有吉孝一
神戸市立医療センター中央市民病院 救命救急センター長

医学博士。沖縄県立中部病院で研修。神戸市立中央市民病院、佐賀大学医学部准教授などを経て、2013年から現職。同病院臓器提供対策室長を兼務。日本救急医学会救急科専門医・指導医、京都大学臨床教授なども務める。2016年神戸市救急防災功労者表彰。2018年沖縄空手国際大会出場。2022年より神戸市メディカルコントロール協議会会長。


親切にしよう

「毎日やっている習慣を、他人はその人の人格として認めてくれる」(斉須政雄『調理場という戦場「コート・ドール」斉須政雄の仕事論』幻冬舎文庫)

毎年、研修医オリエンテーションでこの言葉を紹介しています。良い習慣を身に付けよう。皆さんが学生時代にどんなキャラで過ごしたかはわかりませんが、全国から研修医が集まるここでは誰も知らないのだから、リセットのチャンスだよ、と。そう、キャラは自分で作るもの。キャラを表現できるのが習慣です。「いい人のふりをしていたら、本当にいい人になれる」(寺澤秀一先生の言葉)のです。

患者さんとその関係者、同僚、家族、そして自分自身にも親切にすること。リセットとは基本に還ることです。皆さんが幼稚園の砂場で身に付けたこと「お友達に優しくしよう」を再度実践する時です。

人生の7~8割は遊び

「遊びをせんとや生まれけむ」。『梁塵秘抄』四句神歌に登場する言葉です。小さな子供が「遊ぶ!」と威張っている姿を思い浮かべてみてください。

2019年10月、プラハで行われたヨーロッパ救急医学会に参加しました。親孝行な部下達の演題が2題通ったので指導の名目で連れて行ってもらったのです。オレンジ色の屋根瓦と石畳が美しい街でしたが、横断歩道で犬のうんこを踏みました。当地では地下鉄や市電など公共交通機関に犬を自由に乗せていいので油断できません。

さて、日本のそれと異なり、スーツとネクタイ姿で学会場にいるのは会場係だけです(断言します。もしくは日本人参加者です)。ほかの人たちはみな適当な格好とスニーカー姿で学術集会を楽しんでいるのが印象的でした。ナースのセッションも多く、全体の5分の1くらいを占めていました。

「哲学者 著作なければ ただのプー」といいます。研究者は文系も理系も大変です。論文の有無が生活に密接にかかわるのですから(多分)。だけど、それを生業としていない皆さんは研究・学習は「遊ぶため」だと思いきることをお勧めします。そう。人生の7~8割は遊びです。

われわれは学会初日の夜、プラハの名店「カンティーナ」に繰り出し、牛肉のカルパッチョに食らいつき、バゲットにニンニクを擦り付けたタルタルステーキをのせてパクリとしたのち、チェコビール、ピルスナー・ウルケルで「うぐうぐぷっはーくっひゃあ」と流し込みました。翌朝は発表に遅れてしまい「先生、何しに来たんですか」と部下からなじれられ、「ううっ、しくじったあ」と床に片膝をついたところで、午前4時50分、ホテルで目が覚めました。

ちなみに犬のうんこを踏んだのは45年以上ぶりです。


上はプラハの夜景。左下はカンティーナで食べた牛肉のカルパッチョとニンニクを擦り付けたバゲットにのせたタルタルステーキ。右下は市場で見かけたベリー。

人によって言うことを変えない

「つねに真実を話さなくちゃならない。なぜなら真実を話せば、あとは相手の問題になる」by ショーン・コネリー(マイケル・クライトン『トラヴェルズ』ハヤカワ文庫NF)

僕が常に心がけているのは人によって言うことを変えないことです。短く単純に話して混乱させない。ただでさえ人は誤解します。そしてその原因は感情です。人は自分の感情で理解したいように理解するのです。受け取る側の感情を変えることはできませんから、常に本当のことを言わなければならない。誤解するのは相手の問題になります。小さな嘘を積み重ねると、後でつじつまを合わせるのに苦労します。当初は無害だろうと思っていた嘘でも大問題になることがあります。

部下はときに裏切り、理不尽なことをします。本当のことを言い、逃げずに向き合い解決することによって上司も成長するのです。


本コラムは『Emer-Log(エマログ)』の2020年年間購読限定の特典として刊行された『デキる救急医・救急看護師の3つの習慣』からの再掲載です。

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Emer-Log(エマログ)2023年2号


Emer-Log(エマログ)とは?
チームで読める、救急看護の専門誌。二次救急や救命救急センターなど、さまざまな場での患者さんの評価、初療対応を取り上げます。救急看護を深めたいあなたへ、「自己学習」と「後輩指導」に役立つプラクティカルな知識をお届けします。
本誌:隔月刊/増刊:年2冊刊行

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最新号 2023年2号

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1 JRC蘇生ガイドライン2020:一次救命処置(BLS)
2 JRC蘇生ガイドライン2020:二次救命処置(ALS)
3 JRC蘇生ガイドライン2020:小児の蘇生(PLS)
4 JRC蘇生ガイドライン2020:急性冠症候群(ACS)
5 JRC蘇生ガイドライン2020:脳神経蘇生(NR)
6 外傷病院前救護ガイドライン(JPTEC)
7 外傷初期診療ガイドライン(JATEC)
8 外傷初期看護ガイドライン(JNTEC)
9 頭部外傷治療・管理のガイドライン第4版
10 急性腹症診療ガイドライン2015
11 急性膵炎診療ガイドライン2021
12 急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2018
13 急性中毒標準診療ガイド
14 日本版敗血症診療ガイドライン2020
15 ①熱中症診療ガイドライン2015
②新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(第2版)[医療従事者向け]
16 日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン(J-PADガイドライン)
17 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
18 2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン
19 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)
20 ARDS診療ガイドライン2021
21 成人肺炎診療ガイドライン2017
22 脳卒中治療ガイドライン2021
23 救急・集中ケアにおける終末期看護プラクティスガイド

定価:2,970円(税込)
刊行:2023年3月
ISBN:978-4-8404-7972-1

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