当院には認知症だけではなく、老年期うつ病の人も多く通っています。
ゴミ屋敷、物屋敷、汚部屋などいろいろな言われ方をしますが、要は片付けができない人たちがいます。うつ病などの精神疾患、認知症など様々な原因で起こります。
また同じような状況で「モノ」ではなく「生き物」を集めてしまい、猫屋敷、犬屋敷などペットが増えたり、世話がしきれなくて劣悪な環境になるケースも見られます。野良猫を集めたり、鳩やスズメなどの野生の鳥に餌付けをする人もいます。
野良猫や野生の鳥などの餌付け行為については動物愛護法で規定されています。
餌やり自体は罰せられないものの、餌付けによって動物が集まり環境汚染などが生じた際には都道府県知事が指導・勧告・命令をすることができます。命令に従わないと50万円以下の罰金に処せられる場合があります。
このため、このような行為をしている人に対しては、外来で行う精神療法で「餌付けによって近隣に迷惑をかけてはいけません。社会の一員として自覚してください。法律にも定められています。最悪の場合罰金を支払うことになりますよ」と指導を行います。
ところがそれらの動物が全部本物とは限らないのです。
「いろんな動物が来るんです」
以前から野良猫やカラスに餌付けして、近隣で問題になっている人です。
「最近はネズミがたくさん出たので、ネズミを駆除する毒餌を買ってきて撒いたらネズミはいなくなりました。でも、その後から子ネズミが2匹いるんです。小さい小さいネズミが、チューチューいつも私の周りにいるんです」
おやおや、ファンタジーのような話になってきました。
これまでの経過
一人暮らしです。
もともと両親と3人暮しでした。母親が先に他界し、その後に父親が家で寝たきりになったのを介護して、50歳頃に見送りました。百貨店に勤務していましたが60歳で定年を迎えました。
定年退職が近づいた時期に、頭重感や頭痛、吐き気、倦怠感などが出現し、涙もろくなるなど憂うつになりました。このように環境の変化を機に老年期うつ病を発症することがあります。
たまにカラオケ・スナックに行きますが、頻度は多くありません。他県に妹の子どもがいますが遠方です。妹が他界してからはめったに会いません。ときどき孤独感が込み上げてきて、夜中にパニック状態になります。
孤独を紛らわすために、雀や野良猫に餌をやっています。近所の人が迷惑がっているとわかっていても、止められません。
うつ状態
X-6年、気持ちが落ち込むようになりました。体がだるくなり、一日中寝てばかりで、食事もしたくなくなり、徐々にやせました。そんなことを繰りかえしているうちにしばらくして自ら「これでは死んでしまうな」と思い、起きて保健所に電話をかけました。
保健所からの紹介で地域包括支援センターにつながり、「安心コール」というサービスを申し込みました。毎週月曜日の朝10時に区役所から安否確認の電話がかかってくるサービスです。ただ電話がかかってくるだけですが、人とのつながりができて安心しました。
地域包括支援センターから近所の内科に行くように紹介され、そこでエンシュア・リキッド®︎を処方されて内服し、栄養が摂れるようになると少しずつ元気が出て回復しました。趣味のカラオケを再開しました。その後はしばらく落ちついて経過していました。
うつ状態の再発
X-3年、再び具合が悪くなり、調理をするのが億劫で、同じ物ばかり食べるようになりました。朝起きたときに絶望感が込み上げて「もう死んでも良いな」と思うようになりました。布団から起き上がると、頭がふらふらしてパニックになります。
近所の人に相談したところ、「介護保険を申し込んだら?」と言われました。以前にも世話になった地域包括支援センターに相談に行き、当院を紹介され初診しました。
初診時 MMSE29点です。30点満点の記憶力などを調べる検査です。29点はほぼ正常です。頭部 MRI で海馬に萎縮がみられました。
うつ病でも海馬が萎縮することがありますので、認知症の初期なのか、老年期うつ病なのか、はっきりしません。経過を見ていく必要があります。
管理能力の低下
食材を買ってきても使い切れず腐ってしまいます。冷蔵庫が壊れて冷凍できなくなったので電気屋を呼んだところ、霜取りなどの手入れをしていなかったので壊れたことが判明しました。
自宅には、他界した両親の持ち物や、自分が若い頃からの物が大量にたまっており、処分できないでいました。本人が「片付けを手伝ってもらいたい」と言ったので、地域包括支援センターに連絡し介護認定を受けてもらうことにしました。
寂しさを治療する
「自分はなんで生きているのかな」と思うと涙が出てくると言います。食事は作りますが、ときどきコンビニでおにぎりを買ってきます。1人での食事が終わってお茶碗を洗っていると「どうしてこんなことをしているのかな」とむなしくなるとのことでした。
野良猫が餌をもらいに来ています。最近は鳩の世話もしているとのことでした。私は「野生動物に餌を与えてはいけない」と指導しました。介護認定申請した際に、認定調査員にもそう言われたようです。そのためか「私は、包括支援センターの人から嫌われています」と言っていました。被害的になっています。
「野生動物に餌を与えてはいけないのは法律で決まっていることなので、あなたを嫌いだからそういう話をしたわけではありません。あなたが法律違反しないように心配してアドバイスしてくれたんですよ」と説明しました。
抑肝散加陳皮半夏を処方しました。不安感などを抑える作用のある漢方薬です。認知機能の低下がある人に処方しても副作用が少ないので最初に処方することが多いです。内服を始めたところ、何となく気分が落ちついたということで、いったん通院中断しました。
症状の再燃
X-2年、半年ほど経って再受診しました。
「もの忘れがひどくなって悲しいです。探し物をして疲れてしまいます。お薬はとっくに切れてしまいました。薬をもらいに来たかったけど外に出るのが億劫で、出かけようとするとプレッシャーが強く体が震えて横になっていないとなりませんでした。
毎朝起きるたびに『今日もこれから1日があるんだ』と思い嫌な気持ちになります。カラオケが趣味でしたが楽譜が見えなくなり、歌も歌えなくなりました。買物はカートにすがって何とか行けます。両親が住んでいた家に一人暮らししていますが、とにかく物が多くて捨てられません。朝起きると物を出してきて片付けようとしますが、結局移動するだけで片付きません。自宅の中がゴミの山になっています」
「地域包括支援センターの人に相談しましたか」
「相談しました。調査の人が来て介護保険証が送られて来ました」
ヘルパーサービスを依頼する
私は地域包括支援センターに手紙を書きました。自宅の片付けを手伝ってもらえるヘルパーを入れてもらうよう依頼しました。
切れていた薬、抑肝散加陳皮半夏を再開すると少し意欲が出て片付けを開始できました。自分でも少し片付けができるようになったためか、私からの依頼で地域包括支援センターの人が入れようとしたヘルパーサービスを断ってしまいました。何よりも「家の中が片付いていないから人に見られたくない」という気持ちが非常に強くなかなか導入できません。
援助を断られる
地域包括支援センターの担当者が困り私に以下のような文書を送ってきました。
「訪問したところ『物が多すぎてたいへん困っている。困りごとが沢山あるので何とかしてほしい』と話していたにもかかわらず、具体的な解決策を示すと、ことごとく断られるという状況でした。
断られた理由を尋ねると『出したお茶を(担当者が)飲んでくれなかったから嫌な感じがした』とか、近所の人に『ヘルパーなんか入れちゃダメよ』などと言われたのも影響しているようでした。
担当者が部屋の中を覗くと、値札がついたままの新品の服がそのまま積み上がっていました。またその奥には、やはり買ってから梱包を解いていない未使用の布団が積み上がっています。
抑肝散加陳皮半夏は『飲んでいます。飲むと気分が良くなります』と話していました。
その他には『カラスが私のことを覚えていて、いつもエサをもらいに来る。エサをあげるとちゃんとお辞儀をする。家の中に猫ちゃんが入ってくるからご飯をあげている』と言っていました。
自宅の1階ガレージに高級な食器などをダンボールに入れて保管していたそうですが、『通行人に盗まれた』とのことでした。また、一度古道具屋を呼んだところ『意に沿わない安値で買い叩かれた』ということでした。
これらの体験が積み重なり、物に対する執着が強くなっていったものと考えられます。学生ボランティアが高齢者の家を片付けるサービスがあり、お金もかからないので勧めてみました」
と、締めくくられていました。
生活の乱れと新たな症状
睡眠覚醒リズムが乱れ、夜中にお菓子や煎餅などを食べてしまい、胸焼けがひどくなっています。
手足に振戦が出るようになりました。台所などで立ち仕事をしていると震えてくると言います。診察時には振戦は見られません。暗算負荷をかけても出現しません。パーキンソン病に見られるような安静時振戦ではないようです。
念のため脳のMRI検査をしましたが、1年前と大きな変化はありませんでした。 MMSEは28点でした。1年前は29点でした。通常アルツハイマー型認知症では、1年間で2~3点低下するといわれています。はっきり「変化がある」とは言えない点数です。
地域包括支援センターの担当者が紹介した「学生ボランティアが自宅を片付けるサービス」も本人が断ってしまい、結局何も利用しないで終わりました。
明治時代の着物
X-1年、「亡くなった母の桐タンスを開けてみたら古い和服がたくさん出てきました。広げてみようとしたらどの着物も手で裂けてしまうほど生地がもろくなっていました。母は明治生まれだったので着物も古いんです」とのことでした。
計算してみると100年ぐらい前の着物です。ボロボロになっていてもおかしくありません。売ることもできずゴミとして捨てるしかないでしょう。
いつまで経っても片付けがうまくいかず本人はうつ状態になっています。
「余計なことを考えて眠れなくなります。これからのことを考えると食事も喉を通りません」
寝ている時間が増え、のぼせたような感じになり、全身が小刻みに震えていると言います。震えは緊張からくるもののようです。高齢になると全般に交感神経優位になります。細かい震えが出現します。緊張や興奮をすると震えが悪化します。老人性振戦といいます。
抗うつ薬の処方
私は緊張や興奮を鎮めるために漢方薬の処方をやめてドグマチールを開始しました。ドグマチールの服用を開始したところ食事が取れるようになりました。睡眠が改善し、のぼせも解消しました。
MMSE施行したところ26点でした。時間的見当識とセブンシリーズで各-1点で、遅延再生は-2点です。短期記憶障害が以前より目立ちました。ドグマチールの副作用で認知機能が低下したのかもしれません。
ドグマチール服用により情緒や意欲が改善しましたが、しばらくすると転倒し大腿骨頚部骨折をしました。
骨折を機に介護サービスにつながる
薬剤性パーキンソン症候群による歩行障害が原因のようでした。入院し手術を行い、1カ月ほどで自宅退院となりました。
これを機にようやくケアマネジャーが付きました。介護用ベッドをレンタルしました。また入浴サービスも受けるようになりました。四点杖をレンタルし、また以前のように1人で外出できるようになりました。
半年が経ち、MMSEを再検したところ29点になりました。種々のサービスで人と関わることが増えたのが良かったと思われました。しかし、点数は上がっていましたが、同時に行った頭部MRIでは海馬の萎縮が進行していました。萎縮が進行しているところを見ると、やはり変性疾患なのかもしれません。
症状が軽くて隠れていた変性性パーキンソン症候群がドグマチールのような抗精神病薬の服用で顕在化してくることがあります。
歩行器からの再出発
X年、通院時に歩行器を使用して来るようになりました。
食事内容を聞くと、パンとうどんとラーメンとご飯をメインで食べており、時々カップラーメンを作っているとのことでした。炭水化物ばかりです。
役所で書類を書こうとしたら、手がふるえて字がうまく書けなかったということでした。緊張すると余計に震えてしまうということでした。まさに老人性振戦の症状です。
介護保険のリハビリテーションを利用してもらい、徐々に歩行障害が改善し、歩行器ではなく一本杖で歩行可能となりました。
「起床した瞬間は『嫌だな』と思うけど後は大丈夫です」ドグマチールを続けて飲んでいます。
骨折してから繋がった介護サービスを継続しています。週2回はデイサービスで入浴しています。また週1回の訪問マッサージでリハビリマッサージを受けています。
赤ちゃんネズミ
「野良猫ちゃんがきています。ネズミ目当てです。隣のビワの木から実が落ちてきてネズミが湧くんです。雀や烏、鳩がビワの木に集まってきて鳥の糞が家にいっぱい降ってくるんです。だから毎日それを掃除しています。枯れ葉もみんな掃除しています」
自分がしている餌付けを棚に上げてビワの実のせいにしています。
「家にネズミが5~6匹いるので猫ちゃんでは取り切れないみたいで。自分で薬局でネズミの薬を買ってきました。そしたらネズミがいなくなりました。
でも、その後から今度は家の中に小さな小さな赤ちゃんネズミが2匹いるようになりました。家の中にいて、私の周りを付いてきて歩いているんですよ。猫ちゃんが入ってきても赤ちゃんネズミには興味がないみたい。マッサージ止めようかしら。ネズミがいるので」
お婆さんの後を付いてくる赤ちゃんネズミです。童話の世界のようです。幻視ではないかと思いました。レビー小体型認知症のようです。リハビリマッサージをやめる口実にしたい様子です。
パーキンソン症候群の悪化
「たまにすごく憂鬱になります。夕飯を食べて、テレビ観ていてもつまらないです。『死んでもいいや』と思ってしまいます。毎日毎日何もすることないし。
妹がいましたけど、妹とは不仲でした。妹は自分を姉と思っていませんでした。妹には娘がいますけど、姪は妹にべったりだったので。他人のようなものです。
来年88歳で『家のことどうしよう』と胸に重くのしかかります。家が古いのであっちもこっちもボロボロで雨が激しいと雨漏りがします」
抑うつ的になりました。「ネズミがいるから」とリハビリマッサージを断ってしまいました。巧緻運動障害が出現しボタンがはめにくくなりました。夜中にベッドから転落しました。幸い骨折はありませんでした。四点杖をレンタル開始しました。
介護保険サービス導入後にいったん29点に持ち上がったMMSEは26点に低下しました。頭部 MRI ではさらに大脳萎縮が進行しました。
食欲不振が再燃
X+1年、冬になると食欲が低下しました。要介護1に上がりました。要介護1なので地域包括支援センターのケアマネジャーから、民間事業所のケアマネジャーに代わりました。
ある日、本人が地域包括支援センターの元のケアマネジャーに電話をしてきました。
「誰にも言わないでほしいんだけど、知らない人が度々訪ねてくるんです。怖いんです」と言います。よくよく話を聞くと新しいケアマネジャーのことのようです。被害妄想があるようでした。この件について、地域包括支援センターから私にすぐに連絡が入りました。
私は診察時に本人に尋ねました。
「ケアマネジャーのXXさんを知っていますか?」
本人は記憶にありませんでした。すでに2、3回会っているはずなのですが「記憶にありません。会ったこともありません。誰でしょうか。不安です」との返事でした。
徐々に通院が間遠になってきました。足の運びが悪くなり四点杖から再び歩行器に戻りました。
もの忘れ
忘れることが多くなりました。ぼーっとしていることが多くなりました。薬を忘れることもあります。薬がなくならないので当院への通院も忘れます。
「家に薬はいくつ残っていますか?」
「余っているかもしれませんが、よく見てないのでわかりません。でももうすぐなくなりそうなので来たのです。付き添いの人がいないと区役所に印鑑証明を取りに行くのもできません。こないだは友だちが付いて行ってくれましたけど、これからも友だちに頼るわけにも行かなくて、どうしたらいいでしょう。杖や歩行器を持っていくのを忘れて出かけてしまうようになり、外出先で動けなくなってしまいます。白内障の手術をしたいのですが、そういうときにも誰かに付き添いをお願いしたいのです。それが心配で眠れなくなりました」
通院介助ヘルパーや、成年後見制度の利用が必要と考えられました。私はケアマネジャーに通院介助ヘルパーを依頼しました。
ヘルパーが入る
通院は1人でできると言い張って、通院介助ヘルパーを入れることはできませんでした。しかしなんとか買物支援のヘルパーが入りました。
「重たい買物とか欲しいものを買ってきてもらい助かります。新しいケアマネジャーさんが毎月来ています」
ようやくケアマネジャーを認識したようです。
猫の餌付けはまだやっているようでした。
「猫ちゃんが朝4時頃来るんです。夜のときもあります。窓の外でニャアニャア言うのでエサをあげると、また猫のお友だちの所に帰って行くんです。
いつも余計なことを考えて胸がいっぱいになるけど、薬を飲んでいるから大丈夫と言い聞かせてきました。朝起きると胸が張り裂けそうです。猫ちゃんに話しかけていると気持ちが落ち着くんです」
通院が間遠なので薬をきちんと飲んでいるか確認すると、1日2回の薬を1日1回だと思っていたことがわかりました。薬を管理するための援助を介護保険サービスで入れるか、薬の回数を減らすかどちらかの対応が必要です。ヘルパーを入れるにもかなりの時間がかかったので、すぐにその回数を増やすのは難しいと判断しました。私は薬を飲む回数を1日1回に減らして様子を見ることにしました。
おさまらない餌付け
「元気です。猫ちゃんは朝晩来ます。最近あまり鳴かなくなりました。猫ちゃんに会いたいときは、お勝手のドアを開けて呼ぶとやって来ます。エサをあげるとどんどん食べるので太ってきました。前は猫ちゃんがネズミをやっつけてくれていたけど、赤ちゃんネズミは毒餌を撒いてもいなくならないし困ったなあと思います」
その赤ちゃんネズミは幻視ではないかと思うのです。散らかったゴミなどを見間違えているのかもしれません。掃除すれば見えなくなるかもしれません。
「家を片付けて掃除してください」
「掃除機がないの。片付けも嫌になってきました」
「掃除をしてくれるヘルパーを入れてください」
「ヘルパー嫌いなんです」
「清潔にしたほうがいいので野良猫や鳩、スズメ、カラスなどに餌をあげるのをやめてください」
「さみしいからついあげてしまうんです」
私のアドバイスはことごとく通じません。
首垂れ
首が垂れてきました。体は全体に左に傾いてきました。頭部 MRI を撮ったところ、大脳皮質のびまん性萎縮が増悪し、海馬の萎縮も進行していました。また大脳萎縮は左に強く、左右差がみられました。
首垂れは骨粗鬆症でも起こりますが、脳が原因の場合は錐体外路症状です。錐体外路症状とはパーキンソン症候群の原因になる症状です。大脳萎縮に左右差があり錐体外路症状を伴ってくる変性疾患かもしれません。大脳皮質基底核変性症、嗜銀顆粒性認知症などです。
MMSEを同時に行いましたが29点でした。画像所見とMMSEの点数が解離しています。MMSEは記憶力、見当識、集中力や注意力、言語機能、空間認識などを調べる検査です。社会性や意欲、病識、妄想、幻覚などは評価できません。それを評価するには問診が重要なのです。
在宅生活の限界
あるとき本人が言いました。
「忘れ物が多くなって困りました。お鍋が焦げちゃうの。お茶を沸かしても途中でテレビを観ていると忘れてしまいます」
ついに火の不始末が出てきたようです。
「ものを入れてガチャンとやるのなんだっけ」
電子レンジのことです。語想起障害があり単語が出てきません。
「電子レンジのことですか」
「そうそう、それのこと。電子レンジ買おうとしたら高くて買えないの。だからコンビニで買ったおにぎりをお鍋に入れておじやにしているの」
ケアマネジャーにまた連絡しなくてはいけません。自宅の火災報知器の有無、コンロが自動消火になっているのかなど確認しなければなりません。
火の不始末への対策が立てられなければ在宅生活の継続は困難です。これからますます目が離せません。
認知症専門クリニック「くるみクリニック」院長。神経内科医。認知症専門医。介護支援専門員(ケアマネージャー)。1990年横浜市立大学医学部卒業。1993年同医学部神経内科助手、1994年三浦市立病院、1998年七沢リハビリテーション病院、2001年医療法人社団・北野朋友会松戸神経内科診療部長を経て、2002年東京都世田谷区に認知症専門のくるみクリニックを開業。