1965年愛媛県生まれ。報道機関で勤務していた33歳のとき、子宮頸がんが見つかり治療を受けた。2009年にNPO法人愛媛がんサポートおれんじの会を設立し、当事者の声を基にした政策提言やピアサポート活動などに取り組んでいる。
▼NPO法人愛媛がんサポートおれんじの会とは?
2008年に誕生した、主に愛媛県内のがん患者と家族、遺族などが集う会。毎月の例会の他、松山市内中心部で常設の語り合いの場「町なかサロン」を運営している。
ただ側にいるということ
33歳の夏、私は子宮頸がんの治療のため術後補助化学療法を受けていました。
1回目の化学療法が終わって1週間が経ったころ、脱毛が始まりました。その直後、骨髄抑制が強く出て入浴を禁止されてしまい、看護師さんにシャンプーを頼むことにしました。おそらく入職して間もない、若くて明るい看護師さんが気持ちよく引き受けてくれました。
病棟の洗面所でシャンプーをしてもらいすっかり気持ちよくなっていた私に、看護師さんは「すぐに鏡を見ないほうがいいかも……」と言いました。そう言われれば気になるもの。パッと顔を上げて鏡を見ると、映っていたのは抜けずに残っている髪がまだらに張り付き、むくみの目立つ醜い姿でした。ここまでの副作用を伴う治療をしなければ自分の命が続かない、この病の厳しさを、告知よりも手術よりも明確に突き付けられた瞬間でした。
倒れこみそうになったそのとき、鏡に映っている看護師さんの横顔が目に入りました。じっと私を見つめている横顔。私のことを心配し、何とかしたいと思ってくれていることがはっきり伝わる横顔でした。何も言葉はありませんでした。「髪の毛なんて、また生えてきますよ」「お薬が効いている証拠ですね」……。どんな言葉をかけられていても、私の心には届かなかったと思います。経験が浅いためにどう声をかけてよいのか分からず、図らずも言葉をもたなかっただけかもしれませんが、ごまかしたり逃げ出したりせず、ただ側にいてくれることが、私にとっては何よりの支えだったのです。
抗がん薬の治療は4年に及びました。つらく苦しい日々を乗り越えられたのは、このときの看護師さんの横顔があったからこそでした。
本記事は『YORi-SOU がんナーシング』2024年1号からの再掲載です。
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