第一線で活躍する医師や看護師、医療従事者などが講師として登場し、わかりやすく解説する「メディカのセミナー」。今回は『患者の「生きる」を支える意思決定支援』解説チャプターの一部をメディカLIBRARYだけで特別配信します。
※上部のサムネイルをクリックして視聴できます。
※視聴にはメディカIDが必要です。メディカIDをお持ちの方はログインしてそのままご視聴ください。
講師
森 歩
看護相談室はぐくみの森/がん看護専門看護師
<どんなセミナー?>
その選択に、寄り添う力を。看護師のための意思決定支援入門。
医療現場では、患者が人生の大きな選択を日々迫られています。そんなとき、看護師が果たす「意思決定支援」の役割はますます重要になっています。
本セミナーでは、「意思決定とは何か」という基本から、患者の判断能力の評価、インフォームド・コンセントの正しい理解、shared decision making(意思決定の共有)など、実践に必要な知識と姿勢を学びます。
看護師が担う「アドボケーター」「意思決定の促進者」「コミュニケーションの橋渡し」という3つの役割を通じて、「患者にとっての最善」を一緒に考えていきましょう。
ACPがいよいよ当たり前になるこれからの医療で、「関わりの質」を変える40分です。
配信|意思決定支援とは
では、「意志決定支援とは」についてです。
「意志決定」は、経済学・社会学・心理学などの様々な学問で研究されています。組織や企業の意志決定支援を生業にしているコンサルタントもいます。
そもそも、意志決定とは何なのでしょうか。
意志決定とは、「問題やストレスへの対処や目的の達成のために“2つ以上の選択肢から1つを選ぶこと”で、それによって行動方針を決定することであり、判断一般を指す語」です。
私たちは、誰でも日々の意志決定を行っています。
「昼食は何を食べようか」「洋服は何を着ようか」などの日常の小さな意志決定から、山登りをする時のルート選び、宿泊する場所選びも意志決定です。
受験や就職、結婚といった、今後の人生を左右するような意志決定もあるでしょう。
ケンブリッジ大学のバーバラ・サハキアン教授の研究によると、人は1日に最大35,000回の意志決定をしているとのことです。
私たちはあまりにも毎日、かなりの数の意志決定をしているので、改めて振り返ったり考えたりするということは少ないかもしれません。
しかし意志決定の仕方というのは、人にも組織にも傾向や癖があります。皆さまも今までの人生で一度は、「あの人/あの企業は意志決定が上手いなあ」などと感じたこともあるのではないでしょうか。
私個人の意志決定の癖を振り返ってみると、人生の重要な場面で迷った際には、占い・おみくじ・運気などをかなり気にする傾向があります。朝のテレビで今日のラッキーカラーを聞いて、着ていく服を決めたりすることもあります。
ほか、「尊敬している人生の先輩に相談して客観的な意見をもらう」というのも、私が重要な意志決定をする時の傾向です。
意志決定は能力でもあり、スキルでもあります。毎日繰り返していても、やはり振り返りをしないと上手くなっていかないな、と自分自身を振り返って感じます。
「人は1日に35,000回にもおよぶ意志決定」をしていると説明しましたが、なぜ人は意志決定をするのでしょうか。
私たちが意志決定をするのは、「より良い成果を得たい(自分を高めたい、向上させたい)」「リスクを回避したい(自分を守りたい、失敗したくない)」という基本的欲求がベースに存在するからです。
この欲求を満たすために五感を使って情報収集をしていく中で、自分のセンサーに引っかかったものが、気になる事柄・関心事になっていきます。
意志決定には情報力・思考能力・思いや情動、価値基準などの様々な要因が関係しますが、それをコントロールしながら行動というアウトプットに移行するまでの思考が「意志決定」です。
意志決定は、自分にも相手にも見えるものではないので、この一連の過程の中ではブラックボックス的な部分でもあります。
医療現場で意志決定支援を行うにあたっては、このブラックボックスの中のプロセスを可視化したり言語化したりしつつ、支援をしていくことが必要になってきます。なかなか容易ではなく、様々な知識や心構えが必要になります。
では、意志決定をする上で、問題となるのはどのようなことでしょうか。
いくつかの選択肢の中で「自分にとって確実に良いもの」が分かっていれば、それを選べばいいだけなので、意志決定に関する問題は起こらないでしょう。
問題があるのは、不確実性やリスクがある場合です。
昔は、こういった不確実なことは聖職者が司るもので、神の領域でした。
西洋だけでなく日本でも「神と通じる能力を持つ」とされた巫女や神官の言葉が、絶対的なものと信じられていた時代があります。
また、「
亀卜
(亀の甲羅に熱を加え、できた割れ目の形で吉凶を占う)」や「
太占
(鹿の骨に穴を開け、形状や亀裂で占う)」などが、政治などの重要な意志決定に利用されていたこともあります。
それが16世紀の宗教改革や科学革命、また確率や統計といった学問の出現を経て「不確実な未来は神や天ではなく、自分で合理的に意志決定するもの」という考え方に変わっていきました。
医療における意志決定の特徴を見てみると、
・生命、生活など「生きること」に直結すること
・選びなおしができないこと
・そもそも人のからだは膨大な要素が複雑に絡み合っているため、結果の予測が難しいこと
・心理状態も治療効果や症状に大きく影響すること
・正解が1つでないこと
・当事者である患者の意志決定能力が十分でないこともあること
・多くの人がかかわること
など、不確実性とリスクを伴うことばかりです。
つまり、意志決定で問題になりやすいわけです。
医療における意志決定にかかわる考え方は、時代とともにどんどん変化しています。
「医学の父」である古代ギリシャの医師ヒポクラテスによる「ヒポクラテスの誓い(医師の職業倫理についての宣誓文)」は、2,000年以上を経た現代でも、世界中の西洋医学教育の中で語り継がれています。
この誓いには「養生治療を施すにあたっては、能力と判断のおよぶ限り患者の利益になることを考え、危害を加えたり不正を行う目的で治療することはいたしません」という一節があり、根底にあるには「父権的恩情主義」、すなわちパターナリズムの考え方が基本になっています。
この考え方が変わってきたのは、本当にここ70年ほどです。
1950年代に当事者の権利運動が始まり、1960年代にインフォームド・コンセントという考え方が出てきました。
そして「カレン・アン・クインラン事件」や、「ナンシー・クルーザン事件」などの延命治療中止に関する裁判、医療倫理の四原則やリビング・ウィルといった概念の登場、カリフォルニア州の「自然死法」の制定を経て、1990年代にアメリカで「患者自己決定法」が制定され、徐々にパターナリズムから自己決定・個人主義に変わっていきます。
日本でも1997年の医療法改正で「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける側の理解を得るよう努めなければならない」という条文が追加され、自己決定を支援する動きが加速していきました。
私が看護師になったのは2003年ですが、この20年だけでも、意志決定に関わる考え方は本当に変わったなと実感しています。
これからも時代とともに、意志決定支援の考え方は変わっていくのだろうなと思っています。
意志決定モデルには、パターナリズムのほかに、「シェアード・ディシジョン・モデル」と「インフォームド・ディシジョン・モデル」があります。
「意志決定には個人の癖や傾向がある」と説明しましたが、たとえば若い患者は自主的な治療選択を求め、高齢の患者は家族や医師の関与を求める傾向があります。「年齢や置かれている状況によって、その人がストレスなく進められる意志決定タイプは異なる」ということが研究で分かってきています。
意志決定モデルによって、意思決定の主体や、提供される情報の量・方向性は異なります。
どのモデルが良いかは一概に言えず、患者の年齢・疾患・認知機能や理解力の程度・医師との関係性・その時の心理的社会的状況・家族背景・地域の文化背景など、上げていくとキリがないくらい様々なことが影響するでしょう。
良い/悪いではなく、どのようなモデルがあるのか知っておくこと、そして「患者や家族にとって最善の意志決定になっているか」「患者の尊厳を守れているか」を考えることが重要だと思います。
意志決定については、5つのガイドラインが厚生労働省から発表されています。
すべてここ数年内に発表されたもので、意志決定に関連する様々なことが、急速に整えられてきているなと感じます。
すべてのガイドラインに共通することは、①本人が意志決定の主体であること、②チームで支援していくこと、そして③支援の前提として、環境整備と適切な情報提供が重要である ということです。
こういった意志決定に関する文献やガイドラインから、患者が意志決定するためには、適切な情報・判断する力・本人の意志が重要であることが見えてきます。
さらに医療現場においては、なじみのない医療用語が使われ、不確実性とリスクが多い意志決定をしなくてはならないため、家族・医療者とのコミュニケーションが欠かせない要素になってきます。
これらの視点が、患者の意志決定に必要な支援を考えるにあたり、大きな手がかりになってきます。
先ほどの視点から考えれば、意志決定支援に関わるときに大切なことは
1. 医療者から適切な情報提供(説明)がなされていること
2. 判断する力があるかどうか評価されていること
3. 患者の意志が尊重されていること
4. 医療者と患者・家族が話し合えていること
になってくるかと思います。
次の章「意志決定に必要な知識」についても、この4つの視点から説明をしていきたいと思っています。
ご購入いただくとすべてのプログラムがご覧いただけますのでぜひご検討ください。
<プログラム>
この講義で学べること
・意思決定支援とは
・意思決定支援に必要な知識①
・意思決定支援に必要な知識②
・意思決定支援における看護師の役割
・本人にとっての最善とは
・これからの意思決定支援
