●書評
負の側面を見るか、肯定的な面を見るか
2000年に回復期リハビリテーション病棟が創設され、脳卒中などの障害のある人への対応が急性期、回復期、維持期に分けられた。回復期リハ病棟では退院時の歩行能力獲得などが到達点のひとつで、その後の自宅生活ではその能力を維持することが目標になる。その考えは、「維持期」が「生活期」に変更された後も継続していると思う。
筆者は、脳卒中の人は、脳の回復とともにうつ状態になることがほとんどであり、入院中にうつ状態から脱する人は少ないと考える。そして退院後、数年かけてうつ状態から脱して、さまざまな活動を経て、自信を取り戻して活躍している人に出会うなどして、少しずつうつ状態から脱していく。さらにこの間、歩行能力なども長期的に向上している姿をよく見かける。
こうした流れについて、キイワードは「主体性」と考え、日本脳損傷者ケアリング・コミュニティ学会では、2016年から「主体性研究」をしている。本研究への参加者は、脳損傷の当事者、家族、医療者、福祉職、心理学者、社会学者、哲学者などで、現在、全国の医療機関などにデータ収集の協力を依頼中である。
一般的に医療専門職は、脳卒中などの障害のある人を診ると障害の程度を評価することで、どうしても否定的な面に目が行くことになる。障害のある人の能力や重症度などを知り予後予測を立てるうえで、障害の程度の評価は重要である。その反面、「国際障害者分類(ICIDH)」では「疾病→機能障害→能力低下→社会的不利」と表現されているように、たとえば、脳卒中になると片麻痺が起きて、歩行が困難になり、仕事がむずかしくなるという「負の側面」が強調されてきた。
それに対し、障害があっても世のなかで活躍できるという肯定的な面を見て、支援のあり方を再考したのが「国際生活機能分類(ICF)」である。ただしICFの全体を知るには、健康状態、機能、活動、参加、および環境因子、個人因子を分析する必要がある。それらの背景にある1,500項目もの分類に戸惑い、目標を設定するのに困難を感じる人は少なくないだろう。このようなハードルを低くすることを目指したのが本書である。
障害を持っていても、いかに可能性があるか
本書では1冊全体を通して、「障害があっても、いかに可能性があるか」という考えが貫かれている。まず、序章で「Impossible」から「I‘m possible」というしゃれたICFのマインドセットが示され、ドキッとする。第1章では、ICFの歴史的背景を11世紀から紐解き、国際疾病分類(ICD)、国際障害分類(ICIDH)を経て、ICFの誕生までが書かれている。
第2章で医学モデルと社会モデルの統合であるICFの基本構造から、健康状態、生活機能(心身機能・身体構造、活動、参加)の要素、障害のとらえ方、活動のとらえ方、背景因子について、さらに、それらを現場でどうとらえるかまで、丁寧に説明されている。
第3章では医療チームの機能分担とチームのあり方が示されている。また、「活動」から「参加」に向けて、支援者には、「参加」行動が、意識的または無意識的な目的や思いによる当事者の自発的な行動として行われるように、環境整備や計画の提案が求められる。それを実現するためには、支援者には障害のある人の「社会参加を実現するための権利を行使する力である社会生活力」を高める視点が必要である。
第4章では、事例を通じてICFの臨床活用が示されている。ネガティブだけでなくポジティブな要素はなにかを分析して、事例の患者さんが肯定的な方向性を見出すまでのストーリーが、マンガでわかりやすく紹介されている。
回復期リハ病棟までは期間が短いので統計処理しやすい。しかし生活期では年単位の長期の統計のあり方が必要で、著者を含めて模索中である。そんな現状に対して第5章では、ICFは共通言語になる可能性があり、通所・訪問リハではICFに基づいた計画書の作成が求められていることが述べられている。ICFを用いて医療と介護に1本の筋を通すことができれば、今後、長期的な統計をとれる時代が来そうである。
そのようになるためにも、まずはICFを、医療機関に限らず生活期でも使えるようになることが必要である。その先に、医療や福祉の支援のあり方が統計で実証され、障害のある人や高齢者が、「参加」に向けて自発的に動きやすい環境が整えられ、誰にとっても豊かな生活が可能となるだろうと考える。
最後にコラムだが、若いころの失敗談からICFの視点の重要性、地域共生社会の実現のための背景因子である地域への働きかけ、イソップ童話の教訓から柔軟な対応の大切さなど、日ごろ気づきにくい視点に光を当てている。
まだICFを活用していない人は、本書を手に取って、ぜひ現場で実践していただきたい。
書籍紹介
回復期リハスタッフの“わからない”が“わかる”に変わる!
「生きること」へのリハビリテーションに向けて
アセスメントとプランの視点が身につく!
ICF(国際生活機能分類)は、回復期リハ領域で患者さんの全体像を把握し、多職種チームで情報を共有するための必須のツールとなっている。しかし、完全に使いこなせているかと訊かれるといまひとつ自信が持てない…。そんなICF活用の実例を、マンガを使ってわかりやすく解説する。
発行:2023年5月
サイズ:B5判148頁
価格:3.630円(税込)
ISBN:978-4-8404-8176-2
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【無料】出版記念セミナー|2023年8月27日(日)開催
「障害があっても、いきいきとその人らしく暮らす」ことを支援していくために必要な ICF の理解。
書籍のエッセンスを凝縮し、執筆者である演者たちの熱い思いとともにお届け!
「ICFはどう活用すればいいのか?」が要点とともにわかる。
<プログラム>
■ICFの理念と本質
■リハビリテーションとICFの関係
■現代に求められる「生きること」の意味
■わかったようで分かっていない『参加』の大切さ
■リハビリテーション支援のためのロジカルテクニック
日時:2022年8月29日(月)10時30分~12時
申し込み締切:2022年8月23日(水)
※予定数に達し次第 受付終了となります
対象:医療従事者
受講料:無料
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