今回で、小児在宅医療で、誰も教えてくれない、こんな疑問、あんな疑問の13回目になります。
今回は、#045の質問に対する説明の続きです。
質問を再掲します。
「気管切開をして、夜間は人工呼吸器を使用している3歳の男の子がいます。気管吸引を行ってもしっかりと分泌物が引けず、肺雑音が残ってしまいます。小児で分泌物が引けない原因を教えてください」
#045と#046で、小児において分泌物が引きにくい理由の1つに吸引チューブの太さが影響することを説明しました。そして、#046ではAARC(American Association for Respiratory Care:米国呼吸療法学会) が推奨する、気管チューブのサイズに対する気管吸引チューブのサイズの選択のポイントについても説明しました。
#045で、14Fr(フレンチ)の気管吸引チューブの中を分泌物が通過するときの抵抗を1とすると、8Frの気管吸引チューブの中を分泌物が通過するときの抵抗は22.5倍になることを説明しました。気管吸引チューブのサイズは5Fr~18Frまであるため、各サイズの抵抗値の変化がどうなっているのか気になったので、グラフにまとめてみました。
気管吸引チューブの条件は、長さはすべて同じ(例えば40cm)、気管吸引チューブの壁の厚さは0.5mmと統一して、18Frの気管吸引チューブの抵抗値を1としたときの各サイズの気管吸引チューブの抵抗が何倍に上昇するかを計算し、グラフ化しています
(図1)。
このグラフを見ると、きっと小児における分泌物の吸引のしにくさがわかると思います。
図1 気管吸引チューブのサイズにおける気管吸引チューブの抵抗
(18Frのチューブ抵抗を1とした場合、チューブの厚さは0.5mmで統一)
とてもびっくりするグラフだと感じませんか?
気管吸引チューブのサイズが細くなるほど、抵抗値が急激に高くなっていきます。
18Frの抵抗値:1に対して、10Frは21倍、8Frは80倍ですが、グラフでみるとあまり影響しなさそうです。
ですが、6Frから急激に抵抗値が上昇し、625倍になりました。
そしてなんと、5Frは3125倍でした。
この変化が、「Poiseuille(ポアズイユ)の法則:半径の4乗に反比例」の特徴になります。
在宅医療では、医療者ではないヘルパーさんなどの気管吸引が許可されていますが、この許可には「介護職員等の喀痰吸引等研修(第三号研修)」を受ける必要があります。
この研修では、気管吸引の圧力は-20kPaと教えています。
気管吸引の圧力の設定に対する詳細は次回にさせていただきます。
圧力の表示が国際単位のPa(パスカル)になったのは1960年ですが、日本では1992年〜1999年にかけて統一されました。
しかし、Paは圧力のイメージがつきにくいです。
以前使用していた、水銀で表すmmHgのほうがイメージしやすいのは筆者だけでしょうか。
-20kPaは-150mmHgになります。
-150mmHgとは、水銀を150mm(15cm)吸い上げる力になります。
水銀と水は同じなのでしょうか???
いやいや、水銀は水より13倍も重たいのです。
よって、-150mmHgを水に置き換えると、150mm×13倍=1950mm H2Oと表現でき、水を吸い上げる力 → 195cm吸い上げる力 → 約2m吸い上げる力になります。
吸引器の圧力を-20kPaに設定するということは、吸引器に接続された吸引ホースをまっすぐ下におろして水を吸うと、吸引ホースは水を吸い上げ、2mのところで止まるということになります
(図2)。
図2 吸引機の圧力設定のしくみ
次に、吸引ホースの先に気管吸引チューブを接続して水を吸い上げてみます。
18Frの気管吸引チューブのとき、2mの高さまで水を吸い上げる時間が、例えば1秒であったとします。
同じように各サイズの気管吸引チューブで同じことをすると、気管吸引チューブのサイズが小さくなるごとに、2mの高さまで吸い上げるのに時間がかかることになります。
単純に、気管吸引チューブの抵抗値から考えると、10Frでは21秒、8Frでは80秒、5Frになると3000秒(50分)も時間がかかるということになります。
今回のデータは、あくまでもチューブの壁が0.5㎜であると仮定したモデルであるため、正確な時間ではありませんが、気管吸引チューブのサイズが小さくなることで、吸引の時間は長くかかるということがわかります。
気管吸引の時間は10秒以内に行うことが基本になっていますので、10秒という時間内に十分な吸引のエネルギーを発揮できるのは、太いサイズの気管吸引チューブであり、細い気管吸引チューブでは、求めている吸引性能を発揮できないのです。
今回は、気管吸引チューブの総サイズでの抵抗値を、仮定したモデルで計算し、グラフ化しました。
正確なデータではありませんが、細い気管吸引チューブほど抵抗値が高く、分泌物を吸い上げるには時間を要するため、小児では分泌物が引きにくいという感覚になりやすいことが理解できたのではないかと思います。
次回も、小児では分泌物が引きにくい原因に関連する事項について説明していきます。
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。
KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory
イラスト:八十田美也子 みやよしえ
呼吸生理/換気モード/グラフィックー 3大苦手ポイントをコンパクト解説!
「赤ちゃんの肺の中で酸素がどんなふうに動いているのだろう」「動脈血酸素分圧90mmHgってどういう意味だろう」といった素朴な疑問から、むずかしく思われがちな換気モードやグラフィックモニタまでもカンタンに知ってもらおうというセミナーです。
▼プログラム 【収録時間:約130分】
#01 酸素と二酸化炭素 〜肺胞の中でどのように移動しているか?
#02 なぜ小さな赤ちゃんにとってPEEPが重要なのか?
#03 換気モードのお話〈前半〉 IMVとCMV・SIMV・A/C
#04 換気モードのお話〈後半〉 CPAP・PSV・HFO
#05 フロー波形を見て同調性を極めよう!
#06 グラフィックモニタとトラブル対応
#07 ファイナルテスト 〜この波形、どう考える?
▼受講申し込みはコチラから
スライド資料ダウンロード 税込 \6,000
5年ぶり、待望の大改訂!/国内すべての小児在宅用人工呼吸器を網羅。“実際の使用感”教えます!/呼吸器回路・制御・換気モードなどキホンを徹底解説!/行政・災害・訪問看護など社会変化にも言及!
機種別に特性・違い・注意すべき点がわかる
各種人工呼吸器のアップデートに加え、行政・災害・訪問看護など新たな社会情勢にも言及し、パワーアップして刊行する第2版。医療的ケア児と家族への支援施策が進む中、医師・看護師・CE・PTなど小児在宅人工呼吸療法に携わるすべての医療者必携の書。
著者:
一般社団法人日本呼吸療法医学会 小児在宅人工呼吸検討委員会 編著
岐阜県総合医療センター 新生児内科 寺澤 大祐 監修
神奈川県立こども医療センター 新生児科(非常勤) 松井 晃 監修
神戸百年記念病院 麻酔集中治療部/尾﨑塾 尾﨑 孝平 監修
定価:5,500円(税込)
刊行:2022年8月
ISBN:978-4-8404-7888-5
▼詳しくはこちら

