▼バックナンバーを読む

看護師クリエイティブプロジェクト「fractale」のみなさんが、毎回テーマに沿ってそれぞれの看護の足跡を残していく本企画。

「学びかたを学ぶことで看護師として生きる選択肢をふやしていく」ことをコンセプトに立ち上げたメディア「メディカLIBRARY」のスタッフが、毎回、フラクタルのみなさんにテーマを伝えています。

今回は「詰所に持っていくもの」を綴っていただきました。

---------------------

詰所……そんな響きがなつかしい。
ナースコールが鳴り響く病棟から、扉一つだけで隔たれた先の空間。
うっすらと鳴り響くナースコールや同僚がパタパタと歩く音が聞こえるけど、自分は出なくて良い。
なぜなら詰所にいるのは、勤務前後か休憩中。
勤務時間じゃないじゃない。

状況を見ながらだけど、基本的には仕事に関連するものは持ち込まないようにしていた。
だから今回のテーマの「詰め所にもっていくもの」への回答は難しい。
強いていえば強い信念は持っていたかもしれない。

「せめてこの時間、この場所だけは聖地にしたい」

勤務前は、扉の向こうから聞こえてくる音を聞きながら、戦いに備える。
時計の針があといくつか動いたら、自分があっち側の人間だ。
今は扉一つで守られている。

休憩時間は、戦場から一時避難し小休止。
ご飯を食べながら後半に備える。
なぜか甘いものが食べたくなる。

勤務後は、戦場から解放され、逃げるように扉の向こうへ。
残りは戦友に託した。
早く帰りたい気持ちは強いものの、正気を失っているのですぐにロッカーには行けない。
なぜかいつも常備されているおやつを頬張る。

たったの扉一枚で、この違い。
職場で唯一の聖地。

ただし、メンバーによっては勤務時間外にならない場合もあった。

例えば、仕事の相談とか愚痴、または指導なら休憩中の会話は気にならなかった。
けど、なかにはご飯を食べているときに大事な申し送りや指示をされる場合もある。
この場合、非常に困った。
簡素なものなら良いのだが、案外ヘビー級のものを投げてくる。
ヘビー級をライトに投げてくる。
しかも急ぎではない。
勤務時間外なんだけどな……と愛想笑いをしながらその場を立ち去る。

行く先は、脱衣所(ロッカールーム)へ。
その名も第二の詰所(だと勝手にわたしが思っている場所)。

時間を潰すにはまったく問題ない。
きれいだし広いし。

まったく想像していない人にとっては、勤務前後でもないのにロッカーに行くのは滑稽に感じると思う。
ね、思ったでしょ、そこのお兄さんお姉さん。

ただ、そこにはいつも誰かしらお仲間がいた。

どこの病棟なのかもお名前も知らないけど。

きっと同じような考えを持っているのだろうと、なんとなく仲間意識が芽生えた。
でも近付かない。
あえて移動してまでそうやってすごしている人に話しかけるなんて、わたしにはできない。

やっぱり大事なんだよ、自分なりのペースや、切り替え。

本来は詰所がそんな場所であるべきだと思う。
そうすれば脱衣所までの大移動なんかせずとも、近くで事足りるのに。
でもきっとそんなのは難しいから、ちょっと離れたあの場所に、きっと今日も誰かがいる。

編集部からのお知らせ

フラクタルのお二人に書いてもらいたいテーマを募集しています。
ご希望のテーマをこちら宛にメールをいただくか
#フラクタルのテーマ とハッシュタグをつけてTwitterでご投稿ください。

▼バックナンバーを読む

-----------------------------
fractale~satomi~
twitter:さとみ(@minisatominy

三度の飯よりお酒が大好きな飲兵衛看護師。仕事終わった瞬間からが本番だと思っている。仕事は真面目な自信あり。大学病院消化器外科3年、民間病院ICU2年、公立病院脳外科夜勤専従、訪問入浴、デイ、老健など1年の派遣生活を経て、メルボルンへ10ヶ月の看護留学。帰国後から訪問看護師として働き3年目。座右の銘は「笑う門には福来たる」。根からの明るい性格を最大限に利用し、日々楽しく訪問中。マルチポテンシャライトだから特技っていう特技はないけど、強いて言えばラポール形成が無駄に得意。今までクレームや担当変更がないのが密かな自慢。ちゃっかり保健師免許所有。 

about fractale
https://fractale3.com/satomi/