みなさん、こんにちは!
ポータブル吸引器の選びかたの4回目です。

第3回目では、在宅医療においてポータブル吸引器では、分泌物が引けない現状について触れました。
そして、病院の中央配管の壁掛け吸引器がすごいパワーを持っていることについてお話しさせていただきました。
今回は、「吸引流量」の重要性について説明していきます。

吸引チューブを開放しておくと空気が吸い込まれてきます。ということは、ここには吸引流量という空気の流れがあることになります。
吸引チューブの長さや太さによって、この吸引流量が変化するのですが、吸引チューブを取り外した状態の吸引ホースからは中央配管の場合は40~60L/分という吸引流量が作り出されていて、大量の空気が吸われます。
吸引流量が非常に多いために、吸引チューブが閉塞したり、分泌物を捉えて吸引チューブが閉塞された状態になると一気に設定吸引圧に達するのです。
「一気に」とは、筆者の感覚では0.1秒と第3回目で書きました。

気管吸引の方法を説明している教科書的な本では、設定吸引圧力のことしか書いていませんし、病院で中央配管(壁掛け吸引器)を使用しているときには、その説明にある吸引圧力で、「引けない」という感覚を感じることもなく、吸引という操作ができるのです。

吸引圧力を意識せずに使用できるのが中央配管の壁掛け吸引器なのです!
では、ポータブル吸引器でも無意識にストレスなく分泌物が引けるのか、と考えると、それはNOです!

中央配管の吸引流量は40~60L/分と書きましたが、
吸引パワーを決定するのは、吸引圧力だけでなく「吸引流量」という概念も考えなければならないのです

しかし、医療者のほとんどは、吸引圧力しか数値として教わっていないので、吸引は「吸引圧力で引いている」と考えています。
そして、病院では中央配管という強いパワーを持った吸引装置を使うので、「吸引圧力で引いている」ということだけ理解していても問題は発生しないのです。

では、みなさんがポータブル吸引器の性能を知ろうとするときに何を見ますか?
きっと(絶対)、吸引圧の項目を見るのではないでしょうか。たとえば、ポータブル吸引器を選ぶときにカタログを見て、設定吸引圧力の数値に吸引圧力:0kPa~-80kPa と書いてあるとどうでしょう。-80kPaなら普段使っている吸引圧力が設定できるし、パワーがあってこれなら大丈夫! と、選んでしまいがちです。

確かに、病院で設定している吸引圧力が作れるポータブル吸引器であれば、問題ないと考えるのも致しかたないのですが……選び方までは、誰も教えてくれませんし……。

ですので、私が教えます!
この連載を読んで、少しでも在宅に適したポータブル吸引器の選びかたにつながればと思いながら書き進めています。

吸引パワーの源は、「吸引圧力」と「吸引流量」で作られる

ということをしっかりと理解してください!



では、なぜ、病院の吸引器と同じ程度の吸引圧なのにポータブル吸引器では吸引できないのか。それは、「吸引流量が少ない」ということが理由なのです。

ですから、ポータブル吸引器の性能を見るときに大事なのは吸引圧力ではなく、吸引流量なのです!
どんなポータブル吸引器でも吸引圧力は吸引チューブを閉塞すれば、どんどん-80kPaに近づいていきます。
ですが、-80kPaに上がるまでの時間が吸引流量が少ないほど時間がかかるのです。
5秒とか10秒とか……。
こんなに時間がかかったら、問題ですよね。
ですから、ポータブル吸引器の性能を評価するときに、カタログでまず見るのは吸引圧力ではなく、吸引流量を見ましょう!

次回は、いよいよポータブル吸引器を選ぶときの大事な視点について説明していきます。

新型コロナ病棟ナース戦記

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory

・・・・・・・・・・・・・・・・・
イラスト:八十田美也子 みやよしえ

松井先生が監修に携わった書籍が2022年8月2日に刊行されました

////// 書籍案内 //////

精神科病棟ではたらく人のための感染対策きほんの「き」
子どもと家族を支える医療者のための
小児在宅人工呼吸療法マニュアル 第2版

5年ぶり、待望の大改訂!/国内すべての小児在宅用人工呼吸器を網羅。“実際の使用感”教えます!/呼吸器回路・制御・換気モードなどキホンを徹底解説!/行政・災害・訪問看護など社会変化にも言及!

機種別に特性・違い・注意すべき点がわかる
各種人工呼吸器のアップデートに加え、行政・災害・訪問看護など新たな社会情勢にも言及し、パワーアップして刊行する第2版。医療的ケア児と家族への支援施策が進む中、医師・看護師・CE・PTなど小児在宅人工呼吸療法に携わるすべての医療者必携の書。

著者:
一般社団法人日本呼吸療法医学会 小児在宅人工呼吸検討委員会 編著
岐阜県総合医療センター 新生児内科 寺澤 大祐 監修
神奈川県立こども医療センター 新生児科(非常勤) 松井 晃 監修
神戸百年記念病院 麻酔集中治療部/尾﨑塾 尾﨑 孝平 監修


定価:5,500円(税込)
刊行:2022年8月
ISBN:978-4-8404-7888-5

▼詳しくはこちら