今回で、小児在宅医療で、誰も教えてくれない、こんな疑問、あんな疑問の16回目になります。
今回も、#045の質問に対する説明の続きになります。
質問を再掲載します。
「気管切開をして、夜間は人工呼吸器を使用している3歳の男の子がいます。気管吸引を行ってもしっかりと分泌物が引けず、肺雑音が残ってしまいます。小児で分泌物が引けない原因を教えてください」
これまでの5回では、気管吸引チューブのサイズの選びかたや、細い気管吸引チューブほどチューブ抵抗が大きいため、分泌物を引きにくいこと、吸引圧について説明しました。
今回も、さらに小児で分泌物が引きにくい理由を追求していきましょう。
さて、皆さんが使用している気管吸引チューブの先端には穴がいくつあるでしょうか?
先端に1つだけの気管吸引チューブもありますが、きっと、先端以外に横にもいくつかの穴が開いているのではと思います。この穴を側孔と呼びますが、側孔があることによって、先端にある分泌物だけでなく、気管壁にこびりついた分泌物や気管チューブの内面に付着した分泌物を吸引しやすくなります。
よって、先端だけでなく、側孔が開いた多孔の気管吸引チューブが使用されることが多いと思います。
最大吸引圧は決められていますが、これは、気管粘膜を損傷させないための安全域として設定された圧であることは、以前に説明しました。
また、吸引している間、常に設定圧になっているのではなく、分泌物が引かれて、気管吸引チューブが閉塞した状態になることで吸引圧が上昇することも説明しました。
しかし、通常であれば、分泌物が引かれているときでも、設定圧に達することはないとも説明しました。
では、どんなときに設定圧まで上昇するのでしょうか。それは、気管吸引チューブの穴のすべてが同時に閉塞された状態が維持されたときです。具体的には、吸引圧によって気道壁がつぶれて、気管吸引チューブが気道壁に張り付いた状態などが考えられます。
小児の気道壁は軟骨形成が未熟なため、成人に比べて気道がつぶれやすく、気道吸引チューブが気道壁に張り付きやすいといえます。
気管吸引の方法には、ディープ法(Deep Suctioning)とシャロー法(Shallow Suctioning)の2つの方法があります。皆さんはご存じでしょうか。
また、皆さんの施設ではどちらの方法で気管吸引を行っているでしょうか。
それぞれの特徴や注意点を理解するために、ディープ法と シャロー法について確認しておきましょう。
1.ディープ法(Deep Suctioning)
●定義
気管吸引チューブを 気管の深部(気管チューブの先端より深い位置)まで挿入し、直接痰を吸引する方法。
●目的
気管の深部に滞留した痰を直接除去したいときや、咳嗽力が極めて弱い患者で痰が中枢側へ上がらない場合に実施する。
●メリット
①深部の痰を確実に除去できる
②無呼吸や重度の換気障害時に即効性がある
●デメリット
①粘膜損傷のリスクが高い
②気管粘膜は脆弱で、気管吸引チューブの先端が接触すると出血や浮腫を起こす
③迷走神経反射による徐脈・無呼吸
④気管支攣縮の誘発
⑤感染リスクの増加
⑥人工呼吸器の肺保護戦略と相性が悪い
⑦深部刺激で換気が乱れ、肺保護換気が崩れる
<以下、小児では特に注意>
⑧気道径が細く、粘膜が柔らかいため損傷しやすい
⑨迷走神経反射が強く、徐脈・無呼吸が起こりやすい
⑩気道が虚脱しやすく、陰圧で閉塞することがある
2.シャロー法(Shallow Suctioning)
●定義
気管吸引チューブを気管チューブの先端より浅い位置(咽頭〜気管入口付近)まで挿入し、引き抜きながら吸引する方法。
●目的
粘膜損傷を避けながら安全に痰を除去し、自然排痰(咳・線毛運動)を最大限に活かす。
●メリット
①粘膜損傷が少ない(最重要)
②迷走神経反射のリスクが低い
③小児・在宅・介護で安全性が高い
④人工呼吸器管理と相性が良い
⑤肺保護換気を崩さない
⑥気道攣縮を起こしにくい
●デメリット
①深部の痰には到達しない
②咳嗽力が極めて弱い患者では効果が不十分
小児ではなぜシャロー法が推奨されるのかというと、次のようなことがあげられます。
①気道が細く、粘膜損傷のリスクが高い
ディープ法は気管吸引チューブが気道粘膜に接触しやすく、出血・浮腫・気管支攣縮を起こしやすい。
②迷走神経反射が強い
気道深部への刺激により、徐脈・無呼吸が起こることがある。
③気道が虚脱しやすい
陰圧吸引によって気道がつぶれ、痰が動く前に気道が閉塞する。
④咳嗽力が弱く、深部の痰が動きにくい
深部の痰を吸引しようとしても、気管吸引チューブが到達する前に気道が閉じることがある。
⑤安全性が最優先
小児の吸引は「安全性>除去量」であり、シャロー法が基本となる。
昔は、ディープ法が多く行われていましたが、ディープ法にはデメリットが多いために、特に小児ではシャロー法を選択するのが基本になっています。
小児では安全性の観点からシャロー法が推奨されます。しかし、ここで新たな疑問が生じます。シャロー法なら気管吸引チューブが気道壁に張り付きにくいのに、なぜ実際の在宅現場では「痰が引けない」という問題が起こるのでしょうか。
実は、痰が引けない原因は吸引圧ではなく、別のところにあるからです。
次回は、その理由として見落とされがちな「吸引器の性能と吸引流量」について考えていきます。
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。
KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory
イラスト:八十田美也子 みやよしえ
呼吸生理/換気モード/グラフィックー 3大苦手ポイントをコンパクト解説!
「赤ちゃんの肺の中で酸素がどんなふうに動いているのだろう」「動脈血酸素分圧90mmHgってどういう意味だろう」といった素朴な疑問から、むずかしく思われがちな換気モードやグラフィックモニタまでもカンタンに知ってもらおうというセミナーです。
▼プログラム 【収録時間:約130分】
#01 酸素と二酸化炭素 〜肺胞の中でどのように移動しているか?
#02 なぜ小さな赤ちゃんにとってPEEPが重要なのか?
#03 換気モードのお話〈前半〉 IMVとCMV・SIMV・A/C
#04 換気モードのお話〈後半〉 CPAP・PSV・HFO
#05 フロー波形を見て同調性を極めよう!
#06 グラフィックモニタとトラブル対応
#07 ファイナルテスト 〜この波形、どう考える?
▼受講申し込みはコチラから
スライド資料ダウンロード 税込 \6,000
5年ぶり、待望の大改訂!/国内すべての小児在宅用人工呼吸器を網羅。“実際の使用感”教えます!/呼吸器回路・制御・換気モードなどキホンを徹底解説!/行政・災害・訪問看護など社会変化にも言及!
機種別に特性・違い・注意すべき点がわかる
各種人工呼吸器のアップデートに加え、行政・災害・訪問看護など新たな社会情勢にも言及し、パワーアップして刊行する第2版。医療的ケア児と家族への支援施策が進む中、医師・看護師・CE・PTなど小児在宅人工呼吸療法に携わるすべての医療者必携の書。
著者:
一般社団法人日本呼吸療法医学会 小児在宅人工呼吸検討委員会 編著
岐阜県総合医療センター 新生児内科 寺澤 大祐 監修
神奈川県立こども医療センター 新生児科(非常勤) 松井 晃 監修
神戸百年記念病院 麻酔集中治療部/尾﨑塾 尾﨑 孝平 監修
定価:5,500円(税込)
刊行:2022年8月
ISBN:978-4-8404-7888-5
▼詳しくはこちら

