本連載は対人関係に悩みを抱える看護師が現状を見つめなおし、対人関係の課題に取り組むきっかけをつかむことを目的にお送りします。私が現場の看護師から受ける相談をもとに、一緒に考えていきます。今回のテーマは、「お局にレッテルを貼られる」です。
レッテルを貼り、糾弾することで自分の存在意義を示す
レッテルを貼るというのは、日常よく使われる言葉です。改めてレッテルの語源を確認すると、商品に貼り付ける紙の札という意味のようです。現代ではこれが転じ、ある人物や物事についての断定的な評価という意味で使われています。どうやら偏った決めつけとして用いられていることは間違いなさそうです。いずれにしても、あまり良いイメージはありません。今回は、先輩にレッテルを貼られて困っているケースです。
レッテルを貼られて職場で不利益が生じている場合は、上司や担当部署にすぐ相談してほしいと思います。悪質な仲間外れをされたり、誹謗中傷や名誉棄損を受けたりしていれば、人としての尊厳を奪われています。断じて許すことはできませんし、組織をあげて対応しなければならない問題です。
一方、特定の先輩との関係がうまくいかないのであれば、私たちにできることはありそうです。先輩のレッテル貼りの目的は、おそらく他者を貶めて自分の価値を高めることです。他者にレッテルを貼り、勇ましく糾弾すれば周囲の注目が集まります。場合によっては、それを称賛する人もいるでしょう。この不適切な行動により、先輩は職場に自分の居場所を作っているのです。
他者を貶める人は、つねに自分が貶められることにおびえて生きている
あなたがたとえ先輩から問題を指摘されるとしても、冷静に言葉で伝えられれば耳を傾けると思います。それをせず、あえて他者を貶めるという行為は大変不健全です。おそらく先輩には相当強い劣等感があり、自分には価値がないと感じています。これを認めたくないから、他者を貶めているのだと考えます。こうしていればつかの間の快感は得られ、安定したと勘違いできるかもしれません。ただ、「次は自分がレッテルを貼られるのではないか、だれかに貶められるのではないか?」とおびえて生きることになります。その結果、つねにだれかをターゲットにしてレッテルを貼り、自分が貶められないように尽くすのです。
これは常時緊張している状態であり、相当なストレスです。一度、冷静に先輩を観察してみてください。先輩のふるまいに不安定さが垣間見えるはずです。もしかしたら、すでに先輩が生きづらそうなことに気付いているのではないでしょうか。
注目を浴びなくても孤立することはない
先輩の行為は賛成できませんが、「レッテルを貼るな」と批判しても効果はなさそうです。逆に、レッテル貼りがエスカレートすることにもなりかねません。
私は先輩のレッテル貼りには一切反応しないことを勧めます。あなたが誠実に仕事をしていて、他者と適切な対人関係が築けているなら、先輩が不適切な行為をしていることにほとんどの人が気付きます。次第に周囲の人はレッテル貼りに反応しなくなり、先輩の行為は意味をなさなくなります。
また、先輩は自分が貶められることを恐れており、孤立を避けたいのです。そうであれば、だれかのかかわりで「自分は貶められることはない。無理に注目を浴びなくても孤立することはない」と気付くことは不可能ではありません。たとえばあなたの前だけでも虚勢を張らなくてもいいと思えたら、先輩は新たな対人関係に踏み出せるかもしれません。ただそれだけで、レッテル貼りがなくなることは十分あり得ます。
「お局」というレッテルを貼るのをやめることも重要
最後に1点だけ、気を付けてほしいことがあります。先輩を「お局」と呼んでいることです。私は、これもレッテル貼りであると考えます。こう呼んでいる時点で、先輩との関係を良くする気がないように見えます。さらに、周囲の人にもし「お局」と漏らしていれば、そのふるまいは先輩と何ら変わりがありません。「私は悪くない、悪いのはお局」と言っているように感じます。そしてその姿勢は、先輩や周囲の人に伝わっていると思います。
今、先輩とあなたは争いの真っ只中です。もし先輩との関係を健全にしたいなら「お局」はやめて、1人の人間として接してみませんか。先輩との関係をどうするかは、あなたが決めることができます。あなたの対人関係は、きっとよくなります。
看護師。1979年 広島県生まれ。脳卒中リハビリテーション看護認定看護師。
認定看護師・看護管理者としての実践・指導・教育と並行して、執筆・講義活動をしている。JA尾道総合病院 科長。現在、脳神経外科病棟科長。日本脳神経看護研究学会 評議員、一般社団法人 広島県リハビリケア協会 理事。
施設内外で看護師の育成に取り組むと同時に、看護師の対人関係能力向上に貢献するため、独自の面談活動・セミナーを行っている。
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登場人物は「患者の役に立ちたい、優しくしたい」と思い一生懸命仕事をしている看護師ばかり。けれど、認知機能が低下した患者の問題行動を前にして、叱責し、咎め、罰を与え、時には無視し、患者に抵抗するという「不毛な戦い」をしてしまう……。面談・対話をとおして「患者さんの問題行動」にうまく対応できない看護師と向き合い続けた著者渾身の1冊!
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