みなさん、こんにちは!
ポータブル吸引器の選び方、5回目です。

前回はポータブル吸引器を選ぶ際、その性能を評価するのは吸引圧力ではなく、吸引流量が大事なので、カタログに記載されている吸引流量を見ましょう!ということをお話ししました。
今回はポータブル吸引器を選ぶときに「大事にするポイント」について説明していきます。

みなさんは吸引器を購入するとき、どんな視点で選びますか? おそらく、以下に示すようなところをポイントとして選ばれているのではないでしょうか。
①しっかり吸引できる
②バッテリーが長持ち
③安い、助成金内で購入できる
④持ち運びがしやすい(小さくて軽い)
⑤お掃除が簡単
⑥組み立て間違えがない
⑦見た目が可愛くて、吸引器らしくない
⑧可愛らしいバッグがついていて、付属品も一緒に携帯できる
⑨壊れない
⑩部品が簡単に入手できる
⑪アフターサービス体制がしっかりしている
⑫壊れた時に代替品が借りられる
などなど。

最近は、一般家庭でも鼻吸引器が多く使用されるようになりました。
子どもが風邪を引いて、鼻水が溜まると中耳炎になってしまって、なかなか治らないなんてことが起こります。しかし、鼻吸引が一般家庭でも簡単にできるようになったので、中耳炎になる子どもも減ったのではないでしょうか。

「吸引器」とインターネットで検索すると、たくさんの通販サイトがヒットして、安価でかわいい吸引器がたくさん出てきます。
昔とは違って、1万円ちょっとと手の届く金額で買える時代になりましたね。

ただ、鼻吸引はオリーブ管を使って吸引することを前提にして作られているので、吸引流量は8~13L/分ぐらいと、とても弱い力です。
吸引器って書いてあるんだから、これを口鼻腔吸引で使っても大丈夫だろう、気管切開で使っても大丈夫だろうと買ってしまう医ケア児の保護者の方もいるのではないでしょうか。

先日、私がお世話になっている職場でも、医ケアはない小さなお子さんがいらっしゃる職員さんから、私がKIDS Home Care Device研究会で吸引器をテーマにして開催すると知って、以下のような質問を受けました。

Aさん:「この研究会で取り上げる吸引器って、普通の家で使っている鼻の吸引器とは違うんですか?」

松井:「基本的には同じなんですけど、オリーブ管ではなく、吸引チューブというのを使って直接分泌物のある場所にチューブを挿入して吸引する装置を取り上げます」

Aさん:「どこが違うんですか?」

松井:「吸引パワーが違います。研究会で取り上げる吸引器は、吸引流量が市販の鼻の吸引器よりも多いのです」

Aさん:「今、家で使っている鼻吸引器で鼻は全然引けません。子どもが嫌がって苦しがるのに、引けてこないんです!」

松井:「オリーブ管は鼻の入口に差し込むだけだし、吸引流量が少ないから、引けないんですよね~」

Aさん:「じゃあ、この研究会で取り上げるような医療用の吸引器を使ったら引けるんですか?」

松井:「そうですよ。吸引流量の多い吸引器を使ったら引きやすくなります。まあ、一般の方に勧めたことはないですけど……」

一般家庭の場合、自宅で吸引できると便利ですが、家庭用はあまり引けません。大変かもしれませんが耳鼻科を受診して子どもの鼻吸引をオリーブ管でしてもらうと、しっかり吸引できます。病院では、ハイパワーの吸引器を使っているからです。



一般家庭で使われる鼻吸引器が十分な効果を発揮していない理由は、やはり吸引流量なのです。
第4回でも触れましたが、ポータブル吸引器を選ぶ際、吸引性能を比較するときは吸引流量をチェックしましょう! おすすめの吸引流量は下記になります。

口鼻腔吸引 ➡ 15L/分以上
気管吸引(気管切開) ➡ 30L/分以上

気管切開で30L/分に近い吸引流量を持つポータブル吸引器であれば、病院の中央配管の壁かけ吸引器とさほど違いなく吸引できる印象です。

30L/分以上の吸引流量をお勧めしてるんなら、その商品を紹介してよ!と、読者の方は思われるかも知れませんが……。
ごめんなさい!
日本製の在宅用ポータブル吸引器で、吸引流量30L/分以上の物は存在しないと思います。

在宅で使用できる吸引器が現在のようにたくさんの種類がなかった時代では、輸入品の吸引器に30L/分以上の物がありました。

当時、外来に輸入物の吸引器を持ってこられたお母さんは、
「これすごく重いんですけど、とても引けるんで、2台目なんです!」
と言っていました。
確かに持ってみたら、鉄の塊か!と思うぐらい本当に重たかったです……とてもポータブルにはできない。

と、今回はここまで。
次回は、吸引器選びに大切な、吸引流量に関係する吸引圧について解説します。

新型コロナ病棟ナース戦記

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory

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イラスト:八十田美也子 みやよしえ

松井先生が監修に携わった書籍が2022年8月2日に刊行されました

////// 書籍案内 //////

精神科病棟ではたらく人のための感染対策きほんの「き」
子どもと家族を支える医療者のための
小児在宅人工呼吸療法マニュアル 第2版

5年ぶり、待望の大改訂!/国内すべての小児在宅用人工呼吸器を網羅。“実際の使用感”教えます!/呼吸器回路・制御・換気モードなどキホンを徹底解説!/行政・災害・訪問看護など社会変化にも言及!

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各種人工呼吸器のアップデートに加え、行政・災害・訪問看護など新たな社会情勢にも言及し、パワーアップして刊行する第2版。医療的ケア児と家族への支援施策が進む中、医師・看護師・CE・PTなど小児在宅人工呼吸療法に携わるすべての医療者必携の書。

著者:
一般社団法人日本呼吸療法医学会 小児在宅人工呼吸検討委員会 編著
岐阜県総合医療センター 新生児内科 寺澤 大祐 監修
神奈川県立こども医療センター 新生児科(非常勤) 松井 晃 監修
神戸百年記念病院 麻酔集中治療部/尾﨑塾 尾﨑 孝平 監修


定価:5,500円(税込)
刊行:2022年8月
ISBN:978-4-8404-7888-5

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