今回はパルスオキシメータの選びかたの6回目になります。
前回は、パルスオキシメータの歴史を振り返り、どのようにパルスオキシメータが使用されてきたか、そして患児に対して有効的なパルスオキシメータの評価のしかたについてを説明しました。
今回は、パルスオキシメータが表示する数値の正確性について説明しましょう。
パルスオキシメータは、電源を入れるだけで装置の較正などを行うこともなく、すぐに使用ができます。前回紹介した経皮的酸素炭酸ガス測定装置のモニターは、センサーの膜を交換する必要があったり、基準となるガスで較正が必要であったりと、すぐに使用できません。実際に試してみるとセンサーを装着してから、センサーが温まり安定しないとその数値は正しくなく、その数値を正しく評価するためには15分以上かかりました。
しかし、パルスオキシメータは脈波が取れるようになれば、測定値が表示され、その時間は90秒程度といわれています。
とても素早く数値が表示されるために、さまざまな医療で有効的に使用されるようになりました。
今回は、その数値の信頼性について考えていきましょう。
SpO2を測定するには細動脈の脈波を捉える必要があります。
細動脈の血管が膨らんだり縮んだりする容積脈波の変化を捉えるということを、以前にも説明しました。
この容積脈波の変化は大人と子ども、そして、小さな赤ちゃんで、一番大きいのは誰になるでしょうか?
大人の脈波が大きいというのは、正解できるでしょう。
では、一番小さい容積脈波はというと、これも、小さな赤ちゃんであることから容易に正解することができますね。
つまり、容積脈波が小さいために脈を探し出すことが難しいのが、小さな赤ちゃんです。
脈が探せないと、赤色光と赤外線の光を強く出して脈を探すことになるので、小さな赤ちゃんほど強い光が必要になることが多いです。
よって、低温やけどを起こしやすいのも小さな赤ちゃんです。
また、小さな赤ちゃんと同様に手足がむくんでいたり、冷たくなりやすい医療的ケア児では同様のことが起こります。
探し出した脈の大きさと、そのときに測定されたSpO2の正確性について説明していきましょう。
パルスオキシメータに表示される波形は、人が見やすいように拡大・縮小が自動的に行われるため、画面に表示される脈波の大きさで判断することはできません。
発光部から出された光が、受光部まで脈波の成分がどのくらい届いたかを数値で表示するパルスオキシメータがあり、その数値によって、測定されたSpO2の正確性を判断することができます。
パルスオキシメータのセンサーを指先に装着したとします。
発光部から出された光は、爪や皮膚、筋肉、脂肪、骨を通過しますが、これは容積脈波が変化しない成分です。
指先には血管があり、血液が流れていますが、その血管には動脈と静脈があります。
このうち、動脈だけに容積脈波があり、静脈は通常、脈波はありません。
したがって、容積脈波のある成分は動脈であり、この脈波のある血管に流れる血液の色がわかれば、SpO2が測定できることになります。
この色を測定するために、赤色光と赤外線が使用されるのですね。
では、この容積脈波によって変化する光の成分はどのくらいなのかというと、発光部から出された光を100とすると、受光部で受け取れる脈波成分は1~5%とされています(図1)。
図1 不正確な心拍数はSpO2の不正確
この脈波成分の数値はPI(Perfusion Index:灌流指標) と呼ばれ、この数値が表示されるパルスオキシメータがあります。
メーカーによって若干計算方法が違うようですが、基本的には拍動成分を無拍動成分で割り、%にしたものになります(図2)。
図2 PIの数値の出しかた
このPIが大きいほうがSpO2の数値の信頼性は高くなります。
PIが1%を下回ると、その数値の信頼性は低いといわれますし、いつもよりその数値が低ければ、センサーの装着が強かったり、末梢循環不全があるのではと予測したりすることも可能になると考えます。
SpO2の測定原理は基本的には同じですが、光の強さや脈波を探す方法はメーカーや機種によって変わると思います。
よって、同じ循環状態の指先でも、機種によってPIの数字が違うと考えます。
そして、良いパルスオキシメータは、PIの数値が大きいと考えます。
「安いパルスオキシメータは脈が拾えない=SpO2が測定できない=PIはゼロに近い数値である」と考えれば、PIの数値は大事な評価ができるものであると理解できるのではないでしょうか。
「SpO2や心拍数以外の数値がモニタに表示されているけど、これって何だろう?」と思ったまま使用されている方も多いのではないかと思います。
その数値がPIであれば、その数値が体調の良いときはいくつなのか、体調が悪いときはいくつなのかを知っておくと、病態の把握に役立つと思います。
PIという数値でパルスオキシメータの良し悪しや、体調の変化を評価するときに使うということで、レベルアップした在宅ケアができるのではないでしょうか。
センサーの装着によってPIが大きく出るようになれば、パルスオキシメータによる低温やけども事前に回避できると考えられます。
今回は、PIという数値の有用性について説明しました。
次回も、パルスオキシメータの数値に影響する因子について説明します。
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory
イラスト:八十田美也子 みや よしえ
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岐阜県総合医療センター 新生児内科 寺澤 大祐 監修
神奈川県立こども医療センター 新生児科(非常勤) 松井 晃 監修
神戸百年記念病院 麻酔集中治療部/尾﨑塾 尾﨑 孝平 監修
定価:5,500円(税込)
刊行:2022年8月
ISBN:978-4-8404-7888-5
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