著者:小野坂益成 (松蔭大学看護学部精神看護学講師)



みなさんは、会話のあとになって、ひとりで顔を覆いたくなることはありませんか。
私はあります。
かなりあります。
しかも、わりと定期的に思い出して、1人で勝手にダメージを受けています。

しかもたいていの場合、問題になるのは大きな失言ではありません。
あとから思い返すと、「そこ、言わなくてよかったよね」という、ほんの一言です。
たった一言なのに……。
そして何日かたってからシャワーを浴びているときなどに、ふいに思い出して赤面する。
あれは、なかなか厄介。

若い看護師時代(私も若いときがありました)、友人と談笑していたときのことです。
私は話を聴いたり、ユーモアなども交えながら発言したりと会話が弾んでいたのですが、会話が進むにつれて、どうにも黙っていられなくなったときがありました。

「でも……じゃない?」「こうすればいいんじゃない?」
「以前、~って言っていたけど……」「たぶん大丈夫じゃない?」

……はい。
これ、だいたい余計です。

その場ではアドバイスしているつもりですし、相手を重くしすぎないようにしたい。
また、以前友人が言っていたから、自分も同じように返答すれば……友人もわかりやすい!?

でも、あとから振り返ると、あれは励ましというより私自身がその重さに耐えられなかっただけかもしれません。
相手の話をそのまま聴くことが怖かった。
どう返せばよいかわからなかった。
沈黙になるのが気まずかった。
その気まずさを埋めるために、私はひとこと足してしまったのだと思います。

こういうことは、案外多い。
“助けたい”“支えたい”“安心してもらいたい”
そう思えば思うほど、言葉が増える。
そして、そこに期待と焦りも生まれるかもしれない。
“正しいことを言いたい”“間違えないようにしなければ”
その結果、増えた言葉のなかに、相手には不要なものが混ざってしまう。

「それ、言わなくてもよかったよね」
「今の、ちょっと違ったよね」
そういう一言。

もちろん、悪意があるわけではありません。
むしろ逆です。
自分にとっては善意。
自分にとっての善意だからこそ、やっかい。

相手の話を聴くとき必要なのは、すぐに解釈しないこと、すぐにまとめないこと、そしてすぐに正論を返さないこと。
相手の話を整理する前に、まずはその人の気持ちが、そこにあるのか、そしてそれを受け止める。

「そうだったんだ」
「それはしんどかったね」
「もう少し聞かせて」

こうした言葉のほうが、ずっと相手の話を生かすことがあります。
余計な説明を足さない。
励ましを急がない。
空白を埋めない。
それだけで、会話はずいぶん違ってくる。

私は今でも、気にしている。
言わなくていいことを、つい言ってしまってないか。
相手のためという言い訳で、自分の気まずさを何とかしたくて口を出してしまってないか。
あとで思い返して、「あの一言、余計だったか……」と、ひとり反省会。

でも、こういう失敗は恥ずかしいけれど、自身の経験になっていたりする。
余計な一言をしてしまった経験があるからこそ、今は少し待っていられる。
相手の言葉を途中で奪わずにいられる。
自分の気づかいを、押しつけにしないようにと意識できている。

コミュニケーションは、うまく話すことではなく
ときに、言いたいことを選択すること、結論を急がないこと。
ときに、相手の沈黙をそのまま受けとめること。
そのほうが、ずっと難しくて、ずっと大切。

「あの一言、余計でした」。

今でも思い出すと、顔が熱くなります。
でも、あの恥ずかしさがあったからこそ、聴くことのむずかしさを知れた気がしています。

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