もしも、自分の大事な友人が、家族が、最愛の人が、ある日突然倒れたら。意識はあるのに、会話ができなくなったら。
そのとき人は何を想い、何を伝え、何を選択するのか。
2022年、新型コロナウイルス感染症の影響が続くこのときに、終末期医療とどう向き合うのか……。

2021年2月にVR演劇として公開された『僕はまだ死んでない』が舞台化。
公演に先駆けて、3回に分けて舞台にかかわる皆さまにインタビューしました。第1回は本作より、意識はあるが身体が動かせない状態となった直人役とその友人である碧(みどり)役として、それぞれ回替わりで交互に演じるお二人にお話を伺いました。

僕はまだ死んでない

僕はまだ死んでない

2022年2月17日(木)~28日(月)
銀座・博品館劇場にて上演

原案・演出:
ウォーリー木下
脚本:
広田淳一
出演:
矢田悠祐、上口耕平、中村静香、松澤一之・彩吹真央

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矢田悠祐
矢田悠祐
読者モデルを経て、2012年に舞台『合唱ブラボー』で俳優デビュー。同年、ミュージカル『テニスの王子様』7代目青学・不二周助役で人気を博す。近年の主な出演舞台に、ミュージカル『GREY』(主演)、BROADWAY MUSICAL『GLORY DAYS』(主演)、舞台『魔法使いの約束』第1~2章、恋を読むinクリエ『逃げるは恥だが役に立つ』、ミュージカル『BARNUM』、『EDGES―エッジズ― 』、ミュージカル『アルジャーノンに花束を』(主演)、『Defiled―ディファイルド―』、ミュージカル『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド〜汚れなき瞳〜』、ミュージカル『ハムレット』(主演)など。今後、4/23~舞台『魔法使いの約束』第3章の出演を控える。

上口耕平
上口耕平
2002年ドラマ「ごくせん」(NTV)で俳優デビュー、ミュージカルを中心に活躍中。高校時代から数々のダンスコンテストに入賞、キレのあるダンスには定評がある。近年の主な舞台に、「天使にラブ・ソングを」(16.17)、「タイタニック」(15.18)、「BACKBEAT」(19)、「ウエスト・サイド・ストーリー Season2」(20)、「RENT」(20)、「屋根の上のヴァイオリン弾き」(13.21)、「ドン・ジュアン」(19.21)、「グリース」(21)など。

終末期医療というテーマに対し、対話を重ねて足並みを揃えていく

ーー本作の出演が決まったときのお気持ちを教えてください。

矢田 テーマが終末期医療、命にかかわるもので、普段意識しないと触れないようなところだなと。率直に作品を通して体験ができる、いい経験になると思いました。

上口 これまで目をつむってきてしまった部分に、正面から向き合う勇気や覚悟みたいなものを持ちました。自分だったらどうだろうと具体的に考えるきっかけとなっています。特に今回は二役をそれぞれが交代で演じるダブルキャストでもあり、これからどうなっていくんだろうと、未知なる挑戦ができるという気持ちです。

ーー演出家であるウォーリー木下さんとの稽古で、テーマや演出面についてどんなことを話していますか。

矢田 いまは全体の稽古を進めて1週目なので(取材時)、そこまで細かく決めていることはありません。自分たちの役がどういう状況に置かれていているのか、背景の部分を繰り返しすり合わせているような段階です。

上口 稽古中に模索しているのは、嘘がないように、誇張しすぎないようにどうみせていくかということです。例えば、ストーリーが後半にいくとよりシリアスな展開になっていきますが、そこではとても静かな時間が流れているんですね。嘘がなく、リアルであると思います。だけど、演劇的にその静かな時間のなかでもどのような波を作り、緩急をつけるか、一緒に悩んでいるところです。

矢田 実は稽古初日に、終末期医療というテーマに関しても、キャストそれぞれがどう思うか、自身の体験があるかなど、3時間ほど話し合う時間がありました。僕自身はそういう体験は少なかったですが、はじめて会うキャストの方々でも、あの場だからこそ話してくれたこともあって…。そのとき感じたものを自分のなかに落とし込んでいきました。

上口 最初に全員で想いや考えをシェアできたことは、とてもいい時間でした。稽古のなかでなにか疑問を感じたら、どのタイミングであっても話を聞いてもらえるような稽古場の雰囲気になったと思います。みんなが同じ方向を向いているなと感じます。

実際に体験をしてみて、家族から話を聞いてみて、二人で役に向き合い考えていく

ーー今回の役作り、演技をするうえでなにか参考にされたものなどはありますか。

矢田 ウォーリーさんからいろいろと資料をいただき、まずはそれを参考にしました。ただ、実際に稽古で動けない状態が数十分続くと、自分が想像していたよりもしんどかったです。これが一生続くことになる、向き合うことになるのは、相当覚悟がいることだなと…。稽古がはじまって1週間ではありますが、痛感しました。

上口 僕は過去の体験をあらためて振り返るために、あのとき実際はどうだったのかと家族に連絡して話を聞きました。そこで気づいたのは、家族やその周りの人たちは、どこかでずっと希望を持っていて、面会に来る度になにかひとつでも希望を持って帰ろうとしているんですよね。医師や看護師はそれをわかっている。だけど現実はいろいろな事情があって、ネガティブなことを伝えなくてはいけない、どういう風に伝えるかと常に考えているのではないか、葛藤しているのではないかと思いました。家族も医師も看護師もずっとこうして考えを巡らせているんだなと、話を聞いて感じました。

ーーダブルキャストで二役演じるのは珍しいですが、お互いがそれぞれ演じてみて、今の心境としてはどうですか。

矢田 ダブルキャストでよかったと思うことの方が多いですね。上口さんの演技でいいなと思う部分はどんどん取り入れていこう、自分はもっとこうしていこうと思いますし、結果として通じる部分はありそうですが、全く同じにはならないと思っています。役柄が同じでも、表現の仕方はそれぞれに違う、もしかしたら別物にもみえるかもしれないのがダブルキャストの面白いところです。

上口 矢田君と一緒に悩めるのはこんなにも心強いのかと感じています。素直にお互いが言い合える関係にとても救われています。今回のテーマは特にひとりで考え始めると、どこまでも続く螺旋階段のように気持ちが入り込んでしまうので、お互いが考えや気持ちをシェアすることで、答えは出なくても少しだけ出口が見えてくるような感覚があります。

ーー直人役では寝たきりの状態ですが、演技で気を付けているところ、稽古でいま悩んでいるところはありますか。

矢田 直人の考えや気持ちをどう表現するかは、演出でもいろいろと工夫しているところです。また、直人がしゃべれないぶん、碧やその周りの人が直人のことを語る場面があります。直人ひとりで演じるのではなく、舞台を作っていくのは周りの人の言葉や動きも含まれると思うので、 これから稽古を重ねてどうなっていくのかは楽しみなところでもあります。

上口 直人は目だけは動くんですよね。僕自身のさまざまな体験を振り返ってみると、人の目ってどこか印象に残っていることが多くて…。あのとき一瞬、強く見つめられたとか、目を伏せたとか。演者として、この終末期医療のテーマを伝えていく役割もありますから、ここぞというときに目だけで想いを、感情を伝えるつもりで稽古に励んでいます。

ーーさいごに、読者や看護師に向けてのメッセージをお願いします。

矢田 こういう情勢が続き、医療従事者の方々に負担がかかっていると痛感します。どこかで自分自身が体験しないとわからないこともたくさんありますよね。僕はこの作品を通してひとつのケースではありますが、医療従事者の方々にとってはずっと仕事としてなさっているので、ありがたいと思うと同時に、やっぱり舞台を見に来てくださる方々にはこういうことは他人事ではないと、作品を通して感じていただけたらと思っています。

上口 作品を通して、医療従事者の方々は自分を出すことに対して、線を引いていることに気づきました。患者さんのために働きかけをする、過酷な状況のなかでも涙を見せないなど、自分の感情をとにかく抑えているのだな、と。それは役者として演じるのも大変なのに、医療の現場では日常的に行われているのだと考えると、胸が苦しくもあります。医療従事者であるという状態を脱ぎ捨てて、ひとりになってはじめて流れる涙があるのではないかと、想像してしまいます。本当にありがとうございますという気持ちを舞台でも伝えたいですね。

白石弓夏
構成・記事作成 白石弓夏
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取材 編集部