本村友一
日本医科大学千葉北総病院 救命救急センター

福岡県大川市生まれ。佐賀医科大学卒業。健和会大手町病院、佐賀大学病院救命救急センターを経て2009年より現職。病院前診療、外傷医療、災害医療に従事するとともに、交通外傷予防・軽減を目指して医工学連携の“交通事故実態調査”と、世界初のドクターヘリを起動する“救急自動通報システム(D-Call Net.)”で世界に挑む。


デキる救急医ではありませんが、今日心にあることを以下に。

心は熱く、頭はクールに

臨床現場ではいかに先入観なく、フラットに、冷静に、緊急度・重症度・疫学を意識して取り組むか、が重要と感じています。病院前や救急初療室などの現場では、少ない情報から想像力を働かせて準備しないといけない場面が多々あります。得られた情報からなるべく最悪の展開を想像して準備をします。「交通事故後の患者、今は意識あるが腹痛あり。自分たちが接触するころには、気管挿管や蘇生的開胸術を要するかも」と、チームの緊張感を維持しつつアンダートリアージにならないように気を付けます。「突っ込み」過ぎないように完全に「引いた眼」で自分たちや現場を見ることも重要です。心は熱く、頭はクールに。

救急の現場では、患者も多(他)職種の仲間も初めて会う人ばかりです。極めて限られる時間の中、初対面の人とコミュニケーションをとり、受傷状況、既往歴など重要な情報を取得する必要があります。患者の診察や治療行為はできて当たり前。並行して大きな声で挨拶をして、完結明瞭で効率的なリーダーシップとコミュニケーションをとること、を心がけています。救急の神様、災害の神様の存在を感じています。少しでも調子に乗ったり、軽率に扱うと、必ずバチが当たりますもんね。

日々の疑問を研究につなげる

「素朴な疑問」を大事にするように心がけています。その疑問を「いま」もったことには特別な意味があります。明日にはまた別の疑問が浮かんでいるはずです。人に聞いたりスマホ検索で済ませるのがよいこともあるかもしれません。深堀りすべきものは時間と労力をかけるべきです。世界ですでに誰かが明らかにしていることを知ること、これが「学習」です。頭で覚えるのでなく体で感じられると応用が利くように思います。  しかし、そのうち、疑問のいくつかは「まだよく分かっていなかったり、まだ誰も疑問に思っていないこと」だったりすることに気づきます。「世界でまだ誰も取り組んでいない、明らかになっていない疑問や研究」にこそ取り組むべきで、それにより人類を一歩先へ進めることができます。

国、自治体、他機関(消防、警察、自衛隊、海上保安庁)、一般企業を含めた多角的視点をもつ多種多様な仲間と研究に取り組みたい。世の中はお金で回っています。その研究や開発でお金がどう動くのか、誰かの幸せとともに恒常的にお金が循環する仕組みになっているか、という冷静な目線も大事です。

あらゆる人と効果的に協働できる医療を目指して

どういう言葉・口調で、どのタイミングで、どういう手段(対面、電話、メール、LINE??)で伝えると「真意」が伝わるのか、とても意識しています。後進にはなるべく「自身で考え判断する場面」を提供するようにしています。患者さんに悪影響の及ばない範囲で「そのまま」を経験してもらう。後進のキャラクターや能力によってまったく指導内容・方法を変えています。彼ら個人個人の「目前の次のステップ」と「長期的な目標」を見据えて「自身で成長できる」ように仕向けます。

医師以外とのコミュニケーションでは、使用する単語がマニアックな言葉になっていないか、難解な話しぶりになっていないか、特に気を付けます。これまでたくさんの講演もさせていただきましたが、小学5年生に救急自動通報システム(D-Call Net.)を説明する社会科の授業が一番勉強になりました。「とことん平易な言葉で物事をシンプルに伝える」ことの重要性がよくわかりました。

仕事も研究も教育も、自分一人では何もできません。医師、看護師、技師、事務員、ドクターヘリ運航会社、消防、警察、自衛隊、海上保安庁、施設管理者、患者、患者の同僚・家族など、あらゆる人と協働して患者へ医学的な利益と幸せをもたらすことができるのか。周囲にいつも助けていただいている「感謝」の心がけが何より大切ですよね。


令和元年、台風15号、19号、21号対応に関わる全国の皆様からの温かく強力なご支援に深く感謝いたします。ありがとうございました。


本コラムは『Emer-Log(エマログ)』の2020年年間購読限定の特典として刊行された『デキる救急医・救急看護師の3つの習慣』からの再掲載です。

// 専門誌案内 //

Emer-Log(エマログ)2023年2号


Emer-Log(エマログ)とは?
チームで読める、救急看護の専門誌。二次救急や救命救急センターなど、さまざまな場での患者さんの評価、初療対応を取り上げます。救急看護を深めたいあなたへ、「自己学習」と「後輩指導」に役立つプラクティカルな知識をお届けします。
本誌:隔月刊/増刊:年2冊刊行

Emer-Log(エマログ)
最新号 2023年2号

【特集】エビデンスがわかる!後輩指導に役立つ! 厳選 救急ガイドライン集


1 JRC蘇生ガイドライン2020:一次救命処置(BLS)
2 JRC蘇生ガイドライン2020:二次救命処置(ALS)
3 JRC蘇生ガイドライン2020:小児の蘇生(PLS)
4 JRC蘇生ガイドライン2020:急性冠症候群(ACS)
5 JRC蘇生ガイドライン2020:脳神経蘇生(NR)
6 外傷病院前救護ガイドライン(JPTEC)
7 外傷初期診療ガイドライン(JATEC)
8 外傷初期看護ガイドライン(JNTEC)
9 頭部外傷治療・管理のガイドライン第4版
10 急性腹症診療ガイドライン2015
11 急性膵炎診療ガイドライン2021
12 急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2018
13 急性中毒標準診療ガイド
14 日本版敗血症診療ガイドライン2020
15 ①熱中症診療ガイドライン2015
②新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(第2版)[医療従事者向け]
16 日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン(J-PADガイドライン)
17 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
18 2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン
19 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)
20 ARDS診療ガイドライン2021
21 成人肺炎診療ガイドライン2017
22 脳卒中治療ガイドライン2021
23 救急・集中ケアにおける終末期看護プラクティスガイド

定価:2,970円(税込)
刊行:2023年3月
ISBN:978-4-8404-7972-1

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