みんなが知りたい「吸引器」

第1回目でKIDS Home Care Device 研究会発足の経緯をお伝えしましたが、もともとは、筆者が管理者をしているFacebookのコミュニティ「小児在宅医療コミュニティ」で、ボソっとつぶやいたことがきっかけでした。

コミュニティには、医療者(医師・看護師、訪問看護師などを含む・理学療法士・臨床工学技士など)、デイケア事業者、家族など約1,850名が参加しています。

このコミュニティで、いつも一番の話題になるのが吸引器です。常に多くの意見交換が行われており、吸引に関する問題が多く存在していることを感じています。

こんな問題を一つでも解決できないかと、ずっと考えていました。そして、私が「医療ものづくりコーディネータ」としてお世話になっているさいたま市の企業に、吸引器の老舗企業があったのです。

そこで、Facebookのコミュニティで「吸引器の製造企業さんと座談会をして、作ってほしい吸引器の要望や、困っていることを伝える場を考えているのですが、どうでしょう?」とつぶやいたところ、かつてない反響とたくさんの要望があったのです。

ということで、さいたま市の吸引器老舗企業をお呼びして意見交換会をやっちゃおうと、世話人を集めて開催したというのが第一回目開催の正しい?経緯です。

製造メーカーとユーザーが一同に会す、画期的な会

第1回目のKIDS Home Care Device 研究会は、2021年12月18日(土)に「ポータブル吸引器の製造企業さんと吸引の困りごとを話そう!」をテーマにして開催しました。

今回、ご参加いただいた吸引器老舗企業とは三幸製作所さんです。

あまりこの企業のお名前を皆さんはご存じないかもしれませんが、酸素療法器具(酸素流量計など)は多くの病院に納入されており、医療者であれば、知らぬ間にきっと使っている身近な企業です。

ミニックという吸引器を製造している企業としても有名です。実際は、新鋭工業という企業名で販売されているので、三幸製作所という名前を耳にすることは稀かもしれません。

研究会は下記のスケジュールで進行しました。欲張り過ぎて、1時間予定が1時間半になってしまいました。

1.「研究会発足の経緯」

詳しい経緯は前回の#001をお読みいただければと思いますが、当日は筆者から説明しました。

2.松井 晃「小児におけるポータブル吸引器の選び方」について

●ポータブル吸引器のパワーは、吸引圧ではなく吸引流量で変わる。
●気管切開で使用する場合は、30L/分程度の吸引流量を持つポータブル吸引器を選びましょう! 

ということを、熱く熱く語らせてもらいました。

吸引器が正しく選ばれていない背景として、吸引器の購入を勧める医療者や在宅医療をサポートする職員が吸引器に対する知識が乏しく、正しい吸引器をご家族に勧められていないこと。また、ネット通販で簡単に購入できるようになり、安価な吸引器を選びやすくなり、購入に失敗していることが多いという問題提起をさせていただきました。

筆者が考える吸引器を選ぶポイントは以下です。
小児在宅医療におけるポータブル吸引器は命の砦!
1台目の吸引器はしっかり吸引できるものを選ぼう!


補助金内で機種を選ぶのではなく、補助金を全額使用しても自腹を切るような少し高い機器であっても後で後悔しないしっかりとした吸引器を選びましょう!

気管切開なら、まずはミニックDCⅡがお勧め。購入した多くの方から、「一度使ったら止められない!」と言われる機種です。

詳細は、後日、こちらのメディカLIBRARYで在宅医療機器に関する連載を始めますので、そこで詳しく説明していきます。

乞うご期待を!

3.ポータブル吸引器の老舗企業・株式会社三幸製作所から製品紹介

創業60年の歴史と企業のビジョン、製造している製品紹介と今回のテーマである吸引器の説明がありました。

三幸製作所で作っているポータブル吸引器ミニックシリーズには、在宅で使用される3電源法式のミニックDCⅡがあり他社にはない高流量の吸引流量でパワーを持った吸引器であることが説明されました。さらに新しい取り組みとして、使い捨ての排液バッグが使えるようになったという紹介もありました。

4.徹底討論「私たち、こんな吸引器が欲しいんです!」

医師・訪問看護師・学校看護師・重症児デイケア看護師・医療的ケア児の家族、それぞれの立場から「こんな吸引器があったらいいな」という意見を出し合いました。

家族や看護師からは、「小さくて・軽くて・可愛らしくて・バッグに入りやすくて・パワーがあって・バッテリが—が長持ちして・災害時にも対応できる」そんな吸引器が欲しい、という要望が出されました。また、学校看護師の立場からは、校長先生だって吸引する、誰でも間違いなく簡単にしっかりと吸引できるものが欲しい!という意見も寄せられました。

一方で、実際の運用にあたっては第三号研修(喀痰吸引等指導者マニュアル)で決められた手技や吸引圧の問題も提起されました。小児では、第三号研修で示された吸引圧では引けないのが実情です。

また、最近では鼻吸引としてさまざまな吸引器が一般家庭でも使用されるようになり、吸引器の機種が広がり、正しく機種の選定ができないことも話題として出ました。

医師の立場からは未来の吸引器として「アレクサ、電源入れて~」と言うだけ、AIアシスタントで声をかけたら動き出す吸引器ができたらいいね、という未来的な発想も出て、とても楽しい研究会になりました。

参加者からは、今回のような製造企業とユーザーを交えた研究会は大変有意義で、企業の実際を知る上でも重要な役割をもつという意見が聞かれました。それは、企業が必要とされる性能をもつ医療機器を作るのには大変な開発コストがかかること、また、販売後の管理体制を考えると高額な医療機器で儲けているわけではなく、むしろ薄利と言える状況があるということでした。

今回の第一回の参加申し込みは、定員を大幅に超える98名で(関係者含む)、私たちの予想を上回り、大盛況でした。

当日、参加いただいた方たちとは、有意義な時間を過ごすことができ、とてもありがたく思っています。この研究会をきっかけに、これから開発される新しい吸引器にユーザーの要望が1つでも取り入れられることを期待しています。

第2回の研究会は、3月12日に開催予定です。詳細については、こちらをご確認ください。みなさまの参加をお待ちしております!

新型コロナ病棟ナース戦記

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポートブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory