2003年から課長職になったが、さまざまな乳がん患者さんとの出逢いから乳がん看護を専門的に学びたいと思い、2015年に乳がん看護認定看護師を取得。
「体をうまく脱げるように手伝ってください。そして見届けてください」
40歳代前半の女性Aさんとの出逢いは、20年以上前、一般病棟で勤務していたころのことでした。前医を受診したときにはすでに胃がんが肝臓に転移しており、余命3カ月と告知を受けたAさんは、ホスピスを希望し紹介されてきました。どんな思いを抱えているのか、どう支えていけるのか、そんなことを考えながらAさんとお会いする日がきました。
Aさんは穏やかな物腰で柔らかい笑みを浮かべながらお話しをする方でした。私が「これからのことについてご希望はありますか?」と伺うと、Aさんは当院の理念「からだとこころとたましいが一体である人間(全人)に、キリストの愛をもって仕える医療」に沿いながら言いました。「魂はね、もうすっかり穏やかなの。心は、6年前に妻を亡くし、次は娘を失う父のことを憂います。そして看護師さんは私が体をうまく脱げるように手伝ってください。今はこうして話しているけれど、そのときが近づいたらジタバタするかもしれないので最期まで見届けてください」と。
Aさんは腹腔内に注入した抗がん薬の効果で食事が摂れるようになり、一時期退院ができるほどになりました。退院したAさんは家族で旅行をするなどのたくさんの思い出をつくりながらも、献眼や献体の手続きなど着々と体を脱ぐ準備をしていました。献体を決めた理由の一つに「父に娘の亡骸の傍で悲しみに暮れる夜を過ごさせたくない」と打ち明けてくれました。その3カ月後、Aさんはホスピス病棟に入院し、好きだったコスモスの季節に穏やかに見事に体を脱ぎました。
Aさんにとって「体を脱ぐ」ということは、がんの苦痛から解放されることだけではなく、残される家族の平穏を願い自身が紡いだ縁がつながっていくこと、その想いに寄り添うことが「見届ける」ことであったのかなと、今も心に刻んでいます。これからもさまざまな価値観をもつお一人おひとりの想いに寄り添える看護者でありたいと思います。
本記事は『YORi-SOU がんナーシング』2023年6号からの再掲載です。
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