今回は、パルスオキシメータの選びかたの2回目になります。
前回は、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、一般家庭でも使用されるようになった、パルスオキシメータの現状について説明しました。

安価で簡単に入手ができるようになったパルスオキシメータですが、パルスオキシメータの歴史は50年ほど前から始まります。
50年近く前にパルスオキシメータの原理を発明したのは、日本の医療機器会社である日本光電工業株式会社の技術者、青柳 卓雄氏であることは有名な話です。
青柳氏は「医療の役に立つ機械をつくりたい」という信念のもと、世界中にパルスオキシメータが普及した後にも、晩年まで研究を続けていました。

私は、きっとノーベル賞を受賞するだろうと思っていました。
それくらい、医療を変える発明であったと思います。
残念ながらノーベル賞の受賞はされませんでしたが、2015年に、米国電気電子学会(IEEE)より医療分野の技術革新に送られる賞「IEEE Medal for Innovations in Healthcare Technology」を、日本人として初めて受賞しました。
パルスオキシメータは日本の誇りであると思っています。

青柳氏の発明(特許出願)から1カ月弱程遅れて、ミノルタカメラ株式会社(現コニカミノルタ株式会社)が独自開発したパルスオキシメータの特許出願がされたことも知られていますが、医療に使用されるようになったのは日本ではありません。

私が働くようになった40年前は、パルスオキシメータは医療現場にはありませんでした。
日本で発明されたパルスオキシメータですが、医療機器として普及したのは日本ではなく、アメリカのBiox(バイオクス)社とネルコア社がその技術を改良し、麻酔中のモニターとしての有用性が認められ、パルスオキシメータが定着したのです。
私が初めてパルスオキシメータを見たのは、1987年頃だったと思います。
ネルコア社のパルスオキシメータで、その価格は300万円でした。
少し遅れて、Biox社のパルスオキシメータが日本に輸入され、日本中に普及していきました。

と、「歴史的なことを言われても、昔のことでしょ……」と言われそうなので、このくらいにしましょう。

「パルスオキシメータは、動脈血の酸素濃度と心拍数が測れる装置」ということは、あえて書かなくても、「知ってるよ!」と言われそうです。
「パルス」 → 「pulse」で脈拍のことですから、心拍数を表示する装置。
「オキシメータ」 → 「Oxygen(オキシジェン、酸素)」と「Monitor(モニター)」を繋げた単語なので、酸素を測る装置。
この2つの機能が一緒になった医療機器であるといえます。

しかし、パルスオキシメータは動脈血の酸素を評価する装置なので、身体に流れる血液の色から、動脈血なのか静脈血なのかを判断できなければ、意味がありません。
指にセンサーを取り付けることが一般的ですが、指先に流れる動脈血だけを判断して、その動脈血にどのくらい酸素が含まれているかを測定しなければいけません。
指先に流れる動脈血だけを選別することが、パルスオキシメータの一番重要な技術なのです。

みなさんは、心拍数を測定するときは、橈骨動脈や頸動脈などに指をつけて血管が膨らんだり縮んだりする容積脈波で脈を確認し、心拍数を数えるでしょう。
動脈は拍動しているのです。
指先にも動脈血は流れていますが、指先に流れる動脈の脈を確認することは困難です。
なぜ、指先の動脈の脈波を確認できないかというと、指先には細い血管しかないからです。
心臓に繋がっている上行大動脈から血液は全身に送られ、徐々に血管が細くなっていきます。
そして、指先の動脈は細動脈と呼ばれるとても細い血管なので、この細動脈が容積脈波として変化しても、この変化は小さいので脈として感じられないのです。

この小さい容積脈波を探し出せなければ、パルスオキシメータとしての機能が働くことはありません。



パルスオキシメータが使用される前からあったプレスチモグラフィという装置は、パルスオキシメータの指先に装着するセンサーとほとんど同じで、そのセンサーからは赤い光が出ていました。
赤い光を使って脈を探す装置で、指先に流れる動脈血の脈の大きさを見ることができました。
末梢循環が良ければ脈は大きく、末梢循環が悪ければ脈は小さくなります。

私が子どものころ、ゲームセンターにあった、心の状態を見て、その結果を印刷してくれるゲーム機? には、指先を挟むところがあり、赤い光が出ていました。
おそらく、心拍数と脈の大きさで、緊張度を予測して、心の状態を判断してくれるゲーム機だったのだと思います。
「この原理って、ウソ発見器にも使えるよね~」と、子どものころから思っていました。

つまり、「赤い光は脈を探すことができる」ということです。
この脈を探すことができなければ、パルスオキシメータは機能しません。

パルスオキシメータは、指先にセンサーを装着し、赤い光を出す発光部と、指を通過したその赤い光を感知する受光部が反対側にあります。
脈を探すことだけであれば簡単ですが、発光された赤い光が、指先を通過する際に赤い動脈血によって吸収され、変化する吸光度によって動脈血の色を判断し、酸素をたくさん含んだ赤い血液なのか、酸素が少なくなった動脈血なのかを数値化するのです。
これが酸素飽和濃度(SpO2)ですね。

しかし、指先には皮膚や爪、筋肉、脂肪、骨、そして静脈の血管があります。
酸素の少ない静脈血を測定してしまったら、正確なSpO2を測定することができません。
低いSpO2になってしまいますね。

正確なSpO2を測定するには、動脈血だけを抽出する必要があるのです。
指先の皮膚や爪、筋肉、脂肪、骨、そして静脈の血管は、拍動しない成分です。
静脈には拍動する成分がないので容積脈波はありません。

パルスオキシメータは、容積脈波のない成分を除去し、容積脈波の変化がある細動脈だけを探し出し、細動脈に流れる血液によって赤い光が吸収される量から、動脈血のSpO2を測定するのです。

細動脈を探すために、赤い光で脈波を導き出します。
その導き出された脈波を数えれば、心拍数になるのです。

細動脈の脈波を探すことができなければ、SpO2は測定できません。
ということは、正しく心拍数が表示できなければ、正しいSpO2は測定できないということです。

細動脈の脈を正確に測定できること!
心拍数が正しく表示されること!
これが重要なのです。


センサーの装着によって指先を圧迫してしまったら、脈波は小さくなり、正しい脈波がとれませんので、指を圧迫しないセンサーを有している必要があります。
もともと、医療的ケアをされている小児は、成人より脈波が小さいです。
さらに、低体温で末梢循環が悪かったり、手や指先がむくんでいたり、長時間装着することによる圧迫も考えなければいけません。

次回以降にお話ししますが、小児に適したセンサーが使用されているパルスオキシメータを選ばないと、低温火傷の原因にもなるのです。

今回は少し長くなってしまいましたが、パルスオキシメータで正しくSpO2を測定するためには、正しい脈波がとれる機能とセンサーを有していることが重要であることをしっかりと理解してください。

次回もパルスオキシメータが正確に測定するために気をつけることについて説明します。



新型コロナ病棟ナース戦記

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory

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