若手看護師からは「看護記録をもっと効率化したい」といった声が聞かれます。そのような業務効率化に積極的な若手看護師は多いのではないでしょうか。その一方で、職場での人間関係には消極的な面が見られます。なぜ、周りから若手看護師はそのように見えてしまうのか、3回に分けて考えていきたいと思います。


特に医療現場では、対人関係の失敗がもたらす影響が大きくなりやすいです。
看護師はチーム医療のなかで働き、日常的に指揮命令系統や役割分担のなかに組み込まれています。
そのなかでの人間関係の摩擦は、単なる感情的な問題にとどまらず、業務のしづらさ、学習機会の減少、評価の低下といった実質的な不利益につながりやすくなります。

エドモンドソンが示したように、心理的安全性が低い環境では、人は発言や提案、対話を控えやすくなります1)
若手が人間関係に慎重になるのは、対話を軽視しているからではなく、対話が安全に成立しない可能性を経験的に学習しているからなのです。

さらに、現在の若年層は、ひとつの集団内での関係の悪化が、その後の立場に長く影響すると感じやすい環境で育ってきた世代でもあります。
そのため、人間関係は試行錯誤の場というより、失敗しにくいことが求められる領域として経験されやすくなります。
人には安定した対人関係を形成し、維持しようとする基本的な所属欲求があり、所属感は感情や認知過程にも強い影響を及ぼす、とバウマイスターらは述べています2)

この視点に立てば、若手看護師が人間関係に消極的に見えるのは、関係を軽視しているからではありません。
むしろ、関係が損なわれることの影響を強く意識しているからこそ、慎重になったり、必要以上に周囲の反応を気にしたりするのだと考えられます。

一方で、ICTや業務効率化は、失敗しても人格評価に直結しにくい領域です。
操作ミスや提案の不採用は、「慣れの問題」「制度の問題」「環境の問題」として処理されやすく、行為と人を切り分ける余地があります。
カーネマンが指摘するように、人は損失が大きい領域ではリスク回避的に行動し、損失が限定的な領域では試行を行いやすいとされています3)
若手がICT改善に積極的なのは、そこが比較的安全に試行錯誤できる領域だからであり、人間関係に慎重になるのは、失敗のコストが高く見積もられているからです。

また、若手世代は、「話し合えばわかってもらえる」という成功体験を十分に共有していない場合も少なくありません。
むしろ、意見を述べた結果、評価が下がったり、「扱いづらい人」と見なされたりする経験を重ねていることもあります。
その結果、対話は関係改善の手段というより、関係悪化のリスクを伴う行為として予測されやすくなります。
この状態で対人関係に慎重になることは、消極性ではなく、経験に基づいた現実的な判断だといえます。

引用・参考文献
1)心理的安全性とは何か、生みの親エイミー C.エドモンドソンに聞く.DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー.https://dhbr.diamond.jp/articles/-/9408,(2026年5月閲覧)
2)RF, Baumeister. et al. The Need to Belong: Desire for Interpersonal Attachments as a Fundamental Human Motivation. Psychological Bulletin. 117(3).1995, 497-529.
3)Kahneman, D. Thinking, Fast and Slow. Penguin, 2014, 915.

次回はなぜ職場の対人関係は「安全に失敗すること」がしづらいのか考えてみたいと思います。

※本記事は『なぜ、看護師は勤務表を何度も確認するのか』(メディカ出版)の内容を一部抜粋して再構成したものです。


●著者
きのした えり

著者の書籍のご案内


『なぜ、看護師は勤務表を何度も確認するのか
』

なぜ、看護師は勤務表を何度も確認するのか
「わかりあえない」で終わらないための看護現場論

しんどさを自分のせいだけにしないために
働くなかで感じるわかりあえなさを「あの人は現場をわかっていない」「最近の若い人はすぐ辞める」「中堅が頑張れば回る」など、「誰かの考え方」「性格」「姿勢」「努力不足」の問題として考えてしまっていないか。看護師の志向性を新進気鋭の著者が解き明かす。

発行:2026年8月
サイズ:A5判 196頁
価格:1,760(税込)
ISBN:978-4-8404-9153-2
▼詳しくはこちらから

▶Amazonでの購入はこちら
▶楽天ブックスでの購入はこちら