忙しい医療現場で、つい患者さんの「痛い」「しんどい」に「仕方がない」と妥協してしまう──そんな経験はありませんか?
この連載では、日々の看護業務で出遭う難しいニーズに対して、すぐに使える緩和ケアの引き出しを紹介します。患者さんに自信を持って「次の一手」を示せる看護──そのヒントをお届けします。
「この仕事、合わないのかも」で辞めた同期
ナースちゃん:
先生、私、看護師に向いてないかもしれないです。
先生:
おっ、いきなり重いね。これまさか、仕事辞めます系の相談?
ナースちゃん:
違わないんですけど、違うんです! 辞めたのは、私の同期なんです。ついこの間、「看護師の仕事、合わないのかも」って泣きながら辞めたんですよ。その子、学生の頃から実習でも患者さんにいちばん寄り添ってたタイプで。正直私より看護師に100倍向いてる子が「合わない」って辞めるの、理不尽じゃないですか? 私はどうなるんだと。
先生:
まあ、まあ。ナースちゃんはそういうところがむしろ看護師に向いているから、大丈夫だと思うよ。それはさておき、仕事が合わない問題、看護師さんたちの口からよく聞くよね。でも実は、ナースちゃんがその「合わないのかも」って言葉にもやもやしてる時点で、もう半分答えが出ているのかもしれないよ。
ナースちゃん:
遠回しな言い方面倒くさいので、結論から教えて下さい。私がTikTok世代なら、もうここでブラウザバックしてますよ。
先生:
ナースちゃんがニコ動世代で良かったよ。「合わない」って、主語がふわっとしてるでしょ。看護師という仕事が合わないのか、それともいま居るその職場が合わないのか。多くの人がそこを区別しないまま、自分を責めて辞めていくんだ。
ナースちゃん:
確かに。仕事「向いてないのかな」って考えるときの職場って、パーティーバーレルに入ってるビスケットくらい当たり前の前提条件になってましたよ。
先生:
最近はビスケット抜きのバーレルも結構あるけど、入ってるとテンション上がるよね。
バーンアウトの6割は「職場」で説明される
先生:
ここでデータの話をしようか。実は、看護師の34%が高いレベルのバーンアウトを経験しているんだ1)。つまり、3人に1人だね。
ナースちゃん:
3人に1人! じゃあ、3人新入職したらひとりはそのうち燃え尽きていなくなるってことですか? ……よく考えたら、ホントに体感そんな感じかも。
先生:
看護師さんの入れ替わりが激しいわけだよね。そして今日の本題。バーンアウトの分散の63.1%が、サーヴァント型リーダーシップと心理的安全性の2つだけで説明されたというデータがあるんだよ2)。つまり、多くの場合看護師本人ではなく、職場の環境要因のせいでバーンアウトしているってことだね。
「合わない」の正体:適性論 vs 職場環境論
(タップして拡大↑)
ナースちゃん:
63%が環境要因……。え、じゃあ私が新人の頃、師長に「あなた根性が足りないのよ」って小1時間説教されたあれ、完全に無駄だったってことですか? あの時間とやけ酒代返してほしいんですけど。
先生:
まあ、要するに「合わなかった」の内訳のうち、少なくとも半分以上は「その職場が合わなかった」と言い換えていいって話。同じ研究では、看護師と医師の関係性が感情的疲弊に与える影響の37%を、心理的安全性が媒介していたことも示されている1)。「職場が悪い→安心して発言できない→バーンアウトする」っていう、ちゃんとした構造があるんだよ。
ナースちゃん:
あ、心理的安全性。前回の「仲良し職場は心理的安全性が低い」ってやつですよね。あれ妙に腹落ちしちゃって、うちの病棟の送別会スピーチで使おうかと一瞬血迷ったんですが、やめました。
先生:
やめて正解だったね。読み返したい人は前回:「空気を読む」「仲良し」な職場は心理的安全性が低い!?を覗いてみてね。
「合わない」の正体は、たった4つの関係性だった
ナースちゃん:
でも先生、「職場が合わない」って、具体的には何が起きてるんですか? モヤッとはしてるんですけど、「モヤッとした職場」って退職届には書けないですよね。
先生:
さっきのLisser 2024の研究、実はもう一歩踏み込んだ話があるんだ1)。バーンアウトと強く関連していた職場要因は、4種類に分類されたんだよ。すなわち、医師との関係、自分の実践がちゃんと見えているか、独立して判断できる裁量とサポート、そして管理者との関係。
ナースちゃん:
全部、人間関係と「声の届き方」の話じゃないですか。バーンアウトって実は、「仕事量が多い」とか「給料が安い」とかの、労働条件の話じゃなかったのか!
先生:
そう、そこなんだ! さらに言うとね、この4因子は古典的な自己決定理論で言う3つの基本欲求──自律性・有能感・関係性──にキレイに収まるんだ3)。「独立して判断できる裁量」は自律性、「自分の実践が見えている」は有能感、「医師・管理者との関係」は関係性だね。人間が仕事でちゃんと生きるために必要と昔から言われてきた3つの栄養素が、看護師のバーンアウトデータで具体的な職場要因として再発見された、って見方もできるんだよ。
「合わない」の構造 分解すると見えてくるもの
(タップして拡大↑)
ナースちゃん:
じゃあ「合わない」って、ただの愚痴じゃなくて、栄養失調のサインってことですか。急に深刻度上がりましたね。どうでもいいけどスピってる人って、なぜかオーガニックとかサプリとかにもハマりますよね。
先生:
でも、この4つ全部に対して、心理的安全性が間に挟まればバーンアウトを和らげられることも確認されてるんだ1)。ちゃんと、改善する方法はあるんだよ。1,204人の看護師を対象にした縦断研究で、リーダーの支え → 心理的安全性向上 → バーンアウト低下という順番で解決する流れが確認されているよ4)。
ナースちゃん:
ちゃんと順番通りに、リーダーから治せば職場も治る、ってことですね。まあ、リーダーがそう簡単に変われるなら、はじめからこんな職場になってないって話ではありますけど。
先生:
フィンランドで3,260人の看護師を対象にした大規模研究でも、「こんなはずじゃなかった」っていう心理的契約の違反がバーンアウトを増やす一方、心理的安全性があればその悪影響が吸収される、という結果が出てる5)。
ナースちゃん:
こんなはずじゃなかった。それ、最初の病棟で私が毎朝ロッカーの前で思ってたやつです。理想と違いすぎて、制服を着るのに毎回心の中にリトル猪木が必要でしたよ。
先生:
3カウント? それとも、ビンタ? ともあれ、そのときナースちゃんが「看護師は私には合わない」って辞めてたら、今のナースちゃんはいなかったかもしれないね。
「合わないのかも」と思ったときに点検する3つのこと
先生:
明日から使える話に落とそう。「合わないのかも」って頭をよぎったとき、自分を責める前に点検してほしいことが3つあるよ。
「合わないのかも」と思ったときの3つの点検ポイント
(タップして拡大↑)
先生:
ひとつめ。「合わない」の主語を分ける。看護師という仕事が合わないのか、この職場が合わないのか、言葉を分けてみる。多くの場合、問題を抱えているのはあなたの適性じゃなくて、職場との関係のほうだよ。
ナースちゃん:
「看護師が合わない」と「職場が合わない」って、「体調が悪い」と「対応が悪い」ぐらい違いますからね。
先生:
ふたつめ。「声が届いているか」を点検する。提案したら通る? 困ったと言える? NOと言って大丈夫? この3つの質問に全部NOが付くなら、問題があるのはあなたじゃなくて職場の側。
ナースちゃん:
提案通る、困ったと言える、NO言える……。これ、同じ職場でも全部OKになる人もいれば、全部ダメな人もいますね。誰かにとっては良い職場だとしても、万人にそう思えるかはまた別なんですね。
先生:
みっつめ。「助けて」は弱さじゃないと知る。声を上げること自体が、バーンアウトの最大の予防策。「助けて」が言えない職場こそが、「合わない」職場なんだ。
ナースちゃん:
「助けて」って、学生の頃は普通に言えてたはずなのに、看護師免許取った瞬間から言えなくなる呪いありますよね。命を預かる仕事の責任の重さが、そうさせるんですかね。
先生:
辞める選択肢はあっていいんだよ、もちろん。ただ、辞めるときに「看護師が合わなかった」じゃなくて「この職場が合わなかった」って言えるかどうかで、次の一歩が全然変わるんだ。
ナースちゃん:
……ちょっと待ってください。今考えたら、私の4因子、医師との関係・裁量のサポート・実践の可視化・管理者との関係、ほぼ先生ひとりから供給されてません?
先生:
はは、確かにそうかもね。
ナースちゃん:
ちょっとさすがに、システムの脆弱性が気になるんで、しばらく先生のウンチク聞く役は他の人に代わってもらいますね。
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【参考文献】
1)Lisser S, et al. Psychological Safety Associated With Better Work Environment And Lower Levels Of Clinician Burnout. Health Aff Sch. 2024;2(12):qxae147. https://doi.org/10.1093/haschl/qxae147
2)Ma Y, et al. Curbing nurses’ burnout during COVID-19: The roles of servant leadership and psychological safety. J Nurs Manag. 2021;29(8):2383-2391. https://doi.org/10.1111/jonm.13414
3)Ryan RM, Deci EL. Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. Am Psychol. 2000;55(1):68-78. https://doi.org/10.1037/0003-066X.55.1.68
4)Ahmed U, et al. The interplay between servant leadership, psychological safety, trust in a leader and burnout: Assessing causal relationships through a three-wave longitudinal study. Int J Occup Saf Ergon. 2023;29(2):912-921. https://doi.org/10.1080/10803548.2022.2086755
University of Technology Sydney, St Vincent's Hospital Sydney
Visiting Scholar
緩和ケア内科医。自分を見つめなおし、本当は「優しいお医者さん」になりたかったことに気づいて、緩和ケアの世界に飛び込みました。現在はオーストラリア・シドニーで、緩和ケアの質改善や教育に関する研究に携わっています。医療現場の「当たり前」を越えて、皆さんがもう一歩患者さんやご家族に寄り添うためのお手伝いができればと思っています。
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患者対応に差がつく魔法の緩和ケア 第1回スペシャルトーク!
共感ってなに!?
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もう「何もできない」とは言わせない! 口内炎ケアで看護師ができることまとめ
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