市川智里
国立がん研究センター東病院 看護師長/がん看護専門看護師

がん看護専門看護師として、外来化学療法室、治験・消化器内科・乳腺外科病棟、緩和ケア病棟を経て、現在は外来で診断から緩和医療にわたり、がん患者のケアに従事。




「治験に参加するのは、最後の私の務めです」

70歳代の男性Aさんは、胃がんのStage Ⅳで第一相治験に参加するために入院されました。Aさんは微笑みながら、「子どもたちや孫が同じ病気になったとき、こんな気持ちにはさせたくないんですよ」と言われました。新たな治療の創出を願って治験への参加を選択したのです。

Aさんは大学卒業後、定年まで公務員として勤め、その後は孫の成長を楽しみにしていたこと、そんななか、がんの闘病生活が始まり、闘病日記を通してこの世に生を受けた理由や自分の役割について、自問自答していました。Aさんは、常に大切な人のために何ができるか、何をすべきかと考えてこられていたようでした。私は、命をかけて大切な人のために治験への参加を選択したAさんに尊敬の意を伝え、スタッフ全員でサポートすることを約束しました。

患者さんがどのように治療を受け止め向き合おうとしているのか、この治療がどんな意味をもつのか、どのような人生を送ってこられたのか、患者さんの思いに耳を傾け、そして患者さんが受ける治療を適切に提供することがいかに大切であるかを改めて考えるきっかけとなりました。それと同時に、新たな治療を創造する医療者としての役割も強く認識した瞬間でした。

残念ながらAさんは亡くなられましたが、新たな治療法が承認されるたびにAさんの言葉を思い出します。私たちは患者さんの思いに寄り添い、その患者さんにとって意味のある治療を適切に届けるという基本を忘れてはならないと思わせてくれた言葉です。

※第一相治験=主に治験薬の安全性および薬物の体内動態について確認することを目的とした臨床試験。




本記事は『YORi-SOU がんナーシング』2023年5号からの再掲載です。


YORi-SOU がんナーシング2024年1号

YORi-SOU がんナーシング2024年1号
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オンライン症状管理の現場を直撃!
患者指導・説明がとくいになる
免疫チェックポイント阻害薬 看護ガイド2024


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●01 ノーベル賞の理由が分かる!
ICIの仕組みとirAEが起こる理由
●02 患者さんにダウンロードして渡せるICI患者説明シート
●03 治療の全体的な流れを把握しよう
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■Part2 治療法に合わせた患者指導ができるようになる
●04 見逃されがち・高頻度・重篤!
抑えておいてほしいirAE
●05 どのタイミングで指導・説明が必要?
ICI単剤療法の場合
●06 +患者指導・説明が分かる!
ICI2剤併用療法の場合
●07 +患者指導・説明が分かる!
抗がん薬併用療法の場合
●08 +患者指導・説明が分かる!
放射線併用療法の場合

■Part3 irAEマネジメントの未来がみえる!オンライン症状管理のいま
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irAEマネジメントにどう役立つ?
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2011年よりPRO活用の取り組みを開始
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