本連載は対人関係に悩みを抱える看護師が現状を見つめなおし、対人関係の課題に取り組むきっかけをつかむことを目的にお送りします。私が現場の看護師から受ける相談をもとに、一緒に考えていきます。今回のテーマは、「新人を異動させてほしい」です。
新人指導者からの突然のクレーム、どう対応すべき?
これは、「新人を異動させてほしい」と新人指導者に訴えられた管理職(師長・科長・主任など)からの相談です。
毎年4月になると多くの部署に新人が配属されます。はじめは頼りなく見えた新人も、数カ月経てばさまざまな場面で成長が実感できます。体調を崩さず毎日出勤し、そろそろ夜勤開始も視野に入るようになったと管理職がひと安心したころ、新人指導者が突然「新人が仕事を覚えない、宿題を与えてもやらない、注意をしても反省しない、返事をしない、態度が悪い」と言い出します。しばらくすると、「こんな新人は看護師に向いていない。辞めさせてほしい。それが無理なら他の部署に異動させてほしい」とエスカレートすることもあります。
「どちらが正しいのか」という判断にもとづく対応は得策ではない
こう言われると、管理職は大変戸惑います。新人指導者の力量不足と考えれば𠮟咤激励したり、あせらず辛抱するよう必死に説得したりするかもしれません。その半面、新人側に何か問題があるのではないかと心配になります。場合によっては新人を異動・退職させるという決断をするかもしれません。しかし、仮に新人を異動・退職させても、問題は何ひとつ解決しません。それどころか、新人指導者に「次からも困ったら排除して良い」と学ばせることになります。また異動・退職までに至らないとしても、管理職は「何か対応しなければならない」と相当な切迫感を覚えます。このように管理職に迷いが生じたとき陥りやすいのは、「どちらかが正しくもう一方が間違っている」と判断することです。
管理職の独断的な裁定が対立をつくり、職場の対人関係を悪化させる
たしかに善悪を決めれば、間違っている側に「悪いのはあなただから直しなさい」と指導できます。結果的に、表面上は改善が見えることもあります。しかし「悪い」と判断された側にも、間違いなく言い分はあります。我慢して従ったという不満が募り、新人指導者(または新人)と管理職に反感を覚え、スタッフ間に不信が生まれます。
管理職はしばしばこの対人関係の罠に陥り、看護師同士の対立を作ります。管理職が自ら、職場の対人関係を悪化させているのです。事例のように善悪を決めれば、管理職は問題が解決したような気分になります。そして「新人がうまく育たないのは、新人指導者(新人)のせいだ」と、自分の責任を棚上げできます。さらに、「問題を排除した」という優越感にも浸れます。しかし残念ですが、これは大変偏った考え方です。新人指導者・新人・関係者すべての事情を把握することは、事実上不可能です。ところが、事情がわかっていないにもかかわらず、管理職は過去の経験から善悪を判断し裁定を下します。部下からすれば明らかに理不尽な裁定であり、管理職が自分に都合よく判断したように見えます。
善悪を判断するのではなく、スタッフと向き合って問題解決を図る
このように、管理職をまるで職場の裁判官のように勘違いされている方は多いですが、善悪を判断するのは管理職の役割ではありません。管理職にできるのは、職場の対人関係を良くすることです。そして今、「新人を異動させてほしい」と訴えている新人指導者と向き合うことです。
今回の事例は新人の問題ではなく、管理職が向き合う課題です。新人指導者は管理職の「あなた」に訴えているのですから、まずは話を真摯に聞き、何を伝えようとしているのか理解することに努めます。たとえ感情的な訴えでも、自分を批判する言動があっても、ひとまず反論は控えます。それより管理職は、「感情的に訴えなくても、私は誠意をもって話を聞く」というメッセージを新人指導者に伝える必要があります。「新人を異動させてほしい」と訴えているのはなぜなのかを冷静に考えます。それはたぶん、新人指導者自身が苦しく辛いからです。どうしていいかわからず思いつめた結果、自分を困らせる新人を「排除する」という結論になったのです。この目的を果たすために、管理職に訴えているのです。
新人指導者と対等な信頼関係が築ければ、訴えは必ずなくなる
新人教育に、相応の労力が必要なことは間違いありません。これに伴う苦しさや辛さを軽くするには、新人指導者自身が自分の感情に向き合い、これからどうすればいいかを考えることが必要です。私たち管理職が目指したいのは、新人指導者との対等な関係です。それは新人指導で困ったこと、悩んでいること、辛いこと、苦しいこと、そしてうれしかったことを話せる関係です。こうした関係であれば、新人がより良く成長するにはどうすればいいか、そのために管理職と新人指導者は一緒に何ができるのかという対話ができます。新人教育を通じての喜び、そして教育にかかわる自分たちの成長とは何かを語り合える関係になれるよう願っています。
今の課題が、管理職と新人指導者の信頼関係の構築にあることに着目すれば、「新人を異動させてほしい」という訴えは必ずなくなります。あなたの対人関係は、きっとよくなります。
看護師。1979年 広島県生まれ。脳卒中リハビリテーション看護認定看護師。
認定看護師・看護管理者としての実践・指導・教育と並行して、執筆・講義活動をしている。JA尾道総合病院 科長。現在、脳神経外科病棟科長。日本脳神経看護研究学会 評議員、一般社団法人 広島県リハビリケア協会 理事。
施設内外で看護師の育成に取り組むと同時に、看護師の対人関係能力向上に貢献するため、独自の面談活動・セミナーを行っている。
【本連載著者の書籍紹介】
認知機能が低下した患者をめぐる看護師の面談録
登場人物は「患者の役に立ちたい、優しくしたい」と思い一生懸命仕事をしている看護師ばかり。けれど、認知機能が低下した患者の問題行動を前にして、叱責し、咎め、罰を与え、時には無視し、患者に抵抗するという「不毛な戦い」をしてしまう……。面談・対話をとおして「患者さんの問題行動」にうまく対応できない看護師と向き合い続けた著者渾身の1冊!
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