今回で、小児在宅医療で、誰も教えてくれない、こんな疑問、あんな疑問の15回目になります。
今回も、#045の質問に対する説明の続きになります。
質問を再掲載します。
「気管切開をして、夜間は人工呼吸器を使用している3歳の男の子がいます。気管吸引を行ってもしっかりと分泌物が引けず、肺雑音が残ってしまいます。小児で分泌物が引けない原因を教えてください」
これまでの4回では、気管吸引チューブのサイズの選びかたや、細い気管吸引チューブほどチューブ抵抗が大きいため、分泌物を吸引しにくいことを説明しました。
そして前回#048では、皆さんがよく知っている吸引圧の設定値が決められている理由について説明しました。
今回は、これまでの説明を踏まえて、小児で分泌物が吸引しにくい理由をさらに追求していきましょう。
●吸引圧はずっとかかっているわけではない?!
皆さんは、吸引圧を設定しているのは、設定した吸引圧で常に分泌物を吸引していると考えているのではないでしょうか?
この考えかたは間違いです。
吸引を行う前に、吸引圧の設定を確認するのは、あくまでも安全のためであって、万が一気管吸引チューブの先端が気管粘膜に吸いついてしまい、気管粘膜を損傷するのを防ぐためです。
吸引圧を設定・確認するときには、あらかじめ気管吸引チューブを吸引ホースに繋げておくと思います。このとき、吸引器をONにしていると、吸引圧のメーターはいくつになっているでしょうか。
このときの吸引圧のメーターは“ゼロ”になっていることが通常だと思います。
吸引器がONになっているということは、気管吸引チューブの先端から空気を吸っている状態です。中央配管に接続された吸引器であれば、60L/分程度の流量の空気が気管吸引チューブの先端から吸われています。しかし、吸引圧のメーターは“ゼロ”ですから、気管吸引チューブの先端の吸引圧も“ゼロ”と考えてよいでしょう。
では、この吸引圧はどうなると上がっていくのでしょうか。
吸引圧を設定・確認するときには、気管吸引チューブの根本を折り曲げることで、閉鎖状態を作り、空気を吸えなくすることで、吸引圧は上昇し、その圧を確認しながら設定値になるようにダイヤルを調節します。
ということは……。
分泌物を吸引するときに吸引圧が上昇するのは、気管吸引チューブに分泌物が入り込み、気管吸引チューブを閉塞したまま吸引ホースまで導かれていくときです。
この吸引圧は、気管吸引チューブの分泌物があるところから吸引器の間で発生している力ですから、気管吸引チューブの先端の圧力は、分泌物が移動していくゆっくりとしたスピードでしか空気が吸われないので、“ゼロ”の状態です。
筆者は、新生児蘇生法のインストラクターをしています。NCPRのコースの講習会で実技演習をする際は、「気道に分泌物が溜まっているようです。吸引してあげましょう。気管吸引チューブは鼻と口、どちらを先に吸引しますか? 口からですね。何cm挿入しますか。5cmですね。“ジュジュジュジュー”。分泌物が吸引できました」といった感じで、質問しながら進めていきます。
分泌物を吸引するときの音は、“ジュジュジュジュー”です。この音の表現は、分泌物が引けて、次に空気が引かれ、分泌物が引かれ、次に空気が引かれていることを表現しています。
分泌物が多量で、かつとても
粘稠
であれば、“ジューーーーーーーッ”と分泌物しか引けない音になると思います。しかし、ほとんどの場合、空気と共に分泌物が吸引されるので、“ジュジュジュジュー”となるわけで、分泌物が吸引されるときに吸引圧は上昇し、空気になると吸引圧は下がり、また分泌物を捉えたときに吸引圧が上がります。といっても、吸引圧が上がるのは一瞬なので、設定された吸引圧まで上昇することはありません。
設定された吸引圧まで上昇するのは、気管吸引チューブが完全に閉塞された状態が継続する場合です。例えば、気管吸引チューブの先端が気管粘膜に張り付いてしまった場合などがこれにあたります。このようなときでも、吸引圧が設定値を超えて上昇しないよう、安全弁によって吸引圧が制限されています。
●細い気管吸引チューブが吸いにくい理由
では、太い気管吸引チューブと細い気管吸引チューブでは、気管吸引チューブの先端が気管粘膜に張り付いてしまった場合、どちらが早く設定された圧に上昇するでしょうか。
太い気管吸引チューブを、太いストローに置き換えて考えてみましょう。
太いストローを口にくわえて空気を吸うと、ストローの先端が開放されている間は抵抗なく空気が口の中に入り込んできます。しかし、ストローの先端を指先で閉鎖すると、あっという間に空気が吸えなくなり、指先はストローの先端に張り付き、設定された吸引圧まで即座に到達します。
では、細いストローではどうでしょうか。
細いストローを口にくわえて、空気を吸ってみると、太いストローよりも強く吸わないと空気が口に流れ込んできません。しかし、ストローの先端は開放されている間は空気が流れ続けているため、ストローの先端の吸引圧は“ゼロ”の状態です。指先でストローの先端を塞ぐと、さらに強い力で吸わないと、指先はストローの先端に張り付きません。ストロー自体の抵抗が大きいため、太いストローよりも先端の吸引圧が、設定された値まで上昇するのに時間がかかるためです。
細いストローと細い気管吸引チューブはこれと同じです。抵抗値が高く、先端に伝わる吸引圧の上昇は太い気管吸引チューブよりも遅くなります。
●病院では吸えるのに自宅では吸えない?!
しかしながら、NICUで8Frという細い気管吸引チューブを使用していても、あまり吸引圧の上昇に時間がかかるという感じはしませんし、分泌物の吸引もスムーズにでき、太い吸引チューブとそれほど差はないのでは? と感じます。
この理由は、中央配管の吸引流量が60L/分程度の、とても強い吸引流量をもっているからです。細い気管吸引チューブでも強い吸引流量をもっているので、設定された吸引圧に達する時間が速いのです。
しかし、在宅医療で使用される、電動吸引器の吸引流量は何L/分でしょうか。
電動吸引器を選ぶとき、カタログを見て、値段や最大吸引圧ばかりに注目していないでしょうか。「吸引圧は-80kPaまでと記載されていて、病院と同じ吸引圧に設定できるし、この吸引器が安くて良いね!」と選んでいないでしょうか。
電動吸引器のカタログには、吸引流量が必ず記載されています。
その値は、8L/分、13L/分、16L/分など、機種によってさまざまです。
しかし、これらの吸引流量は病院の中央配管の吸引流量と比べると、とても少ない流量なのです。
この吸引流量が少ないということは、気管吸引チューブの先端が閉塞されたときに、先端の吸引圧が設定値まで上昇するまでに時間がかかります。
細い気管吸引チューブは抵抗が大きくなるため、細い気管吸引チューブであるほど時間がかかるのです。
ですから、在宅医療で使用される電動吸引器を使用したとき、細い吸引チューブを使用する小児では病院と同じように引けない、吸引できない、すっきり分泌物が除去できない、ということになるのです。
ですから、筆者は、「電動吸引器を選ぶときは、吸引流量を見て選択しましょう」と、常に説明しています。
できれば、30L/分以上の吸引流量をもつ電動吸引器をおすすめします。しかし、価格が10万円近くなってしまうこともあるので、「最低でも20L/分の吸引流量をもつ電動吸引器を選びましょう」と伝えています。
ということで、今回は、分泌物を引いているときの吸引圧がどう変化するのか。そして、病院の中央配管による吸引と、在宅医療で使用される電動吸引器では、この吸引圧の上昇がどう違うのかについて説明しました。
次回はさらに、在宅医療における小児の吸引がなぜ引きにくいのか、その対処法などについて説明したいと思います。
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。
KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory
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