今回は、パルスオキシメータの選び方の5回目になります。

前回は、パルスオキシメータによって生じる低温やけどが起こる原因と、低温やけどを起こさないためのセンサーの装着方法について説明しました。

今回は、パルスオキシメータが表示する数値の正確性について説明するつもりでしたが、パルスオキシメータが表示するSpO2をどう評価しながら患児の管理に使われてきたのか、時代とともにパルスオキシメータをいかに有効的に使用したらよいのか考えられてきたことについて説明していきます。

パルスオキシメータがなかったころは、患児の動脈から採血を行い、血液ガス分析装置を使用して測定しなければ、動脈血酸素飽和度(SaO2)を知ることはできませんでした。

しかし、経皮的酸素炭酸ガス測定装置のセンサーを皮膚に装着することで、動脈血酸素分圧(PaO2)に近似した値を知ることができました。赤ちゃんから採血する回数を減らすことができ、痛みを減らすことや貧血を起こしにくいことで、NICUでは多く使用されたのです。しかし、センサーを43℃程度に加温する必要があるため、皮膚の発赤や水疱形成を起こすことがありました。

経皮的酸素炭酸ガス測定装置で得られる動脈血酸素分圧(TcPO2)によって、酸素解離曲線から動脈血酸素飽和度を予測することはできますが、正しいSaO2を知るには血液ガス分析装置でなければ正しいSaO2を知ることはできませんでした(図1)。

図1 酸素解離曲線



酸素を使用する呼吸療法においては、正しいPaO2を知ることで適正な酸素濃度の設定ができます。しかし、リアルタイムに正確なPaO2を知ることができないことから、この当時の酸素濃度は、患児に必要な酸素濃度より高く設定せざるを得ませんでした。

患児が必要とする酸素濃度より高いということは、PaO2が正常値よりも高くなってしまうことにつながります。
小さな赤ちゃんに高濃度酸素が使用されると、未熟児網膜症を起こすなど、酸素毒性を受けやすくなります。
必要な酸素濃度よりも高いということは、PaO2が正常値よりも高くなり、SaO2は100%になっているということなのです(図2)。

図2 動脈血酸素飽和度はヘモグロビンと酸素が結合した割合を測定



パルスオキシメータが使用されるようになった初期には、100%が表示されていると安心するという時代でした。
動脈血酸素飽和度(SpO2)が100%を表示していると、「100点だよ、すごいね!」「100点だよ! 元気だね!」なんて言葉が、NICUや病棟で飛び交うことが多かったのです。
本来、私たちが健康であってもSaO2は理論的に100%にはなりません。
最大値では、99.9%はあるかもしれないのですが……。
ということで、最大値を99%と表示するパルスオキシメータも以前は存在しました。

酸素を使用していないときに、SpO2が100%と表示されているときは、とっても健康です!
しかし、酸素を使用した呼吸療法でSpO2が100%を表示しているときは、酸素濃度が高すぎて、PaO2は100㎜Hg以上であり、その数値が500㎜Hgということもあるわけです。



パルスオキシメータが使用されていくうちに、パルスオキシメータの数値をどう評価して、どう呼吸療法に役立てることが良いのかということが徐々に広まりました。

まず、行われたのが、SpO2を99%以上にならないようにすることです。
99%以上にならなければ、PaO2は正常値以下に保たれ、酸素毒性が低下します。

さらに進んだ使用の方法は、「ターゲットSpO2」です。
この患児のSpO2をどのくらいの数値に維持するのが、今の状態に対して害にならず、患児の一番良い状態を保てるのかという考えです。

ある患児では、SpO2が98%であったり、95%であったり、呼吸不全であるSpO2<90%以下である85%に保とうということもあります。さらに、チアノーゼ性心疾患では、75%に保とうなんていうこともあります。

ターゲットSpO2によって、高濃度酸素を使用しないことによる酸素毒性を減らすことだけでなく、人工呼吸器の設定を低くすることで、肺胞を壊すことを防止することもできます。小さな赤ちゃんでは、肺胞の成長を止めることなく、成長を促すこともできるようになります。

また、PaO2によって、体血管抵抗や肺血管抵抗が変化します。
体血管抵抗が高くなると、全身に流れる血液が少なくなり血圧が低下して、肺血流が増加します。
肺血管抵抗が高くなると、肺血流が少なくなり、酸素の取り入れが悪くなり、PaO2が低下します。

このように、PaO2、SpO2は循環動態にも影響するので、今の患児に適した循環動態を維持するために、ターゲットSpO2という考えも重要なのです。

ターゲットSpO2は、病態によって異なり、状態が悪いときは低めにSpO2を管理し、病態が改善してきたら徐々にターゲットSpO2を上げていきます。小さな赤ちゃんの成長に併せて酸素濃度を調節することができます。

今回は、患児が必要とする酸素濃度をどう調節するとよいのか、人工呼吸器の設定をどうしたらよいのか、適切な循環動態を維持できるSaO2はいくつなのかということに対して、 「ターゲットSpO2」という考えかたで使用されるようになったことを説明しました。

SpO2:100%は、100点ではありません。 患児ごとに異なる「ターゲットSpO2」をつねに考えながら、パルスオキシメータを使用しましょうということです。

次回こそ、パルスオキシメータの数値の正確性について説明します。



新型コロナ病棟ナース戦記

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory

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