大西智子
NPO法人愛媛がんサポートおれんじの会 事長

1962年愛媛県生まれ。2006年に妹を見送ったことがきっかけで「NPO法人愛媛がんサポートおれんじの会」の設立にかかわる。非常勤講師として勤務する中学・高校でがん教育を行うなど、理事の一人として活動をしている。

▼NPO法人愛媛がんサポートおれんじの会とは?
2008年に誕生した、主に愛媛県内のがん患者と家族、遺族などが集う会。毎月の例会の他、松山市内中心部で常設の語り合いの場「町なかサロン」を運営している。





「まずは」

妹が亡くなる2、3日前、点滴を外した足の付け根あたりから大量に出血しているのに気づきました。一週間ほど前に「血小板にもがん細胞があり、止血できない。あと一、二週間かもしれない」と主治医に聞かされていたこともあって、慌ててナースステーションに駆け込みました。あと一、二週間という「意味」と、これから次々と起こるかもしれないことへの恐怖に飲み込まれそうになったとき、「まずは。まずは出血を止めましょう」と看護師さんの凛とした声が聞こえました。当たり前のことです。でも私は、「まずは」ということばで我に返りました。「大丈夫、落ち着いて」と言われていたらかえってパニックに陥ってしまったかもしれません。大丈夫でも落ち着いてもいられない現実を目の前にしていたのですから。

「まずは」からは、肩に置かれた手の温もりと共に「できることはまだまだある。目の前のことを一つずつ対処していこう」という看護師さんの決意のようなものが伝わってきました。こういう事態を予測し準備をされてもいたのでしょう。

私たち患者家族は「片思いの相手」を見るように医療者を見ています。片思いの相手の「何気ないことば、声の調子、ちょっとした視線の動き、しぐさ……」に一喜一憂し、そこから私のことをどう思っているかを読み取ろうとするように、医療者を見ています。だから「まずは」に含まれていた思いを感じ取れたのかもしれません。「できることはまだある。目の前のことを一つずつ」私には何よりの励ましでもありました。

このときの手の温もり、「まずは」という短いことばとそこに込められていた思いは、妹を見送るまで、そして見送ったあとも私を支え続けてくれました。




本記事は『YORi-SOU がんナーシング』2024年2号からの再掲載です。


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