今回で、小児在宅医療で、誰も教えてくれない、こんな疑問、あんな疑問の12回目になります。
今回は、#045の質問に対する説明の続きです。
質問を再掲します。
「気管切開をして、夜間は人工呼吸器を使用している3歳の男の子がいます。気管吸引を行ってもしっかりと分泌物が引けず、肺雑音が残ってしまいます。小児で分泌物が引けない原因を教えてください」
●気管吸引チューブの太さと長さについてのおさらい
前回は、気管吸引チューブのサイズはFr(フレンチ)で表され、Frは外周のことであると説明しました。そして、1Frが0.33mmの外径になりますが、内径はメーカーによって異なるため、表示されている外径よりも内径は小さくなること、そして、14Frの気管吸引チューブの中を分泌物が通過するときの抵抗を1とすると、8Frの気管吸引チューブの中を分泌物が通過するときの抵抗は22.5倍になることを説明しました。
細い気管吸引チューブを使用する小児では、気管吸引チューブの抵抗が大きいために分泌物を吸引しにくい原因の1つになることを理解していただけたでしょう。
前回は説明しませんでしたが、気管吸引チューブの長さが長くなると気管吸引チューブの抵抗が増加します。
この抵抗の増加は長さに比例するので、長さが2倍になると、気管吸引チューブの抵抗も2倍になります。
あるメーカーの気管吸引チューブの長さは、サイズに関わらず長さは40cmと記載されていましたので、長さによるチューブ抵抗のことを考える必要はありません。
異なるタイプの気管吸引チューブでは、8Frが40cm、10Frが46cm、12Frが56cmでした。この長さになると、8Frのチューブ抵抗を1倍とすると、10Frは1.15倍、12Frでは1.4倍になります。
太さ(内径)の違いによるチューブ抵抗はとても大きな違いになりますが、長さの違いはそれほど大きくないことがわかります。
●気管チューブに対する気管吸引チューブのサイズ選びの重要性
今回は、気管吸引チューブの適切なサイズの選びかたについて説明します。
分泌物を吸引しにくい小児では、できるだけ太いサイズを使用するほうが、気管吸引チューブの抵抗が低いため、吸引しやすくなると考えられます。
しかし、気管吸引を行う場合の気管吸引チューブの選択は、気管チューブ(内径)の1/2とされています。これは、AARC(American Association for Respiratory Care:米国呼吸療法学会) が推奨している国際的な規格です
(表)。
しかし、日本の教科書的なものでは気管チューブ(内径)の2/3という記載もあります。
表 AARC推奨に基づく気管チューブサイズと気管吸引チューブサイズ対応表
(カテーテル外径がETT内径の50%未満、小児・成人/70%未満、乳児)(文献1より)
どちらにしても、気管チューブ(内径)よりも細い気管吸引チューブを使用することが重要です。
この理由は、太い気管吸引チューブを使用すると、気管チューブとの隙間がなくなり、肺から空気を吸ってしまうため、肺胞が虚脱してしまうからです
(図)。
図 気管チューブと気管吸引チューブの間に隙間がないと肺胞虚脱が生じる!!(文献1より)
気管吸引チューブを気管に挿入するまでは、気管吸引チューブを折り曲げたりして、吸引していない状態で挿入します。そして、吸引する場所に気管吸引チューブの先端が届いたら、折り曲げていた気管吸引チューブを開放し吸引を開始します。このとき、気管吸引チューブは何を吸引しているでしょうか。分泌物がすぐに捉えられ、気管吸引チューブを閉塞するように分泌物が吸引されていけば、分泌物が移動する速度でゆっくりと空気が吸い上げられていきます。しかし、分泌物が捉えられなければ空気が吸われていきます。また、分泌物が捉えられても、気管吸引チューブを閉塞するほど大量でなければ、空気と共に分泌物が移動していきます。
気管チューブと気管吸引チューブに隙間がないと、気管や肺から空気が吸われてしまうのです。そして、肺胞がぺちゃんこに虚脱してしまいます。肺胞が潰れてしまうと、ガス交換ができなくなるためSpO2が急激に低下してしまいます。
したがって、気管吸引中にできるだけ肺胞の虚脱を起こさないために、気管チューブと気管吸引チューブにはしっかりと隙間をつくり、開放式気管吸引では気管チューブの接続口から大気を、閉鎖式気管吸引では人工呼吸器から送気される空気を吸えるようにしなければなりません。
太い気管チューブを使用する成人では、気管チューブ(内径)の2/3の気管吸引チューブを使用しても隙間をつくることができますが、細い気管チューブを使用する小児に気管チューブ(内径)の2/3の気管吸引チューブを選択すると、空気を吸う隙間がほとんどなくなるため、必ず気管チューブ(内径)の1/2の気管吸引チューブを使用しなければなりません。
前回述べた通り、成人で使用される気管吸引チューブのチューブ抵抗は低いので、気管チューブ(内径)の1/2の気管吸引チューブを選択しても十分に吸引を行うことができます。
閉鎖式気管吸引のメリットは、人工呼吸器回路を外さずに気管吸引ができることです。気管吸引中も人工呼吸器が換気を継続できます。気管吸引中に人工呼吸器による換気が可能になる理由は、気管チューブと気管吸引チューブに十分な隙間があることが前提です。
「気管吸引チューブのチューブ抵抗が高くて吸引しづらいので、太い吸引チューブを使用したほうが良いらしい。分泌物が引けなくて排雑音が良くならないから、太いサイズの気管吸引チューブに変えよう。」という考えは、大変危険なことであることを理解しておきましょう。
今回は、気管チューブの太さに対して適した気管吸引チューブを選択する必要があり、太い吸引チューブを使用すると、肺胞虚脱が起こり、急激なSpO2の低下を招いてしまうことを説明しました。
次回も、小児では分泌物が引きにくい原因に関連する事項ついて説明していきます。
<参考・引用文献>
1)松井 晃.完全版 新生児・小児ME機器サポートブック:きほん・きづく・きわめる.第2版.メディカ出版,2016,114.
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。
KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory
イラスト:八十田美也子 スタジオ・エイト
呼吸生理/換気モード/グラフィックー 3大苦手ポイントをコンパクト解説!
「赤ちゃんの肺の中で酸素がどんなふうに動いているのだろう」「動脈血酸素分圧90mmHgってどういう意味だろう」といった素朴な疑問から、むずかしく思われがちな換気モードやグラフィックモニタまでもカンタンに知ってもらおうというセミナーです。
▼プログラム 【収録時間:約130分】
#01 酸素と二酸化炭素 〜肺胞の中でどのように移動しているか?
#02 なぜ小さな赤ちゃんにとってPEEPが重要なのか?
#03 換気モードのお話〈前半〉 IMVとCMV・SIMV・A/C
#04 換気モードのお話〈後半〉 CPAP・PSV・HFO
#05 フロー波形を見て同調性を極めよう!
#06 グラフィックモニタとトラブル対応
#07 ファイナルテスト 〜この波形、どう考える?
▼受講申し込みはコチラから
スライド資料ダウンロード 税込 \6,000
5年ぶり、待望の大改訂!/国内すべての小児在宅用人工呼吸器を網羅。“実際の使用感”教えます!/呼吸器回路・制御・換気モードなどキホンを徹底解説!/行政・災害・訪問看護など社会変化にも言及!
機種別に特性・違い・注意すべき点がわかる
各種人工呼吸器のアップデートに加え、行政・災害・訪問看護など新たな社会情勢にも言及し、パワーアップして刊行する第2版。医療的ケア児と家族への支援施策が進む中、医師・看護師・CE・PTなど小児在宅人工呼吸療法に携わるすべての医療者必携の書。
著者:
一般社団法人日本呼吸療法医学会 小児在宅人工呼吸検討委員会 編著
岐阜県総合医療センター 新生児内科 寺澤 大祐 監修
神奈川県立こども医療センター 新生児科(非常勤) 松井 晃 監修
神戸百年記念病院 麻酔集中治療部/尾﨑塾 尾﨑 孝平 監修
定価:5,500円(税込)
刊行:2022年8月
ISBN:978-4-8404-7888-5
▼詳しくはこちら

