小池伸享
前橋赤十字病院 高度救命救急センター・教育研修推進室 看護係長/救急看護認定看護師
富山大学大学院医学薬学教育部危機管理医学専攻/群馬県立県民健康科学大学 臨床教授

群馬県前橋市、前橋赤十字病院にて出生。看護学生時より救急領域のスペシャリストを目指し、1998年に前橋赤十字病院に就職。7年の臨床経験を経て、救急看護認定看護師を取得する。現在、高度救命救急センター・教育研修推進室看護係長としてプレホスピタルからクリティカル領域まで実践・教育を担当。


チェックポイントを常に意識した看護実践

科学的根拠によって施された治療の効果を損なわないよう、我々は患者さんの療養環境を整え、「不要なエネルギー消費を伴う看護介入は控える」ことも考慮しながら日々の看護実践を行っている。実践する看護介入が治療にマイナスの影響を与えることは患者さんにとって有意義なことではない。日々、患者さんに悪影響を及ぼしていることはないか?と観察をしている。患者さんにとって悪影響があると考えられる臨床でのポイントは、交感神経の過剰興奮の持続、極端な循環動態管理、末梢循環を軽視した体液管理、過剰な酸素投与、医原性低酸素状態の形成、医原性の物理的損傷、過剰な酸素消費量の増大促進、代謝亢進につながる全身管理、悪循環の経腸栄養管理、感染につながる血糖管理であると言える。それらを考慮し、私は以下のポイントを常に考え看護を実施している。

・酸素供給の適正化、酸素消費の制限をはかる。
・必要時以外は安静を保持する。
・痛みや不安による交感神経の緊張を緩和し、酸素消費量の増加を少なくする。
・循環血液量低下のない体液管理を徹底する。
・頻繁に尿量を測定する(乏尿の早期発見)。
・適正な循環灌流圧を維持する(正確なカテコラミン投与)。
・濃密な心電図モニタリング(低灌流による非特異的ST-T波異常、T波の逆転、上室性、心室性不整脈を含む虚血の心電図所見)を行う。
・循環動態が安定していれば、肺障害や換気血流分布不均衡などが併発しないよう体位調整を行う。
・組織への物理的侵襲を与えるケアを控える。
・血糖値を徹底して正常化する。
・高熱(or低体温)に対する周到な体温管理をはかる。
・徹底したdorain less、tube lessをはかる。

丁寧な文献検討を積み重ねて研究を進める

日々の臨床における自分のリアルリーズンが世の中のグッドリーズンであるのか?そんなことを考えつつ、大学院教育にて培った文献検索をその都度、行っている。研究者が、既存の研究の上に自らの研究を積み重ねていくためには、そのトピックに関してなにがすでに知られているかを理解することが不可欠である。文献の丁寧な検索が新しい知識を積み上げる基盤となると言われているように、研究においては十分な文献検討を行うが、この文献検討が現在の自分の知識の曖昧さ・不十分さに気づくきっかけとなり、自己学習への意欲となっている。

看護師への継続教育は経験や背景を考慮

経験のある看護師に対する継続教育は大変、困難をきたす。それは、看護師はそれぞれ、さまざまな背景を持ち、基礎教育の過程、臨床経験などの土台が異なることも要因であると言える。病院に勤務する多くの看護師は問題解決思考に差があることが報告されている。このような背景の異なる看護師に対して教育を実施するには、各々の思考過程の分析や経験、知識の把握が必要になると考える。その上で各々に対し支援することは、一人ひとりの問題解決能力の育成へつながり、組織における「人材育成」「質保証」の一助となりうるのではないかと考える。具体的には各研修における目標設定の確認など、学習者が的確に自らを評価できるようアウトカムを設定することに注力している。そして、その目標に到達するためにはどのような教育プロセスを経ることがよいのか?常に上記に掲げた文献検討に立ち戻るのである。


本コラムは『Emer-Log(エマログ)』の2020年年間購読限定の特典として刊行された『デキる救急医・救急看護師の3つの習慣』からの再掲載です。

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Emer-Log(エマログ)とは?
チームで読める、救急看護の専門誌。二次救急や救命救急センターなど、さまざまな場での患者さんの評価、初療対応を取り上げます。救急看護を深めたいあなたへ、「自己学習」と「後輩指導」に役立つプラクティカルな知識をお届けします。
本誌:隔月刊/増刊:年2冊刊行

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3 JRC蘇生ガイドライン2020:小児の蘇生(PLS)
4 JRC蘇生ガイドライン2020:急性冠症候群(ACS)
5 JRC蘇生ガイドライン2020:脳神経蘇生(NR)
6 外傷病院前救護ガイドライン(JPTEC)
7 外傷初期診療ガイドライン(JATEC)
8 外傷初期看護ガイドライン(JNTEC)
9 頭部外傷治療・管理のガイドライン第4版
10 急性腹症診療ガイドライン2015
11 急性膵炎診療ガイドライン2021
12 急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2018
13 急性中毒標準診療ガイド
14 日本版敗血症診療ガイドライン2020
15 ①熱中症診療ガイドライン2015
②新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(第2版)[医療従事者向け]
16 日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン(J-PADガイドライン)
17 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
18 2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン
19 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)
20 ARDS診療ガイドライン2021
21 成人肺炎診療ガイドライン2017
22 脳卒中治療ガイドライン2021
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定価:2,970円(税込)
刊行:2023年3月
ISBN:978-4-8404-7972-1

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