宇野さつき
ファミリー・ホスピス神戸垂水ハウス ホーム長/がん看護専門看護師

看護師歴35年。小児から高齢者、病院から在宅、急性期から看取りまでと、様々な患者・家族との出会いを大切に、病いと共に生きることを支えたいと日々取り組んでいる。




「空気が違う」

Aさんは、私が在宅療養支援診療所で在宅がん看護に関わり始めて間もないころに出会った30代後半の女性で、中学生になったばかりの一人娘さんとの母子家庭でした。2カ月前に大腸がんと診断され、多発肺転移によるがん性リンパ管症のため入院中で、予後1カ月以内と告げられていました。Aさんは娘さんと一緒に過ごすことを希望され、地域連携室から相談があり、その日のうちにAさんに会いに行きました。

40歳未満のAさんは介護保険でのサービスが利用できません。しかも病状進行が早く時間の余裕はありません。娘さんの様子やこれからのことも気がかりです。Aさんは「少しでも娘の側にいてあげたい。病院ではなかなか会えません。これからのこともちゃんと整えてあげたいんです」と、気丈に話されました。私はすぐに訪問看護ステーションやケアマネジャーに相談して、Aさんが利用できるサービスを調整し、翌日に退院となりました。

自宅ではほぼ毎日、訪問看護で病状管理や入浴介助などのケアを提供し、Aさんは家族や友人とゆっくり過ごされました。「学校から帰ってきた娘がお風呂上りにメロンを切ってくれたの」「最期まで家にいたい。この空間にいるのがうれしい。空気が違うのよ」と、Aさんはうれしそうに話してくれました。

「住み慣れた家」には、大切な人とのつながり、当たり前だった日々の暮らし、その人の人生の一瞬一瞬など、言葉にできない大切なものがたくさん存在しています。病状が進み死別を目前にするなかでも、その大切な空間を心地よく過ごせるように支援することが、私たちの大事な役割ではないかと考えさせられました。これからも一人ひとりの人生に寄り添い、少しでも看護の立場で役立つことができればと思っています。




本記事は『YORi-SOU がんナーシング』2024年3号からの再掲載です。



YORi-SOU がんナーシング2024年2号

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●04 食欲不振
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●06 末梢神経障害
●07 好中球減少症
●08 貧血
●09 血小板減少
●10 悪心
●11 アレルギー症状
●12 味覚障害
●13 呼吸困難
●14 脱毛
●15 皮膚障害
●16 爪障害
●17 下痢
●18 便秘
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●20 ナースに聞いた「よかった」「学んだ」ふり返り体験
●21 患者さんに聞いた「実は……」ふり返り体験

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