すことが重要です。一人でも守らない患者や医療従事者がいれば、その人から感染症が拡大していきます。患者と医療従事者が全員で取り組まなければならない、それが感染対策です。
例えば、接触感染と飛沫感染が感染経路であるインフルエンザや新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019;COVID—19)は、ウイルスが手や体に付着しただけでは感染しません。このウイルスが目・鼻・口から体内に侵入しなければ感染しませんので、これを予防する対策が重要となります。院内や避難所にいるすべての人がマスクを常時着用すること、一人ひとりが手指衛生を徹底することが重要となります。

パンデミックへの対策

医薬品的介入
(pharmaceutical interventions;PI)
■ ワクチン・抗ウイルス薬

パンデミックに対して、医薬品的介入であるワクチンや抗ウイルス薬による予防・治療は非常に重要ですが、この開発には長い時間を要することから、いつからどのくらいの数量が供給できるかなどの不確定要素が非常に多いです。
COVID—19 では、新たなワクチン開発の方法によって比較的早く新型コロナワクチンの供給がはじまりましたが、国内では2020年1月にCOVID—19 が発生したのに対し、ワクチン接種の開始は1 年後の2021年2月でした。このように、新興感染症に対する医薬品的介入には一定の期間が必要です。そのため、次に述べる非医薬品的介入が非常に重要となります。
非医薬品的介入
(non—pharmaceutical interventions;NPI)
■ マスク着用の徹底

飛沫距離や飛沫量を抑えるためにマスクを着用します。集団のなかにいる人が全員マスクを着用することで、飛沫感染症の伝播を抑制することが可能です。
■ 手指衛生(手洗いまたはアルコール手指消毒剤)の適切な実施
インフルエンザやCOVID—19 にはアルコール手指消毒薬が有効であり、接触感染の伝播を抑制することが可能です。しかし、冬季下痢症の原因の一つであるノロウイルスは、エンベロープ(ウイルスの表面を覆う脂質からなる二重膜で、それをもつウイルスはアルコール製剤が効きやすい)をもたないウイルスのため、アルコールによる消毒効果が期待できません。このため、石けんと流水による手洗いを実施します。
■ 適切な消毒薬による環境消毒の徹底
0.05~0.1%次亜塩素酸ナトリウム、ペルオキソ一硫酸水素カリウム配合剤、アルコール系消毒薬のいずれかにより環境消毒を行います。新型コロナウイルスは、環境表面で48~72時間は感染性があるので、適切な消毒薬を使用した環境表面の清拭が重要となります。新型コロナウイルスは、0.05~0.1%次亜塩素酸ナトリウムまたはアルコール系消毒薬により、1 分以内に不活化することが報告されています1)。一方、ノロウイルスに対してはアルコールによる消毒効果が期待できないので、0.05~0.1%次亜塩素酸ナトリウムかペルオキソ一硫酸水素カリウム配合剤を使用します。
■ 院内や避難所での人と人の距離を可能な限り2m以上空ける(最低でも1m 以上)
飛沫距離は1~2m なので、物理的な距離をとることが飛沫感染予防に重要です。COVID—19でも、物理的な距離をとることによる感染予防の効果が報告されています2)。また、安全な場所にいる人まで避難所に行く必要はありません。避難所が密にならないように、本当に避難所への避難が必要な人のみ利用することが望ましいです。
■ 院内や避難所の換気の実施
厚生労働省のホームページ3)、環境省のホームページ4)には、以下のように記載されています。
窓の開放による方法
1 時間に2 回以上換気を行うこと。換気の目安は30 分に1 回以上、数分間程度、窓を全開にすること。開放する窓は2 方向とし、窓が1方向しかない場合には、ドアを開けること。
機械換気による方法
1人あたり毎時30m3 の換気量を確保すること。必要換気量が足りない場合は、一部屋あたりの在室人数を減らすことで調整すること。
■ 有症状者の探知および発症者や家族のモニタリング強化および発症者や感染者の隔離
避難所の受付では、健康状態の問診や検温により、モニタリングを行います。咳・発熱などの感染の疑いがある人や感染者との濃厚接触者は、専用スペースで受け入れます(図)。健康観察を行い、症状が出現し感染が疑われる場合、医療機関を受診してもらい検査を行います。また、自宅療養中の感染者を受け入れる場合、感染の疑いがある人や濃厚接触者とは別の、専用のスペースで受け入れます。健康観察を行い、酸素需要などの医療が必要となれば入院を検討します。

【引用・参考文献】
1) G, Kampf. et al. Persistence of coronaviruses on inanimate surfaces and their inactivation with biocidal agents. J. Hosp. Infect. 104(3), 2020, 246—51.
2) Chu, DK. et al. Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person—to—person transmissionof SARS—CoV—2 and COVID—19:A systematic review and meta—analysis. Lancet. 395(10242), 2020, 1973—87.
3) 厚生労働省.「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法:商業施設等の管理権原者の皆さまへ,(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000618969.pdf,2022 年8 月閲覧).
4) 環境省.“コロナと換気:1.新型コロナ対策のための換気について”.ZEB PORTAL(ゼブ・ポータル),(https://www.env.go.jp/earth/zeb/ventilation/index.html,2022 年8 月閲覧).


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菊地 勘
医療法人社団豊済会下落合クリニック理事長

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