今回は、パルスオキシメータの選びかたの4回目になります。
前回は、パルスオキシメータが正しく測定するためには、赤色光と赤外線の2つの光がセンサーから出て、その光の透過度と吸光度からSpO2を導き出すと説明しました。
前回も触れましたが、パルスオキシメータによる低温やけどについて、もう少し深く掘り下げて説明していきましょう。

赤色光と赤外線の2つの光によって、パルスオキシメータの機能が発揮されるのですが、マシモジャパン株式会社というメーカーのパルスオキシメータには、7色の光(レインボー)を使用して、心拍数やSpO2以外に、メトヘモグロビン濃度(SpMet)、カルボキシヘモグロビン濃度(SpCO)、トータルヘモグロビン濃度(SpHb)といった、多くのパラメーターも測定できる機種もあります。
この機種以外のパルスオキシメータは、赤色光と赤外線の2つの光で動作していると考えていただければOKです。

赤外線は、熱を有している光です。
熱を発しているセンサーを装着するということは、装着部位の温度が上がるということで、低温やけどを起こす可能性があるということを理解してほしいのです。


パルスオキシメータを装着すると、その部分の温度は体温と同じ37℃に上がるといわれています。
そして、周りの環境温度によって、さらに上昇するともいわれています。
閉鎖型保育器に入って管理される小さな赤ちゃんの環境温度は高いですから、40℃くらいに上昇するといわれています。

さまざまな重症の患者さんや小さな赤ちゃんを見てきた経験から、私は、20年以上前からパルスオキシメータによる低温やけどについての注意喚起をセミナーなどで話をしてきました。

しかし、FDA(Food and Drug Administration:アメリカ食品医薬品局)は、低温やけどは42℃以上で起こるとしているため、パルスオキシメータの製造企業は、「パルスオキシメータは低温やけどを起こさない」と言い続けていました。 しかし、2020年4月に日本医療機能評価機構から出された医療安全情報より、「パルスオキシメータによって低温やけどを起こす」という通達が出てから、やっと製造企業も低温やけどが起こることを認めるようになりました。





低温やけどと似た皮膚の状態には、褥瘡や圧迫壊死があり、これらを見極めることは難しいです。
筆者は、パルスオキシメータによる低温やけどは、センサーを強く巻いてしまい指先を圧迫して起こる末梢循環不全と、センサーの温度上昇によって起こっていると考えています。
完全に循環できなくなるようなセンサーの装着では、圧迫壊死にもなりますし、長時間同じ場所にセンサーを装着しておくなどで、褥瘡も起こると考えています。

この低温やけど、末梢循環不全、褥瘡の3つに関連するのは、センサーの装着の強さとセンサーの発光による温度上昇が原因と考えています。
そして、パルスオキシメータの脈波をとらえる精度も、低温やけどに関連していると思います。

末梢循環が悪いということは、指先が冷たいということになります。
冷たくなった指に、パルスオキシメータのセンサーを装着すると37℃に上昇するわけですから、この皮膚の温度とセンサーによる温度上昇の温度差が大きくなればなるほど低温やけどになりやすいと考えています。

筆者は、在宅でパルスオキシメータを使用する際には、病院から貸し出していて、多くのご家族にパルスオキシメータの取り扱いの説明をしてきました。
このときに、必ず低温やけどが起こることを説明します。
そうすると、ご家族から、「あのとき、指先が黒ずんでいたのはやけどだったんだ」と言われることがたくさんありました。
末梢循環が悪い重症な児に対して治療が行われ、その病態を乗り越えて、おうちに帰れるようになった児ですが、その治療の間に起こった低温やけどをご家族はしっかりと見ていたのですね。

パルスオキシメータを選ぶときには、センサーの装着部位の循環を悪くしないものを選ぶ必要があり、そして、小さな脈波でも探し出せる性能を有するものを選ぶことが重要になります。

末梢循環不全は、児の病態以外に、センサーをきつく巻いてしまうことでも起こります。
センサーの装着はできる限り末梢循環を悪くしないようにゆったりと装着をする必要があります。
しかし、センサーの外れやすい児では、ついセンサーが取れないようにきつく装着してしまうことがあります。
この結果として低温やけどを起こしてしまうのです。
これは、人為的に引き起こされた低温やけどになります。
センサーの装着に、伸び縮みするスリーエムジャパン株式会社の『3MTMコーバンTM(自着性弾力包帯)』を使用している施設もあるかと思います。
このコーバンTMは、一度、強く巻き(伸びているとき)、その後、コーバンTMが戻ろうとするとき(縮むとき)に、包帯同士が反対方向に引っ張り合う摩擦力で固定されます。
値段が高いために、伸縮性が悪くなったコーバンTMを交換せずに使い続けると、強く巻かないと固定されなくなってきます。
このような装着を行うことで末梢循環不全となり、低温やけどが起こりやすくなります。
そこで、コーバンTMを使用することをやめたところ、低温やけどは激減しました。
コーバンTMはパルスオキシメータのセンサーの固定に便利ですが、使用方法を誤ると低温やけどなどの皮膚トラブルを惹起することになります。

センサーの装着は面倒ですが、医療用粘着テープを使用するのが良いと思います。

今回は、パルスオキシメータは赤色光以外に赤外線を使用して測定しているため、装着部の温度が上昇することに合わせ、装着部に循環が悪い状態があると低温やけどを起こす場合があることを説明しました。
末梢循環不全は、病態だけでなくセンサーをきつく巻くことによる人為的な原因でも起こるので、できる限りゆったりと、医療用粘着テープで装着するのが良いと説明しました。

次回は、パルスオキシメータの数値の正確性について説明します。



新型コロナ病棟ナース戦記

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory

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刊行:2022年8月
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