最近では学生のうちに学ぶことも増えた「キャリアデザイン」ですが、実際に臨床現場に入ると目の前の仕事に集中し、キャリアについて考える時間も得られないのではないでしょうか。また経験を重ねるうちに、思い描く自身のキャリア像が変化したり、見失ってしまうことも少なくありません。そんなときに、一つの標石となるが、先を歩く先輩方ではないでしょうか。本連載は、いまでは多くの看護師のマネジメントに携わる看護部長や、専門性をもって看護にたずさわる方々に、どのような経験を通して、自身のキャリアを切り開いてこられたのか、お話をうかがいます。
突然の異動で視野が広がり、次のステップへとつなげる
Q)看護師になろうと思ったきっかけと、ご自身の経歴を教えてください
私は幼少期に慢性中耳炎と診断され、中学生で2度の手術を受けましたが、その後も聴力が弱い状態でした。入院と通院のなか、いつも優しく声を掛けてくれる看護師の存在は、身近なものとして感じていました。
高校卒業後の進路を考えたとき、初めは看護師になることは難しいと諦めていましたが、チャレンジしてみようと受験した埼玉県浦和市立高等看護専門学校に合格し、1988年に卒業した後は埼玉社会保険病院(現在のJCHO埼玉メディカルセンター)に入職。看護師としての第一歩を踏み出しました。
入職後、さまざまな病棟を経験した後、1998年に副看護師長となり勤務にも慣れた頃、突然、附属の介護老人保健施設への異動を命じられ、施設の副看護師長、ケアマネジャーとしての役割を5年間担いました。患者さんの家庭を訪問することで、病院での姿とまったく異なるケースを見られたことは貴重な経験であり、在宅医療や地域包括ケアに興味を持つきっかけになりました。
再び病院勤務への異動と同時に看護師長となり、病棟に所属しながら地域包括ケア病棟の立ち上げにもかかわることになりました。これまで学んだことや経験したことを生かすことにつながりました。
その後、JCHO相模野病院に副看護部長として異動しましたが、2021年に二度目の転機が訪れました。それはJCHO本部の医療看護研修課への異動です。看護研修専門職として、認定看護管理者教育課程や実習指導者講習会の企画・運営に携わったのですが、病院以外での勤務は視野を広げる機会にもなりました。こうしていくつかの転機を経験し、2023年4月から当院の看護部長に就任しました。
変化する環境に対応し、自分に合ったキャリアアップを探す
Q)ご自身の考えるキャリアアップは、どのようなものですか
一般的には、専門・認定看護師などの資格取得などをキャリアアップと考えますが、看護師の大多数がジェネラリストとして成長していきます。さまざまな経験を積むことで目標や希望は変化しますし、結婚・出産などによるライフスタイルの変化によっても変わるため、その時々の自分に合ったキャリアアップを考えていくことが必要だと思います。
新卒者は、大病院で働きたい、将来はフライトナースになりたいなど、大きな夢を持ってスタートしますが、思い描いた通りにいかなくても、自分の力で考えて経験を力にしていけばいいのです。そのなかでやりたいことは必ず見つかるはずです。客観的に現状を見つめ直し、時には目標を変更していくことが、キャリアアップにつながると感じています。
私の場合、自分から希望した異動ではなかったのですが、多くの経験を積めたことは、結果としてキャリアアップにつながりました。「異動するなら辞める」「内科が好きなので異動したくない」という人もいますが、他の領域を経験せずにそこが好きと決めつけず、新たな領域を知ることも大切です。異動も一つのチャンスととらえて、チャレンジしてほしいと思います。
学びを一つひとつ積み重ね、個々のペースで継続する
Q)看護師として働くなかで、ご自身はどのように学ばれましたか
看護師は常に学ぶことが求められますが、学びは特別なものではないと考えています。私が師長となって10年目のとき、看護部長から「このままでいいのか」と問われました。ようやく仕事も楽しくなっていた時期で、認定看護管理者教育課程のサードレベルを受けるには自信もなく勇気が必要でしたが、思い切って挑戦する決断をしました。
若い方にアドバイスするとすれば、後悔しないよう、チャンスがあれば生かして、思い切ってチャレンジしてほしいということです。新卒者は改めて勉強しようと思うと大変ですが、1日1つ覚えることから始めれば、1年で365個覚えられます。そのくらいの感覚で初めはかまわないと思います。研修だからと構えるのではなく、まず参加してみることから始めると、自分が楽しいと思えることや興味があることに出会えるかもしれませんし、チャンスが生まれることもあります。そこから次のステップへ進む道が開けることもあります。
また、看護研究や新人教育など、何かに全力で取り組んだ次の年は余裕を持って働くなど、メリハリをつけることも必要です。自分のペースで学び続けることが継続への近道だと思います。
自己満足にならず、相手の立場に立って看護を実践する
Q)ご自身の看護観をお聞かせください
看護観と聞かれると「患者さん一人ひとりに寄りそう看護」を実践したいという人は多いと思いますが、これは私にとっても永遠のテーマです。
よく「患者さんとゆっくり話す時間がもてないので、看護師を辞めたい」という声も聞きます。でも果たしてその人は本当に寄り添った看護ができていなかったのでしょうか。実際には実践していても自分はできていないと思う人は多いと思います。
私はリチャード・ノーマンという経営コンサルタントが唱えた「真実の瞬間」というキーワードを常に心に刻んでいます。お客さまと接するほんの一瞬で、その企業の良し悪しを顧客は感じてしまうというものです。看護の世界も同じで、患者さんとの何気ない会話やちょっとした対応から患者さんがどう感じたか考えることが大事です。
医師は治療の結果が見える職業ですが、看護の仕事は形として現れず、結果がすぐに見えません。だからこそ、自分はがんばっているという看護師の自己満足にならず、相手の立場に立って実践することが求められると考えています。私たちが行った声掛けが、患者さんにとっては忘れられず、何年も経って「あの言葉で救われた」と言われるケースもあります。患者さんから「あのときのことを感謝している」といった言葉をもらえると、喜びや励みになります。
困難な状況でも乗り越えるという意志をもつことが成果につながる
Q)ご自身の好きな言葉や座右の銘がありましたら、お聞かせください
特に座右の銘はありませんが、「何とかなる」という言葉が好きです。困難な状況であっても、どうにか乗り越える気持ちをもって前向きに臨んでいます。
7~8年前、それまで運動をしていなかった私は登山を始めました。毎回きついのですが、頂上からの景色は素晴らしく、下山したときには、一つのことをやり遂げた達成感がありました。初めは自分には厳しくて無理だと思っていましたが、「何とかなった」と感じられたことは自分にとって大きなものでした。
諦めなければできるという気持ちは、仕事にも通ずるものです。がんばった分だけ成果が出て、喜びにつながることは登山を通じて感じたことです。
患者さんの人生にかかわり、役に立てたときが看護師の喜び
Q)看護の仕事の魅力は何だとお考えですか
患者である私の立場に立ってくれた看護師の存在が大きかった、という自分自身の幼少期の記憶が原点となっています。
看護の仕事は、大変なことやつらいこともありますが、患者さんの人生にかかわるなかで、自分たちが役に立てたときがいちばんの喜びだと感じています。看護は人と人との出会いと別れを体験できる仕事です。さまざまな感情を味わえること、年齢や立場、性別に関係なく、多くの人の人生にかかわれることは他の職業では少ないことだと感じています。患者さんやご家族との出会いが、喜びとやりがいにつながっています。
趣味と呼べるものはないのですが、埼玉県に住んでいたころは、年間チケットを購入して浦和レッズのサッカー観戦に出掛けていました。最近では異動やコロナ禍でストップしていた登山を一からやり直しています。久々に登った大山はハードでした。昔は汗をかくことは嫌いでしたが、自然のなかの登山は爽快感があり、すべてを忘れられる時間です。今後は時間を作ってハイキングなどでリフレッシュしたいと思います。また、温泉旅行に出かけることも好きなので箱根にも出掛けたいと思います。
|病院情報|看護師として成長するための当院の教育の特徴
お互いを尊重して看護を実践できる環境が、看護の質の向上につながる
当院の看護提供方式は、PNS(パートナーシップ・ナーシング・システム)を導入しています。二人一組で看護を行うため、1人の判断ではなく相談しながら実践できるため、お互いの特性を生かしながら学びを深められます。
新卒者も中途採用者もペアで看護を行えるので、常に誰かがいるという安心感があり、早く仕事になじむことができます。今後は日々のケアを行うだけでなくペアでの目標を立て実践することで、より質の高い看護の提供につなげていきます。
住所:〒240-8585 神奈川県横浜市保土ケ谷区釜台町43-1
病床数:236床
看護方式:パートナーシップ・ナーシング・システム(PNS)
診療科目:内科、消化器内科、循環器内科、糖尿病内科、腎臓内科、総合診療科、外科、消化器外科、呼吸器外科、血管外科、乳腺外科、整形外科、皮膚科、眼科、泌尿器科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、小児科、神経内科、精神科、歯科口腔外科、放射線科、麻酔科、脳神経外科、形成外科