本連載は対人関係に悩みを抱える看護師が現状を見つめなおし、対人関係の課題に取り組むきっかけをつかむことを目的にお送りします。私が現場の看護師から受ける相談をもとに、一緒に考えていきます。今回のテーマは、「上司の機嫌が悪い」です。

機嫌の悪さを露わにする上司は、意図的にそうふるまっている

職場の対人関係にはたくさんの方が悩んでいますが、なかでも上司との関係に困っている人は多いです。たとえば日によって機嫌がころころ変わる上司のもとでは、毎日の仕事が憂鬱です。それでも機嫌が良いときはそれなりに付き合えますが、機嫌が悪いときの対応は大変です。挨拶をしても冷たい態度、仕事の報告をすれば揚げ足を取られる、仕事のミスは強くしかられる、勤務希望を多めに出せばここぞとばかりに注意を受けるなど、何かにつけて「責められる」という話をよく聞きます。このままでは、上司の顔を見るのも嫌になります。同僚に愚痴を言っても根本的な解決にはならず、どうしたら良いのか途方に暮れてしまうかもしれません。でもこんなときこそ視点を変え、「上司の機嫌が悪い目的」を考えてみましょう。

おそらく、その上司は意図的に機嫌悪くふるまっています。そのほうが部下をコントロールしやすいからです。

上司の機嫌が悪ければ、部下はとても嫌な気持ちになります。これ以上機嫌が悪くなると仕事がやりにくくなるため、多くの人は過敏に反応します。上司の顔色をうかがい、怒らせないようにかかわり、機嫌を取ります。

上司は部下のそうした姿を見て、「自分の機嫌が悪ければ、周りが合わせてくれるんだ」と学び、部下をコントロールできたと感じます。そして自分が優れていると勘違いし、部下を見下します。こうして上司という役割を悪用するようになります。権力の乱用ともいえます。そしてこの状態を、「統率が取れている。管理できている」と思い込みます。

部下を見下すことで自信のなさや不安から目を背けている

こうした上司はおそらく、自分に自信がないのだと私は思います。内心では、「自分の気持ちを言葉ではうまく伝えられない。不機嫌にふるまえば、言葉を使わなくても部下は言うことを聞く」と気付いています。さらに、「自分の管理職としての能力が低いことを部下に気付かれたくない。責められるのが怖い」とおびえています。

もし上司が自信をもっていて精神的に安定していれば、けっして他者を見下すことはありません。部下の揚げ足を取ったり、強く叱ったりする必要もありません。たとえば部下に仕事上の失敗があったときも、次にミスが起こらないよう言葉でていねいに説明すれば、多くの人は理解して対処します。それをせず、部下を見下すことで、つかの間の優越感に浸っているのです。こうしていれば、上司は自分の自信のなさや精神的不安定さに目を向けなくてすむからです。

上司の不機嫌に過度に反応せず、「言葉で依頼された」ことだけ応じる

「管理職である上司が、そんなはずはない。部下の成長を思っての態度ではないか」と、考える人もいるでしょうが、明確に否定します。部下の成長を願う上司は、不機嫌を武器にしません。たとえ一時的に不機嫌になったとしても、自分で認識し行動を修正できます。

残念ですが、すべての上司が適切な対人関係能力を持っているわけではありません。能力がないのに、上司になってしまったのです。それゆえ機嫌の悪い上司自身が、どうすれば良いのかわからないのです。それなら、部下である自分がかかわり方を変えていくしかありません。

まずは、上司の不機嫌に過度に反応しないようにかかわります。上司の顔色はうかがわず、機嫌も取りません。上司はあなたの反応がほしいのですから、望む反応がなければ機嫌の悪いふるまいは減ります。そして、上司が冷静に「言葉で依頼した」ことだけに応じます。これで不機嫌なふるまいではなく、言葉で伝えなければならないことを学んでもらいます。

上司を変えることはできないが、自分が変わることはできる

上司とかかわる際は、「私は上司の敵ではない、一緒に良い仕事をしたいと思っている」という姿勢を示すことを提案します。「あんなひどい上司に、できるわけない!」と思うかもしれませんが、現在あなたと上司は不健全な依存関係にあり、互いに「責められる」という不安定な気持ちをもっています。もし次に上司が機嫌悪く接してきたら、速やかに、さりげなくその場を去ります。そして、もし可能なら場を改め、「私に何か力になれることはありませんか」と伝えてみてはどうでしょうか。

「この人に責められることはない」と上司が思えたとき、機嫌が悪いふるまいをする必要はなくなります。私たちに上司を変えることはできませんが、自分が変わることはできます。あなたの対人関係は、きっとよくなります。

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小林雄一
看護師。1979年 広島県生まれ。脳卒中リハビリテーション看護認定看護師。
認定看護師・看護管理者としての実践・指導・教育と並行して、執筆・講義活動をしている。JA尾道総合病院 科長。現在、脳神経外科病棟科長。日本脳神経看護研究学会 評議員、一般社団法人 広島県リハビリケア協会 理事。
施設内外で看護師の育成に取り組むと同時に、看護師の対人関係能力向上に貢献するため、独自の面談活動・セミナーを行っている。



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